インドで貯め込まれるばかりの情緒的な資産である「金」を市場流通させるindiagold

インドの人々のほとんどは、どのような形式であれ、信用力を証明するクレジットスコアを持たないために、正規の金融機関からの融資にアクセスできない

その代わりに、質店などの非正規の機関を利用するか、あるいは最近ならば、書類の手続きなしでローンを提供するアプリが候補になる訳だが、時には1000%もの高額な金利を請求され、また返済が遅れでもすれば、スマホの連絡先の誰かに迷惑がおよぶこともある。

(Googleは最近、このことを察知し、2021年1月にインドのPlay Storeからこうしたアプリを何百個も削除したのだが、残念なことに家族、同僚、社会の厄介者になることを恐れて自殺する人が現れるまで、こうしたことが表沙汰になることはなかったのだ)

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そこでゴールドの出番である。

何世代にもわたり、どのような社会経済的な立場のインド人でも、蓄えたお金の少なくとも一部をゴールドに換えて密かに隠すことを好んで行ってきた。実際、インドにはゴールドに対する高い需要があり、インド国民は他のどの国の人たちよりも多くのゴールドを貯め込んでいる。この南アジアの国は、世界有数の貴金属の輸入国でもあるのだ。

インドの人たちはゴールドを、金融市場の浮き沈みから身を守るための貯蓄の手段として利用するだけでなく、借り入れを起こすための資産としても利用している。ただし、ゴールドをジュエリーなどのかたちで売り払うことにはスティグマがある。貧困のあまり、生活のために取っておいた最後の持ち物を質入れしなければならなかった、ということになってしまう。

家庭内に封印されたこうしたゴールド(World Gold Councilの推計によれば、インド人は2万5000トンのゴールドを密かに保有し、これは現在の価値にして約147兆円以上にもなる)は、経済の引き上げにもひと役買っている。3分の1でも現金化すれば、GDPの成長率を2%押し上げられるとアナリストはいう。ゴールドは何十年も価格が下がらないすばらしい安全資産として、銀行などの金融機関が好む資産だ。

インドで最も価値あるスタートアップのPaytmの元幹部、Deepak Abbot(ディパック・アボット)氏とNitin Misra(ニティン・ミスラ)氏の2人は、ゴールドを担保とした融資にデジタトランスフォーメーションを起こすことで、この問題を解決できると信じている。

ニューデリー市もやはり、ゴールドマネタイゼーションスキームのような取り組みを通じて、貯め込まれたゴールドを市場に流通させようといくつかの試みを行ってきたものの、今のところあまり成功しているとは言えない。

ゴールドを手放すよう説得することの難しさの本質は、それが情緒的な資産だからだ。ミスラ氏とアボット氏はTechCrunchのインタビューに答えてそのように説明している。インドでは、金のジュエリーは力強さと誇りの象徴であり、家族が未来の世代へと受け継がせるものなのだ。

「インドでは州、宗教、コミュニティに関わらず、ゴールドにある種の慶事の感情が込められています。それは崇高なものであって、免税やプレミアム価格などと引き換えに、ネックレスなどのジュエリーを溶かして、その形をなくしてしまうなどということは、想像すらできません」とミスラ氏は説明する。

これとは別の難しさがある。家族の非常事態やその他の抜き差しならない事情により(それはしばしば最後の手段になるのだが)どうしてもゴールドを売らなければならない人がいるとして、その売却プロセスでは、一族の大切な財産を質に入れるというスティグマゆえに、多くの人が気まずく恥ずかしい思いをすることになる。

近年、一部の企業とスタートアップが銀行と協働し、顧客の玄関先まで訪問することで、こうしたスティグマを取り払う試みを実践しており、部分的には成功をおさめている。

ディパック・アボット氏とニティン・ミスラ氏(画像クレジット:indiagold)

