イスラエルのサイバーセキュリティ企業への投資に関するトレンド

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【編集部注】本記事はYL Venturesに勤めるYoav Leitersdorf(パートナー)、Ofer Schreiber(パートナー)、Iren Reznikov(アナリスト)によって共同執筆された。

世界全体で見ると、サイバーセキュリティ業界のスタートアップに対する投資は2016年に一段落したように感じる。しかし同分野でアメリカに続く市場規模を誇るイスラエルでは、投資額が急増した上、イノベーションの勢いも落ちておらず、2016年も素晴らしい結果に終わった。

伸び続けるイスラエル企業への投資

CB Insightsは、2016年のサイバーセキュリティ業界における投資案件数や投資金額が、2015年のピーク時に比べて減ったという調査結果を発表した。その背景には、同業界に対する投資が過剰なのではないかという投資家の考えがあったとされているが、私たちが調査したところ、イスラエルの特にスタートアップ投資については、喜ばしいことに逆の結果が出ている。

2016年には83社のサイバーセキュリティスタートアップが新たに設立された。これは2015年の81社から微増しているともに、起業活動やイノベーションが減退していないということを表している。

さらに新設されたスタートアップの多くは、大手企業の社員やスタートアップの幹部として数年間だけ経験を積んだ、若い実業家によって立ち上げられた企業だった。一方昨年以前は、経験豊富な人たちがサイバーセキュリティ界のスタートアップを率いていることがほとんどだった。

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成功の種まき

驚くことに、2016年に設立されたスタートアップの36%が、既にシードラウンドで資金を調達している。ちなみに昨年の数字はたった15%だった。

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そして平均調達額も、昨年の250万ドルから285万ドルへと増加した。

一方で経験の重要さも目立ち、シード投資を受けたスタートアップの67%は経験豊富な経営陣によって運営されている。

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そしてシード投資を受けたスタートアップの中には、2016年以前に設立された企業ももちろん存在する。設立年に関わらず、シード資金の調達を行った企業の平均調達額を算出すると、2015年の230万ドルに対し、2016年は270万ドルだった。

調達資金額の大幅な増加

サイバーセキュリティ業界全体の投資案件数も、2015年の62件から2016年は72件へと増加した。

そして企業の段階に関わらず、全てのサイバーセキュリティ企業への投資額を足し合わせると、2015年の5億6000万ドルから、2016年は6億8900万ドルと23%増加した。これは各企業がイノベーションを生み出し続け、成長のために巨額の資金を調達しているということを表している。

また2015年と2016年の、企業の段階に応じた調達額を比較してみると面白いことがわかる。いわゆるアーリーステージにある企業への2016年に行われたシードラウンド、シリーズAラウンドでの投資額は、それぞれ2015年から24%、91%増加した。一方シリーズBの調達額は52%も急落したのだ。

シリーズBの金額が大きく減少した背景には、スタートアップがそれよりも前のラウンドで十分な資金を調達し、うまくやりくりができているためだと私たちは考えている。シリーズAで巨額の資金を調達した企業の例としては、ClarotyFireGlassSafebreachTwistlockなどが挙げられる。

グロースステージにある企業への投資を見てみると、調達資金総額は2015年から2016年にかけて212%に急増しており、各スタートアップが将来的に大企業になるための資金をうまく調達できていることがわかる。ForeScoutSkybox Securityも2016年に数千万ドルを調達し、IPOが視野に入ってきた。

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アツい分野

企業の段階に関係なく、去年はニッチもしくは何かに特化したサービスに加えて、プラットフォーム型のソリューションが、サイバーセキュリティ業界では投資家に人気だった。具体的にはモバイルセキュリティ、脆弱性・リスクマネジメント、ネットワークセキュリティ、SCADAシステム、インシデントレスポンスなど従来からあるITの分野だ。

しかし一般的にスタートアップは、新しいタイプのリスクに対応するための新しいサービスの開発に力を入れていることが多い。例えば2016年に新設されたスタートアップに人気の分野は、IoTセキュリティ、ドローンセキュリティ、サイバー保険で、その他には前述のような脆弱性・リスクマネジメントやモバイルセキュリティなどを扱う企業も誕生した。IoTデバイスやドローンに搭載されているような新しいテクノロジーが誕生すると、いつも一緒にセキュリティ上の問題が生まれる。それをチャンスと感じた企業が、革新的なソリューションで問題解決にあたっているのだ。ドローンセキュリティのApolloshieldがその典型だ。

