インフォステラが6000万円を調達、人工衛星との通信手段を「クラウド化」で低コストに

人工衛星向けアンテナシェアリングサービスを手がけるスタートアップであるインフォステラがシードラウンドで6000万円の資金を調達した。フリークアウト、500 Startups Japan、エンジェル投資家の千葉功太郎氏に対して第三者割当増資を実施する。

同社のビジネスモデルは、人工衛星のための通信リソースを効率よくシェアすることでコストを下げ、使い勝手を高めるというものだ。いわば衛星通信インフラのクラウド化だ。同社は「宇宙通信分野のAWS(Amazon Web Services)になりたい」(取締役COOの石亀一郎氏)と話している。

打ち上げられる人工衛星の数は急増しているのに対して、人工衛星の運用に不可欠な地上局の運用コストは高価なまま──同社はここに目を付けた。

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インフォステラの提供するサービスの概念図。既存の地上局のアンテナ、同社の無線機、それにクラウドサービスを組み合わせ、人工衛星運用に欠かせない「通信機会」を効率よくシェアして提供する。

低コスト人工衛星の需要増に対応し、地上局との通信機会を提供

商用宇宙開発のブームについては読者はすでにたくさんの話題を耳にしていることだろう。イーロン・マスクのSpace X、ジェフ・ベゾスのBlue Originが再利用可能な打ち上げロケットを開発し、日本では堀江貴文氏が後押しする小型ロケットのスタートアップであるインターステラテクノロジズ(ITS)がチャンスをうかがっている。彼らが目指すのは、より低コストな人工衛星打ち上げ手段を提供することだ。背景には人工衛星の需要が急増していることがある。

特に超小型人工衛星の需要が急増している。以下のグラフを見てほしい。低コストを特徴とする超小型人工衛星(Cube Sat)の打ち上げ数を示すグラフだが、2013年から2014年にかけて打ち上げ数が年間100機のラインを突破して急増していることが分かる。「打ち上げる衛星の予約は先まで詰まっていて、今はロケットがネックになっている。安いロケットがあればバサバサ決まる状態にある」(石亀氏)。

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超小型人工衛星(Cube Sat )の打ち上げ数は急増している。Satellite Industry Reportより引用。

打ち上げ手段と人工衛星の需要が揃えば、次に解決すべき課題は通信手段の確保だ。人工衛星を追尾可能なアンテナを備えた地上局の設備は有限の資源だ。さらに、超小型人工衛星が投入される低軌道では人工衛星が視野に入る可視時間が短く、一つのアンテナで通信できる時間は1回あたり十数分にとどまる。つまり、人工衛星との通信機会は希少性がある資源なのだ。

こうした背景から、人工衛星向け通信手段を提供する企業は数が限られており(ノルウェーKSAT、スウェーデンSSCが寡占状態にあり、最近ではRBC Signalsが登場している)、価格も高止まりしているのが実情とのことだ。つまり、スタートアップの参入余地がある分野ということだ。

人工衛星の需要増に伴い、人工衛星と地上局との間のデータ通信の需要も急増している。例えばリモートセンシングによる地上の画像のデータを集めて気象、交通量などのデータを抽出する取り組みが盛り上がっているが、こうした分野では大量の画像データを人工衛星から地上局へ転送する必要がある。地表をくまなく撮影できる人工衛星を打ち上げても、通信機会を十分に増やさなければ取り出せる画像データが限られてしまう。

インフォステラが狙うのは、既存の地上局のネットワークを作り、通信機会という資源を効率よく配分し、低コストで顧客に供給することだ。衛星通信に必要なアンテナは既存の設備を借りる。ただし、通信機は自社開発のものを使う。衛星通信分野では標準規格が確立していないことから、幅広い周波数帯(バンド)に対応できる通信機を開発して適用することで通信機会を増やす狙いだ。

クラウドサービスは大規模なサーバーインフラを多数のユーザーでシェアし、手軽かつ低コストに時間課金で利用できるようにする。同様に、インフォステラのサービスでは世界各地に散らばる人工衛星用の地上局をパス(通信機会)単位の課金で利用できるようにする考えだ。地上局設備の初期投資なしに、人工衛星との通信機会(パス)を買うことができるのだ。

宇宙開発では、自分たちの人工衛星のために地上局のアンテナを設置してきた事例が多い。ただし、自分たちの人工衛星の運用に使うだけではアンテナの空き時間が長く、稼働率は低いままとなる。アンテナ保有者にとって、アンテナの空き時間を売ることができれば新たなビジネス機会となる。

創業メンバーは宇宙と無線のプロ

インフォステラは2006年1月の設立。創設メンバーはCEOの倉原直美氏、COOの石亀一郎氏、社外取締役の戶塚敏夫氏の3名である。

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超小型人工衛星「ほどよし」1号機の外観。形状は1辺約50cmの立方体で質量約60kg。

桑原直美CEOは人工衛星の地上システムのプロフェッショナルだ。東京大学で、内閣府の最先端研究開発支援プログラム(FIRST)に採択された超小型衛星「ほどよし」のプロジェクトにおいて地上システム開発マネージャーを務め、北海道大樹町における人工衛星データ受信用パラボラアンテナと運用管制システムの設置にも関わった。なお、「ほどよし」プロジェクトは人工衛星スタートアップであるアクセルスペースが参加していることでも知られている。

石亀一郎COOは、学生時代に宇宙ビジネスに関するメディアastropreneur.netを運営し、アニメグッズのフリマアプリを運営するセブンバイツのCOOを経験している。今回で2度目のCOOへの挑戦となる。社外取締役の戶塚敏夫氏は無線機メーカーのエーオーアール取締役専務だ。エーオーアールはインフォステラのシステムに必要となるユニバーサル無線機の開発も手がけている。

創業メンバー以外に、顧問として超小型人工衛星の第一人者である東京大学の中須賀真一 教授(前述の「ほどよし」プロジェクトの中心人物でもある)と、元ヤフーCTOで現在フリークアウト執行役員の明石信之氏が名前を連ねている。

アドテク、Web、IoTの技術を投入

ところで、今回のシードラウンドで筆頭に挙がっている投資家はアドテクノロジーを手がけるフリークアウトである。前出のフリークアウト執行役員の明石氏はインフォステラに対してエンジニアリング面での支援を行っているとのことだ。

ここでは取材内容から想像できる部分を記すに留めるが、アドテクノロジーと衛星通信との関係は、どうやらあるようだ。アドテクノロジー分野では、ユーザーが広告を閲覧する機会(インプレッション)と広告主のニーズとをマッチングする仕組みがビジネス価値の源泉となっている。一方、インフォステラのビジネスでは、人工衛星が地上局と通信できる通信機会(パス)という資源と、人工衛星を運用するユーザーとのマッチングがビジネスの根幹となる。この部分で、Webやアドテクノロジーで培った技術的なノウハウが役に立つ──らしい。

インフォステラでは、「今回のシード投資をテコにエンジニアの求人を活性化させたい」(石亀氏)と話している。同社が作り上げているのは、人工衛星用のパラボラアンテナと接続した通信機から取り出したデジタルデータをリアルタイムに処理し、さらにクラウドサービスに吸い上げて処理する仕組みである。いわゆるエッジコンピューティングやAWSのIoT向けの機能群などの最新技術を投入する必要があるとのことだ。

宇宙ビジネスに取り組む起業家が活躍し、人工衛星打ち上げが増え続けていることから、人工衛星向けアンテナシェアリングサービスの必要性も増していく。同社のチャレンジに期待したい。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。