アルファベットCEOピチャイ氏がテック業界の規制とサイバーセキュリティへの投資を米国に要求

WSJ Tech Liveカンファレンスで行われたリモートワークの未来からAIの革新、従業員の政治活動、さらにはYouTubeにおける誤情報にいたるまで幅広い話題に及んだインタビューで、Alphabet(アルファベット)CEOのSundar Pichai(サンダー・ピチャイ)氏は、米国における技術革新の現状と新たな規制の必要性について自身の考えを述べた。特にピチャイ氏が強調したのは、米国の連邦レベルのプライバシー基準の創設で、ヨーロッパのGDPR(一般データ保護規則)に類似するものだ。さらに同氏は、中国の技術エコシステムが欧米市場からさらに切り離されていく中、米国がAI、量子コンピューティング、サイバーセキュリティなどの分野で有意を保つことがより一層重要であると提起した。

ここ数カ月、中国はテック企業の締め付けを行っており、テック企業による独占の阻止、顧客データ収集の制限、およびデータセキュリティを巡る新たなルール制定など、新たな規制がいくつも施行されている。Google(グーグル)を含め多くの米国テック企業は中国で中核サービスを提供していないが、提供中のいくつかの企業は撤退を始めている。たとえばMicrosoft(マイクロソフト)は2021年10月、LinkedIn(リンクトイン)を中国市場から引き上げた

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ピチャイ氏は、こうした欧米テック企業の中国との分離は今後増えていく可能性があると語った。

またピチャイ氏は、米国と中国が競合する分野で先行することが重要だと語り、AI、量子コンピューティング、サイバーセキュリティなどを挙げて、Googleによるこれらの分野への投資が、政府による「基礎研究開発財政支援」がやや後退したタイミングで行われたことを指摘した。

「政府のリソースは限られているので焦点を絞る必要があります」とピチャイ氏は話した。「しかし私たちが恩恵を受けているのは20~30年前の基礎的投資からです。現代テクノロジーの多くがこれに基づいており、少々慣れきっているところもあります」と彼は語った。「だから私は、半導体サプライチェーンと量子コンピューティングでリードするために、政府は重要な役割を果たすことができると考えています。それは政策面だけでなく、私たちが世界中から優れた人材を集めたり、大学と協力して長期的な研究分野を作り出すことを可能にすることです」とピチャイ氏は付け加えた。それらの分野は民間企業が最初から焦点を当てられるものではないかもしれないが、10年20年かけて実行できると彼は言った。

国境を超えるサイバー攻撃が増加する中、ピチャイ氏は、サイバーワールドのための「ジュネーブ協定」のようなものが必要な時が来たと語り、政府はセキュリティと規制の優先順位を上げるべきだと付け加えた。

同氏は米国における新たな連邦プライバシー規制に賛成する意見を明確に表明した。これはGoogleは過去何度にもわたって強く要求してきたもので、ヨーロッパのGDPRのようなものを想定している。

「GDPRはすばらしい基盤となっていると私は思います」とピチャイ氏は言った。「私は米国に連邦レベルのプライバシー基準ができることを強く望んでおり、州ごとにバラバラな現在の規制を懸念しています。そのために複雑さが増しています」と彼は続けた。「大企業はさまざまな規制に対応して自らを守ることができますが、小さな会社を始めるためには大きな障壁です」。

これは、Facebook(フェイスブック)CEOのMark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏が規制を求めた際にも再三指摘された問題だ。米国テック業界の規制が強化されることは、FacebookやGoogleのように規制のハードルを超えるためのリソースをもつ大企業に有利に働く。しかし、国が単一の基準を定めることによって、巨大テック企業はただ1つの規則と戦い、米国各州に点在する多くの規則に対応する必要がなくなる。

ピチャイ氏は消費者のプライバシーをセキュリティに結びつけ「プライバシーの最大のリスクはデータが不正アクセスされること」であるとも指摘した。Google最大のライバル、Amazon(アマゾン)のゲーム・ストリーミングサイトであるTwitch(トゥイッチ)がわずか数日前にハックされた後だけに興味深い発言だ。

テック業界の規制でどこに線を引くのかについてピチャイ氏は、法律はオープンインターネットを侵害すべきではないと語った。

「インターネットがうまくいっているのは、相互運用可能で、オープンで、国境を越えた利用が可能で、国境を越えた取引を推進しているからだと私は思っています。だから私たちがインターネットを進化、規制していく上で、こうした特性を維持していくことは重要だと考えています」と同氏は話した。

CEOは他にも、パンデミックが企業カルチャーに与える影響、従業員の政治活動、YouTube上の誤情報などAlphabetとGoogleが直面しているさまざまな問題に関する質問に答えた。

YouTubeの問題についてピチャイ氏は、体験の自由に対する誓約を表明しつつも、最終的には、会社がコンテンツクリエイターとユーザーと広告主のバランスを取ろうとしていることに言及した。同氏は、多くのブランド広告主が自分たちの広告がある種のコンテンツと並んで表示されることを望んでいないと語った。本質的に、YouTubeの広告を基盤とする経済には、誤情報問題の解決に役立つ可能性があることを同氏は示唆した。

「自由市場ベースで考えれば、自分の広告がブランドを損なうと思うコンテンツと並ぶことを広告主は望まない、ということができます。ある意味で、エコシステムのインセンティブが時間とともに正しい判断を後押しすることが実際にあるのです」。

しかしピチャイ氏は、YouTubeは自らがコンテンツの判断を下すことで、パブリッシャーのように振る舞っているのではないか、というインタビュアーの質問はかわした。

ピチャイ氏はパンデミック下におけるAlphabetの企業カルチャーとオフィスへの復帰についても語り、3-2モデル(3日対面と2日リモート)がよいバランスをもたらすと言った。対面勤務日によって共同作業とコミュニティが可能になり、リモート勤務日によって社員は長時間通勤など対面勤務につきものの問題をうまくやりくりできる。しかし、インタビューの別の部分では、ピチャイ氏は少なくなった自身の通勤時間を懐かしんだ。そこは「深く考える」ための空間だったと彼は言った。

従業員の積極活動について。近年多数かつ多様化した従業員が幹部の下した決定と対立する意見を共有することが頻繁に起こり、多くの積極的活動が見られている。ピチャイ氏はこれをビジネスにおける「新常態」だという。しかし、これはGoogleにとってまったく新しいことではないとも指摘した(たとえば数年前、Google従業員は会社が中国市場向けに検閲機能付き検索エンジンを開発していることに抗議した)。

「最近慣れてきたともいえます」とピチャイ氏は語り、会社としてできる最善のことは、決定したことを説明しようとすることだと語った。

「私はこれを会社の強みと考えています、高いレベルで。会社のやっていることをそこまで深く気にかけるほど熱心な従業員がいるのですから」と彼は言った。

画像クレジット:Kenzo Tribouillard / Getty Images

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(文:Sarah Perez、翻訳:Nob Takahashi / facebook

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TechCrunch Japan

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