アボット氏とミスラ氏(写真)には、もっと良いアプローチと大きなアイデアがあるという。

インドでは多くの人々がゴールドの貯蔵やその他の貴重品を銀行の貸金庫に預けて保有するのだが、その料金は月額65ドル(約6800円)にもなる(とはいえ、銀行からは年払いを求められる)。銀行の貸金庫にはデメリットもある。こうした貸金庫にたどり着くには長いプロセスがあって、最短でも半日はかかる。貸金庫の中の物品に対する保険もない。また、サービスを利用するには数百ドル(数万円)のセキュリティデポジットがかかる上、サービスを受けられるにしても長い待機期間を経なければならない。

アボット氏とミスラ氏は彼らが新しく発掘したスタートアップのindiagoldを通じて、同じような貸金庫サービスを月額わずか1.36ドル(約142円)で提供している。これには中身の貴重品のすべてに対する保険も含まれている。2人によれば、これは貴金属を安全に貯蔵するための手段をより簡単に便利に提供するというアイデアだ。

「indiagoldアプリにサインアップすると、当社のエージェントがご自宅へ伺い、ゴールドの検査と計量を行い、すり替え防止用のバッグに保管します。当社ではこのバッグにRFIDタグも貼付しており、一度スキャンした後は、開封しようとするとすぐにわかります。このバッグを鋼製のボックスに入れ、お客様の指紋を使ってロックします。一連の作業は当社のエージェントがすべてボディーカメラでキャプチャします。お客様の自宅を離れて指定の金庫に到着するまで、カメラフィードがリアルタイムでお客様にストリーミングされます」とミスラ氏はいう。

犯罪率が上昇する中、ジュエリーの安全を守るアイデアに異を唱える人はほとんどおらず、財産に保険がかけられるとすればなおさらだ、と2人は説明する。indiagoldでゴールドを預ければ、このスタートアップのアプリに財産の価格がリアルタイムで表示され、融資限度額を提示してもらえる。審査には数秒しかからない。

「お客様がローンを希望しない場合はそれで良いのです。必要になったときには、ゼロタッチのオプションがあるのです。ご自分のゴールドがご自分の指紋で、貸金庫に安全に保管されているとわかっていますから、ジュエリーを溶かされたり壊されたりする心配はありません。融資限度額を知りたければ30秒以内に知ることができます。誰かと話したり、誰かに訪ねて来てもらったりする必要はありません」と同氏。

「複数のジュエリーを預けた場合、その一部を担保にして融資を受けることができます。近々行事があるからネックレスが必要になるとわかっていれば、同じ貸金庫の別のジュエリーを担保にしてローンを組むことができます。当社が請求するローン金利は最高で1%です」。

これは、2020年後半に運営を始めたばかりのindiagoldが取り組もうとしている問題の一部に過ぎない。

同社は、顧客の信用力を判定するプラットフォームを構築し、この未開拓のマーケットに手を伸ばそうとしている銀行やその他の貸手向けにAPIを提供している。

現在デリー首都圏で運営しているこのスタートアップは近年、Leo Capitalが主導した資金調達ラウンドで200万ドル(約2億939万円)を獲得した。このラウンドに参加した大物投資家にはCredのKunal Shah(クーナル・シャー)氏、PineLabsのAmrish Rau(アムリッシュ・ロウ)氏、SnapdealのKunal Bahl(クーナル・バール)氏とRohit Bansal(ロヒット・バンサル)氏、BharatPeのAshneer Grover(アシュニール・グローバー)氏とBhavik Koladiya(バービック・コラディヤ)氏、CredのMiten Sampat(ミテン・サンパット)氏およびMX PlayerBoatのSameer Mehta(サミール・ミータ)氏、Innoven CapitalのAshish Sharma(アシッシュ・シャーマ)氏、Alteria CapitalのAnkit Agarwal(アンティック・アガーワル)氏、MyMoneyMantraのRahul Soota(ラウール・スータ)氏、LivspaceのRamakant Sharma(ラマカンタ・シャーマ)氏、そしてBlume Founders Fundが名を連ねている。

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「この巨大なマーケットに本気で取り組むには、これしか方法がないと思います。私たちはより多くの労力を傾け始めています」と、ミスラ氏は語っている。

カテゴリー:ネットサービス
タグ:インドゴールドindiagold資金調達

画像クレジット:gmutlu/iStock / Getty Images

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(文:Manish Singh、翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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