アーリーステージでの大型資金調達の弊害――フラットラウンドが普通になる日

【編集部注】執筆者のDuncan DavidsonはBullpen Capitalのジェネラルパートナー。

スタートアップエコシステムにとって、2017年は苦難の年になるだろう。2016年にクローズされたシリーズCの約半分が、ダウンもしくはフラットラウンドだった(評価額が直近のラウンドと同じ、もしくはそこから下降した)のだ。シリーズBの段階にある企業はこれから痛みを覚悟しなければいけない。要するに、フラット(ラウンド)は新しいアップ(ラウンド)なのだ。頭字語で溢れるテック界にあえて新しい語を投じるのであれば、「FITNU: Flat Is The New Up」ということになる。

しかも、この変化はシリーズBで止まることはないだろう。もしもあなたの会社がシリーズAを既にクローズしていて、今年新たに資金を調達しようとしているのであれば、この記事の内容があなたの会社を救うことになるかもしれない。あなたの企業がシードステージにあれば、もっとこの記事が参考になるだろう。

何が起きたのか?

複数の投資家によれば、2017年は転換期になるはずだった。アメリカでは2016年のVCファンドの調達総額が過去最高の420億を記録し、私たちは既にバブルを乗り越えたはずではなかったのか?

実はそうではなさそうなのだ。ユニコーン企業をいわゆるプライベートIPOに仕向けていたVCが動揺しはじめた2015年にバブルが弾け、彼らの投資意欲が下がってしまった。これにより、VCコミュニティ全体が勢いを失い、膨大な数のシードラウンドと高い評価額を支えきれなくなったのだ。その結果、少数の企業に投資が集中することになった。

PitchBookの調査によれば、アメリカにおけるシードラウンドの数は、2015年Q2の1537件から2016年Q4の872件へと43%も落ち込んだ。これは過去4年間で最低の水準だ。アーリーステージのラウンド(シリーズA、B)もこれに続き、2014年Q2の830件から2016年Q4は524件まで減少した。

その一方で、ひとつひとつの調達額は膨れ上がっている。2016年に行われたシードラウンドのうち、100〜500万ドル規模の割合は42%で、これは過去10年間におよぶPitchBookの調査史上最高だった。さらに、2016年にアーリーステージ企業に投じられた資金のうち、約半分が2500万ドル以上の規模のラウンドに流れこんでいた。

PitchBookの調査を裏付けるように、Redpoint VentureのTomasz Tunguzも2010年から2016年の間に、シードラウンドの調達額の中央値が27万200ドルから75万ドルへと約3倍に増えたと指摘している。Crunchbaseのデータをもとにした彼の分析では、同じ期間にシリーズAの調達額の中央値が300万ドルから660万ドルへ、シリーズBについては1000万ドルから1500万ドルへと増加したとされている。

なぜフラットラウンドが増えているのか?

バブル期には、シードステージの企業をターゲットとするVCが急増したため、シード資金を獲得できるスタートアップの数も増加した。しかし、シリーズAの企業をターゲットにしたVCの数はほとんど増えなかったので、ファンドの調達額だけが増大した。そして、VCは自分たちのビジネスのニーズに応えるため、1件1件の投資額を吊り上げたのだ。

しかし残念なことに、1000〜200万ドル規模の”超大規模な”シリーズAに値するスタートアップはほとんど存在しない。その結果、シードラウンドを越えてシリーズAまでたどり着く企業の数が急減したのだ。シードラウンドに続いてシリーズAでの資金調達に成功した企業の割合は、2012年の約25%から2014〜2016年にかけて10%以下に下がったとPitchBookは発表している。その後、多くのシード企業が追加資金を調達することに成功したので、恐らく現在の割合は20%といったところだろう。これでも、かつての45〜50%という水準に比べるとかなり低い。

早過ぎる段階で巨額のシリーズAをクローズした企業の多くが、シリーズBでも大金を手にして現金を食い尽くし、シリーズCに至る頃には評価額がそのままか、最悪の場合落ち込んでしまうという現象も起きている。先述の通り、2016年Q3に行われたシリーズCの約半数がダウンもしくはフラットラウンドだったのだ。

