インキュベイトファンド、起業志望者向けのEIR(客員起業家)制度を開始

インキュベイトファンドが起業家以外のビジネスマンも対象にして開催している業界研究コミュニティ「Fellow Program」。6月8日からこの中でEIR(Entrepreneur in Residence:客員起業家)向けのコースがスタートした。インキュベイトファンドが認めた人材に対して奨励金を提供。半年〜1年の期間で起業までの支援を行う。

「大人」のビジネスマンが集うFellow Program

まずはそもそものFellow Programについて紹介する。このプログラムは2014年にスタートしたもの。特定の業界や事業領域の研究や、その領域での起業などに興味のある人材に対して、月額3万円までの奨励金を提供している。これは起業家向けに限定したプログラムではなく、コンサルや外資系金融、メーカーや士業など、現時点で就職しているような人材も対象にしている。

メンバーは月次勉強会や都度開催される分科会に参加。研究・調査の結果を発表するほか、イベントなどで参加者間の交流を図る。また、立ち上げを検討する事業や起業のプランのメンタリングを受けることができる。

僕も前回の勉強会の様子を見させてもらったが、20人ほどの参加者が1カ月の進捗を共有し、その後3人の参加者が1人20分ほどのプレゼンを行って参加者同士での質疑応答をする、というものだった。今後その領域での起業を計画しているという人もいたので詳細は伏せるが、IoTや金融といった領域の現状分析やその領域での新規事業の可能性など、発表内容も質疑も、かなり具体的な話がされているというのが印象的だった。

プログラム参加者の中にはすでに起業している、もしくは現在起業の準備を進める人もいると聞いたが、参加者は20代後半から30代以上が中心。一般的なインキュベーションプログラムと比較すると年齢的にもキャリア的にも「大人」な人が多く、起業にも興味あるが、まずは自分の専門性を生かせる領域について深く調査したいという人が中心という印象だ。冒頭でも業界研究コミュニティと書いたが、リサーチとかシンクタンクとかいったような雰囲気を感じた。プログラムを手がけるインキュベイトファンド代表パートナーの和田圭祐氏も「意図的に(そんな雰囲気を)作っている」とのこと。

大きいビジネスを始めるための準備期間に

今回開始したEIRコースは、和田氏いわく「ネットに精通してるだけでは立ち上げられない非常に重たいテーマや大きいテーマで起業を志す人たち向け」とのことで、フェロープログラムの中でも明確に起業を前提にしたものだという。

年始に発表した新ファンド設立の際にも、IoTのほか、グローバル、レガシーマーケットといった比較的大きい規模のビジネスに対して数億円単位での投資をしていくとしているインキュベイトファンド。だがこういった領域に進出する場合、低コストで立ち上げられるネット完結のサービスとは異なり、それなりの資本が必要になるし、ビジネスが成功するかどうかの検証が終わる前に起業してしまうことのリスクが大きい。そこでまず検証の時間を作ろうというのがEIRコースの目的だという。「シード、アーリーステージで億単位で投資するに当たっての準備期間を設けたい」(和田氏)

インキュベイトファンドの指定する書類を提出した上、面接と筆記での試験でEIRの採択を決定する。条件としてあるのは、兼業ではなくEIRとしての事業に専業するということ。契約期間は半年から1年を予定。奨励金は在職時の月収額を参考にするとしている。金額について具体的な話は聞けなかったが、在職時とほぼ変わらない生活をしつつ、起業の準備ができるようにリビングコスト(生活費)を提供する」(和田氏)。また採択者には、ビジネスノウハウを提供するほか、今後の資金提供も検討する。

既存の業界を破壊するような大きなビジネスを作ろうとするのであれば、調査や研究に時間をかけるにこしたことはない。これまでの生活のコストを得つつそれが可能になるこのプログラムは、大きな事業を企画する人にとって有効な選択肢になるかもしれない。

投稿者:

TechCrunch Japan

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