インドの独占禁止監視機関がWhatsAppのプライバシーポリシー変更に対する調査を命じる

WhatsApp(ワッツアップ)が計画しているポリシー変更は、このインスタントメッセージングサービスが最大のユーザー数を抱えるインドで順調に進んでいない。同国の独占禁止監視機関であるインド競争委員会は現地時間3月24日、Facebook(フェイスブック)傘下のWhatsAppが、ポリシーの更新を装い現地の独占禁止法にあたる競争法に違反しているとして、同社のプライバシーポリシー変更に関する調査を命じた(PDF)。

インドの監視当局は、WhatsAppの新ポリシーを調査し「ユーザーの不本意な同意によるデータ共有の全容、範囲、影響を確認」するよう、同国の事務局長(DG)に命じた。事務局長は、60日以内に調査を完了し、報告書を提出するよう命じられている。

インドの監視当局はこの命令の中で、WhatsAppのプライバシーポリシーと利用規約の「嫌なら使うな」的な本質について「WhatsAppが享受している市場での地位と市場支配力を考慮すると、詳細な調査が必要である」と述べている。

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これに対しWhatsAppの広報担当者は声明で「インド競争委員会との交渉を楽しみにしています。WhatsAppは、エンド・ツー・エンドの暗号化によって人々の個人的なコミュニケーションを保護し、これらの新しい任意のビジネス機能がどのように機能するかについて、透明性を提供することに引き続き取り組んでいます」と語っている。

「WhatsAppは顕著なネットワーク効果を享受しており、インドのインスタントメッセージング市場に信頼がおける競合他社が存在しないことから、個人情報保護の観点における水準を妥協できる地位にあり、ユーザーベースの減少を恐れることなく、『オプトアウト』などのユーザーフレンドリーな選択肢を保持する必要がないと判断できる立場にあると思われる。さらに、WhatsAppを継続したくないユーザーは過去のデータを失う可能性がある。なぜなら、WhatsAppから他の競合アプリにデータを移植することは、面倒で時間のかかるプロセスであるだけでなく、すでに説明したようなネットワーク効果により、ユーザーがアプリを切り替えることは困難だからだ。以上のことは、ポリシー変更によって代替アプリへの移行を希望するユーザーの乗り換えにともなう代償を増大させ、強調するものである」と、インド競争委員会の命令文には書かれている。

「プライバシーポリシーの2021年の更新により、事業者はFacebookのような第三者のサービスプロバイダーに、通信内容を送信、保存、読み取り、管理、その他の処理を行うことができるアクセス権を与えることになる。Facebookが企業にサービスを提供する際には、収集したデータの使用を条件とする可能性もある。DGは調査の際にこれらの点についても調査することになるだろう」。

今回の動きは、WhatsAppが2021年5月に施行を予定している新たなポリシーのアップデートをめぐり、インドで繰り広げてきた数カ月に及ぶ法定闘争に続くものだ。インド政府は先週、WhatsAppが計画しているプライバシーアップデートがいくつかの点で現地の法律に違反していると主張した。また、連邦政府はデリー高等裁判所に提出した書類の中で、WhatsAppがインドでアップデートを実施することを阻止するように裁判所に求めてもいる。

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2021年初め、インドのIT省はWhatsAppの責任者であるWill Cathcart(ウィル・カスカート)氏に書面を送り、アップデートとその影響について「重大な懸念」を表明し「提案された変更を撤回するよう求め」ていた。

WhatsAppは2021年初めから、その懸念を払拭するためにインド政府に協力してきた。しかし、インドはFacebookの説明に納得していないようだ。インドの監視当局は、強い言葉で書かれた命令の中で「Facebookは新しいアップデートの直接的かつ隣接的な受益者であり、このような状況下でFacebookがアップデートの潜在的な影響についてまったく知らないふりをして、それについての見解の提供を避けているのは言語道断である」と述べている。

20億人以上のユーザーに利用されているWhatsAppは、2016年から親会社のFacebookと一部の情報を共有している。それ以来、利用規約を大幅に更新していなかった同社は、2020年、電話番号や位置情報など、ユーザーの個人データをFacebookと共有するために、いくつかの変更を行うと発表した。

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2021年1月にWhatsAppは、アプリ内のアラートを通じて新規約への同意をユーザーに求めたが、これに対して一部のユーザーは即座に反発。数千万人のユーザーがSignal(シグナル)やTelegram(テレグラム)などの競合サービスを求めるようになったため、WhatsAppはユーザーに新しい規約を確認するための期間をさらに3カ月間設けると発表した。

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月間アクティブユーザー数が4億5千万人を超えるインドは、WhatsAppにとって、そしてその親会社であるFacebookにとっても、最大の市場だ。この巨大ソーシャル企業は近年、インドを重要な市場にすることに賭けており、そのための投資を倍増させている。2020年はインド最大の通信事業者であるJio Platforms(ジオ・プラットフォームズ)に57億ドル(約6211億円)を投資した。この会社は、インドで最も裕福な人物であるMukesh Ambani(ムケシュ・アンバーニ)氏が経営している。

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カテゴリー:ネットサービス
タグ:インドプライバシーWhatsApp独占禁止法

画像クレジット:Dhiraj Singh / Bloomberg / Getty Images

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(文:Manish Singh、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

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TechCrunch Japan

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