この理由は次の通りだ。例えば、シリーズAで投資家が25〜30%分の株式と引き換えに1000万ドル投資したとする。そうすると、ポストマネーの評価額は3300〜4000万ドルになる。シリーズBへの参加を考えている投資家は、シリーズBのプレマネー評価額がシリーズAのポストマネー評価額の少なくとも2倍になることを望んでいるが、もしもその水準に達していなければ、シリーズCまで投資を待った方が良いと考えるのだ。

バブル期であれば、評価額を2倍にするのは何ら難しいことではないので、当時のスタートアップは流れに乗ってシリーズBをクローズした。しかし、市場が冷静さを取り戻した結果、シリーズCでの彼らの評価額はシリーズBと同等、もしくはそれ以下になってしまったのだ。この流れは、今後シリーズCからB、A、シードへと侵食していくだろう。つまり、Mark Susterの見解とは逆に、まだ冬の時代は終わりを迎えていないのだ。

“リシード”ステージ

今年、シリーズA企業は、シリーズBを開催できるレベルまでプレマネーの評価額を上げるのに苦労するだろう。万が一、フラットもしくはダウンラウンドになってしまった場合は、”リシード”のタイミングだ。つまり、シードラウンドをクローズした直後の企業のような姿を目指し、できるだけコストを抑えるようにしなければいけない。

多くのファウンダーが、フラット/ダウンラウンドがスタートアップの”死”を意味するかのように考えている。この理由には、株式の希薄化と対外的な意味での数字のインパクトの両方がある。

しかし、株式の希薄化によって倒産に追い込まれた企業は存在しないし、外からの評価はフラット/ダウンラウンドの後に、その会社がどういう対応をとったかで決まる。新しい現実に沿って組織を改変できたのであれば、その会社は魅力的に映るのだ。ダウンラウンド後に組織の贅肉を落とし、より持続可能なモデルを構築できれば、ダウンラウンド自体は問題ではなくなる。

しかし、シリーズAでの優先株の発行数を考えると、資本構成はもっと難しい問題だと言える。もしも、あなたのスタートアップがシードラウンドで200万ドルを調達し、株主は200万ドル分の優先株を手に入れたとする。さらにシリーズAで1000万ドルを調達し、ここでも調達額分の優先株を発行したとしよう。すると、合計1200万ドル分の優先株が発行されたことになり、さらにここに返済しなければならない負債が加わってくる。

まともな投資家であれば、シードラウンド後の評価額で1200万ドル分もの優先株を発行した企業を好ましくは思わないだろう。さらに、シリーズBをクローズした後に”リシード”の必要性がでてくると最悪だ。そうなると2500万ドル分、もしくはそれ以上の優先株を発行したことになる。何としてでもリシード期間中に、優先株の割合を減らしたいところだ。これはバーンレートを下げるよりもずっと難しい。

次は誰の番?

「フラットは新しいアップだ」というのは、バブル後の状況を表すひとつの表現だ。2014、2015年に期待されていた企業は、シリーズCでフラット/ダウンラウンドを経験した。そして、シードラウンドで100万ドル、シリーズAで1000万ドル調達したような企業が、現在シリーズBに臨もうとしている。しかし、そのうちの多くは、シードラウンド後の企業の姿を目指し、社員を減らし、キャップテーブル(各株主の保有割合や株価などが記載された表)を見直すことになるだろう。廃業に追い込まれるよりは、リシードの道を選んだ方がマシだ。矛盾しているようにも思えるかもしれないが、従業員が少ない方が争いが減り、成長スピードが上がる可能性もある。結局のところ、まだ準備ができていない状態で大規模なシリーズAを敢行したのがそもそもの間違いだったのかもしれない。

シード企業も、明日は我が身と気を引き締めなければならない。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

投稿者:

TechCrunch Japan

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