アルメニアとディアスポラ(民族離散)の効用

世界は小さな国たちにとっては厳しい。技術が未来だということは、誰でも知っている。しかし、米国、中国、EU、そしてインドと競合していくときに、その未来の分け前をどのように確保すれば良いのだろうか?

少ない人口、限られた資本、潜在的な頭脳流出という三重苦に直面する中で、成功した国際ビジネスの経験者たちが次々にスタートアップを設立したり投資を行うような、技術的富と技術教育の繁栄したエコシステムを構築するにはどうすればよいだろうか?私の祖国カナダのように裕福で成功した国でさえ、しばしばこれに苦労している。

そこで、例えば想像して欲しいのがアルメニアだ(私はいまそこでこの原稿を書いている)、以前ソビエト連邦の一部だったこの地域は、コーカサス山脈の中で、あまり友好的ではない隣人たちに囲まれた人口300万人の小国となった。私がここに来たのは、アルメニア政府が参加費用を負担するかたちで、世界中で開催されているような、無数の大きな技術会議のひとつ、World Congress of Information Technology(WCIT、世界情報技術会議)を主催しているためだ。この会議でアルメニア政府は国際的な注目を集め、アルメニアの技術産業への投資を引き出したいと願っている。

これは現実離れした構想に思えるかもしれない。アルメニアは自身を「旧ソビエト連邦のシリコンバレー」と自称していて、その技術産業は昨年の「 ベルベット革命 」で重要な役割を果たした。とはいえ、それはまだ世界の比較的目立たない片隅にある人口300万人の国である。しかし、アルメニアには魅力的な秘密兵器がある。ディアスポラ(民族離散。海外に散らばった民族)だ。

20世紀にその祖国を襲った困難な歴史のおかげで、今ではアルメニア本国よりも多くのアルメニア人が、世界中に分散して居住している。ロスアンジェルスの数十万人のコミュニティも有名だ。それは「世界で最大かつ最も洗練されたディアスポラの1つ」である。もちろんそこには文化的な変容も見られる。だが同時に、ロサンゼルスやモスクワに、遠く離れた友人や親戚のいないアルメニア人を見ることはほとんどないと確信している。

このとても大きく緩やかに編み上げられた、ディアスポラネットワークの効果は重要だ。それは、時には直接的に、そしてしばしば間接的に、米国のクライアント、ドイツの大学、そしてロシアのパートナーたちへとつながる。ベンチャーキャピタリストスタートアップインキュベーターとの国際的なつながりもある。そして頭脳流出だけでなく頭脳流入にもつながっているのだ。それは、アルメニアが単なる人口300万人の内陸国というだけではなく、無意識の戦略によって世界中に離散した1000万人の文化が息づいているということなのだ。これは、とてもとても強力な立場である。

テクノロジーが分散コミュニティ間の絆を短縮し強化するにつれて、それらは文化的、財政的、そして最終的には政治的にさらに成長するだろうと、私は以前論じている。(そしてもちろん、技術は多くの派生産業を可能にする。WCITのスポンサーの1つは、急成長している洗練されたクラウドファンディングマーケティング会社で、旧ソビエトブロックの伝統的な強さをもつものではない)。アルメニア人のディアスポラは、この理論を検証するための自然な実験と呼ぶことができる。

この自然な実験を通して、アルメニアのテクノロジー、観光、およびその他のディアスポラが強化する分野を、この秘密兵器が大きく推し進め続けるかどうかが検証される。もしそうなったなら(私はそうなると思っているが)、次はどの分散コミュニティがその後に続くのかを眺めるのは、特に興味深いことになるだろう。そしてそれらが特定の国民国家と連携していくのかどうかを。

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(翻訳:sako)

投稿者:

TechCrunch Japan

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