インフルエンサーの“個人ブランド”が主流の時代へ 、D2C基盤「picki」が5つのファッションブランドを公開

「これからは個人が立ち上げたパーソナルブランドが主流になる」

そう話すのはインフルエンサーのファッションブランド作りを支援するD2Cプラットフォーム「picki」を手がけるpicki代表取締役の鈴木昭広氏だ。

同社では服作りやブランド作りのノウハウを持っていない個人でも自身のブランドを作れるように、企画から生産、物流までの工程を全面的に支援するサービスを手がける。鈴木氏の表現を借りれば「出版社が企画段階から入って作家をプロデュースするように、ブランドの企画段階から入ってインフルエンサーをプロデュースする」のがpickiの役割だ。

そのpickiは10月15日より、人気インフルエンサーが手がける5つのファッションブランドを順次リリースする。

インフルエンサーの個人ブランド作りを全面バックアップ

今回pickiが発表したのは2019年秋冬物シーズンにリリースする5ブランド。バチュラーのシーズン3に出演する中川ゆり氏を始め、田島ひかる氏、佐々木ののか氏、Rinkarin氏、anna氏の5名が各々のファッションブランドを開設する。pickiにとっても本格的なブランドのリリースは今回が初めてだ。

pickiは冒頭でも触れた通り、インフルエンサーのもの作りに伴走するプラットフォーム。社内にデザイナーを始めとしたプロフェッショナルを抱えるとともに、パートナー工場や生地店とのネットワークを活用することで商品の「企画、生産、販売、発送」をトータルでプロデュースする。

従来のアパレル産業では分業体制が進んでいたため、消費者の手に商品が届くまでの工程を複数のプレイヤーが分担していた。一方「D2Cプラットフォーム」を謳うpickiではその中間に位置していた商社やメーカー、卸売、小売店の業務をまるっと担い、消費者に直接商品を届ける。中間業者が減ればマージンも減るため、その分だけ利益率も高くなりインフルエンサーの取り分も増える構造だ。

創業者の鈴木氏は、pickiを始める前に韓国や日本でアパレルOEM会社を経営していた人物。その後「世界に挑戦できるような事業をやりたい」という思いから、約1年半の間に世界50ヶ国以上を回ったそうだ。

「海外では日本のものづくりに対する評価が高かったことに加え、ちょうどアメリカでD2Cモデルのブランドが勢いを増していた。この領域なら自分でも挑戦できると考え、2017年に日本で再び会社を立ち上げた」(鈴木氏)

最初はアパレルOEMの経験も生かしD2Cブランドの立ち上げを下請けすることからスタート。いくつかの案件に携わる中で、特に伸びていたのがインフルエンサーが立ち上げた個人ブランドだ。

わずか1週間で1000万円規模の売上を記録するブランドがいくつか生まれたほか、世の中には年商で二桁億円規模に達するようなものも登場。そういった影響から最近ではインフルエンサーによるブランド立ち上げ事例がどんどん増加していっているという。

「これまでECで売れていたのはマス向けのものが中心だったが、近年はロングテールのエッジが効いたブランドがより売れるようになってきている。その中でアパレル企業のデザイナーが1人で何十ものデザインを考えてPDCAを回していくやり方よりも、コミュニティの中心にいる人が、熱狂的なファンに対して自らデザインした商品を届けていくスタイルが広がっていくのではないかと考えるようになった」(鈴木氏)

それならばインフルエンサーが自身でブランドを作ってしまえば良いと思う人もいるだろうけど、多くのインフルエンサーは服作りやブランド立ち上げのプロではない。そこでpickiのように全体をプロデュースできるプレイヤーが求められるわけだ。

国内でもインフルエンサーのブランド立ち上げをサポートする会社はいくつかあるものの、鈴木氏によると「実は韓国から買い付けてきた商品のタグを変えて販売しているケースも多い」そう。完全にオリジナルでこだわりのブランドを作れることはpickiのウリとなっている。

ブランド作りの過程をエンタメ化しファンを巻き込む

pickiで展開するような個人ブランドにおいては、いかにファンを巻き込み熱量の高いコミュニティを築けるかが1つのポイントになる。その上で鈴木氏が重要視しているのが「ブランドを作る一連の過程自体をエンタメ化すること」だ。

ブランド作りにかける思いをまとめた記事や制作過程を追った映像をInstagramを中心としたSNSやECサイトを通じて発信したり、生地や服の型、袖の色などに対するファンの意見を各工程ごとに募ったり。服作りのストーリーをファンと一緒に作っていくことで強固なコミュニティができるという。

「よく話しているのが『7割のサンプル』を作るということ。あえて3割の余白を残すことで、ファンの人たちが一緒にものづくりに参加できる隙間を設ける。たとえばサンプルの段階で試着会を開き、着心地やボタンの色や形のような細かいデザインに対してフィードバックをもらう。そうするとファンの人たちは『この服は自分が一緒にデザインした』と感じることができ、コミュニティに対して一層愛着がわく」(鈴木氏)

鈴木氏はこの仕組みがうまく機能することで「実際に売る前から商品が売れるモデル」が成立すると話していた。

もちろん個人を軸としたコミュニティから生まれたブランドには課題もある。そのコミュニティがよっぽどの影響力を持たない限り、そこまで大きな規模には育たないという点だ。

鈴木氏もそれが1つの欠点であるとした上で「30億円などの大規模なブランドではなく、年間で1億円〜数億円売れるブランドが作れればいい」と話す。

「季節ごとに複数の型数の商品を作れば、数百〜数千人のコミュニティでも年間1億円規模は十分に目指せる。自分たちの目標はそういったニッチなブランドを100個生み出すこと。どんどんブランドを作っていけばデータが蓄積され、この領域で日本で1番データを持っている会社になる。そうすればブランド間でナレッジを横展開したり、データに基づいてコミュニティを育てていくこともできる」

「ニッチでも尖っているブランドは海外にも需要があると考えている。売れてるものをコピーして同じような商品を作ったり、他国から仕入れてきたものを自社ブランドとして海外に展開していくのは難しい。自分たちがやらなきゃいけないのは日本発の尖ったブランドを立ち上げ続けることだ」(鈴木氏)

「ブランドメイクカンパニー」としてブランド開発を加速

左からGOコピーライター 飯塚政博氏、picki代表取締役 鈴木昭広氏、GO代表取締役 三浦崇宏氏

pickiでは今年5月にサイバーエージェント・キャピタル、Coral Capital 、VOYAGE VENTURES、コルクらから6000万円の資金調達を実施したことを発表していたが、今回新たにクリエイティブカンパニーのThe Breakthrough Company GOと資本業務提携を締結したことも明かしている。

株主との連携については、たとえばpickiで最初にインフルエンサーの原体験を聞き出す際に、コルク代表取締役会長の佐渡島庸平氏直伝の質問集が使われているそう。今後はそこにGOのナレッジもプラスしながら、ファッションブランドを立ち上げたいインフルエンサーを支援する「ブランドメイクカンパニー」としてブランド作りを加速させていく計画だ。

「当初から思い描いているのは『日本のものづくりをエンタメ化して、誰もがクリエイターになれる世界』を実現すること。YouTuberが動画を作って稼げるように、個人がファッションクリエイターとしてブランドを立ち上げ稼げるような世界を作っていきたい」(鈴木氏)

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TechCrunch Japan

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