また、サイバー保険や脆弱性・リスクマネジメントへの投資額が増えていることから、企業はセキュリティブリーチのリスクをコントロールしたり、低減させたりするるのに役立つ管理ツールを求めているということがわかる。どこに脆弱性があるのかを理解(して対策をとる)ことで、サイバー保険の料金を下げることができ、これがサイバーアタックを受けたときにかかる大きなコストを打ち消している。この分野は2017年に投資家から特に注目されるようになると私たちは考えている。

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イグジットに関するトレンド

被買収企業の数は2016年よりも2015年の方が多かったが、イグジットに関しては興味深いトレンドが誕生した。ひとつめのトレンドには、CASB(Cloud Access Security Broker)という重要なカテゴリーに含まれるふたつの企業が関わっている。そのふたつの企業とは、昨年Ciscoに買収されたCloudlockと、Proofpointに買収されたFireLayersを指し、両社の買収は2015年のMicrosoftによるAdallomの買収とつながるところがある。Gartnerが発表した、2016年の情報セキュリティテクノロジートップ10にも含まれているCASBは、統合期を迎えつつあり、大手企業が実績のあるスタートアップを買収しようとしているのだ。

ふたつめのトレンドは、自動車セキュリティテクノロジー市場におけるものだ。自動運転車やコネクテッドカーの登場とともに、自動車を守るソリューションの必要性が高まってきた。というのも人間の命が関わってくる自動車に間違いは許されないからだ。2015年後半から2016年にかけて、イスラエルでは無数の自動車セキュリティスタートアップが立ち上げられ資金を調達していた。例えばKaramba Securityは2016年に投資を受け、Towersecはこの分野で初めて他の企業に買収された。私たちはまだこのトレンドがはじまったばかりだと考えている。

2016年中にイグジットを果たした企業の数は多くなかったが、これは必ずしも悪いわけではない。むしろ多くの企業(特にグロースステージにある企業)が十分な資金を調達できているため、評価額が低いまま急いでイグジットするよりも、スケールアップを目指そうとしているのだ。

最後のトレンドとして、2015年は若い起業家が率いるスタートアップのイグジットが多く見られた一方、昨年イグジットを果たしたサイバーセキュリティー企業のほとんどでベテランが経営層を占めていた。このトレンドについて、2016年は若い起業家がレーターステージでの資金調達に努め、イグジットを急ぐよりも、会社のスケールに注力していたのだと私たちは考えている。

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成熟しつつあるイスラエルのサイバーセキュリティ業界

世界的にはサイバーセキュリティ業界への投資が減速する一方、イスラエルの同業界は成長を続け、企業はこの厳しい時期にも巨額の資金調達に成功している。イスラエル企業が生み出すイノベーションは、新たなセキュリティの分野が次々と生まれる中での唯一の光だといえる。より多くの企業が追加の資金調達を行い、イグジットまで会社を成長させ続けている様子は、まさにサイバーセキュリティー業界の成熟を象徴している。

2017年もきっと好調が続いていくことだろう。私たちはイスラエルのサイバーセキュリティスタートアップが、海外に進出した後もイノベーションを生み出し続けることができると楽観視している。というのもデータ・プライバシー保護、年々レベルの上がるサイバー攻撃への対策に関する政府の厳しい規制に対応するために、効率的なソリューションを求める企業の数は増え続けている。そして私たちの統計から、今後何年にもわたって世界のサイバーセキュリティ市場を変える力をもった企業が、今後も活気あふれるイスラエル市場から誕生し続けるということがわかっているのだ。

記事の中で触れた新進気鋭の起業家やスタートアップの多くは、サイバーセキュリティ業界では(アメリカを除く)世界最大規模の展示会Cybertech Israelで紹介される予定だ。

編集部注:共同執筆者の3人が勤めるYL Venturesは、Karamba Security、Twistlock、FireLayersに投資している。

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。