イーロン・マスク氏のラスベガスループの旅客輸送能力は想定より大幅に少ない可能性

新型コロナウイルスの感染拡大前まで、米国最大の電子機器見本市CESには17万人を超える参加者が集い、そのため会場周辺の道路は日夜渋滞していた。そうした混雑を少しでも吸収しようと、ラスベガス・コンベンションセンター(LVCC)は昨年、会場を拡大するのに使う旅客輸送手段を計画した。展示会場と駐車場の間を毎時最大4400人の参加者の移動を可能にする輸送手段を求めていた。

LVCCは、1回の運行で参加者数百人をシャトル輸送できる従来型のライトレールを考えた。しかし、結局イーロン・マスク氏のThe Boring Company(ザ・ボーリング・カンパニー、TBC)による地下システムを選んだ。(未訳記事)。これは主に、マスク氏の提案のほうが数千万ドル(数十億円)安かったからだ。LVCCのLoop(ループ)は、地下に掘った長さ0.8マイル(約1.3km)のトンネル2本の中を4人ないし5人が乗り込んだTesla(テスラ)車両を走行させてイベント出席者を輸送するというものだ。

しかしTechCrunchがレビューした計画ファイルではLoopシステムは、LVCCが望むほどの人数を運ぶことはできないようだ。TBCも認めた。

Loopシステムには3つの駅があるが、その1つでの乗降ゾーンの収容人数は1時間あたり800人だと防火法規は判断している。ほかの駅も同様の上限となれば、システムが1時間に輸送できるのはわずか1200人ということになり、これは当初約束された輸送能力の約4分の1だ。

もしTBCが目標とするパフォーマンスを達成できなければ、同社は建設予算の1300万ドル(約14億円)超をもらうことはできない。そしてシステムの運用が始まれば、罰金が科せられることになる。

TBCもラスベガス観光局(LVCVA)も複数回にわたるコメントの求めには応じなかった。

防火法規は車近くの乗降ゾーンの収容人数を1時間800人に制限している(画像クレジット:TBC/Clark County)

LVCCは常に、Loopについてはギャンブルだと認識していた。マスク氏はロサンゼルス近くにデモンストレーション用の短いトンネルを掘ったが、実際にはラスベガスが客・サービス要件を伴う初の公共システムになる。ラスベガスCarolyn Goodman(キャロリン・グッドマン)市長の2019年5月の分析では、TBCの証明されていないシステムはLVCCの母体LVCVAにとってハイリスクとなると結論づけた。

そのため、LVCVAがThe Boring Companyと契約を結んだとき、マスク氏が約束したものを提供するよう促すのに最善を尽くした。契約は固定価格となる見込みで、TBCはすべての支払いを受けるには特定のマイルストーンを達成しなければならない。トンネル掘削完了で(いつ完了してもおかしくない)、TBCは総額の30%余りを受け取る。次の大きなマイルストーンはシステムの完成で、そうなれば1000万ドル(約11億円)超の支払いを受けることになる。

システムは10月1日完成予定で、本来なら1月のCESショーに間に合うはずだった。しかし、CES 2021はバーチャルで行われることになり、マスク氏にかかる時間的なプレッシャーは減ったが、おそらく同氏はまだ支払いを求めているだろう。

10月12日の週にマスク氏は、システムが1カ月かそこらでオープンし、駅の最終仕上げ作業が残っているとツイートした。

テストと安全レポートの完了というもう1つのマイルストーンを達成すれば、何人の乗客を輸送できるかというのがシステムの最終課題になる。もしLoopが1時間に客2200人の輸送能力を示すことができれば、TBCは440万ドル(約4億6000万円)を受け取る。そして3300人を達成すれば再び同じ額をもらえる。4400人達成のときも同様だ。輸送能力に応じた支払いの総額は固定契約金の30%に相当する。

TBCがもしそうした輸送能力をテスト中に達成したとしても、システム運用後にその能力を維持できないかもしれないとLVCVAは懸念していた。なので、もう1つの要件を加えていた。「全施設を使ったトレードショーイベント向けのシステム輸送能力を提供できなかった場合、損害賠償が適用されることに(TBCは)同意する」。

大規模なイベント開催ごとに、TBCが1時間あたり平均3960人の輸送を13時間提供できなかった場合、同社はLVCVAに賠償金30万ドル(約3150万円)を支払わなければならない。もしTBCがずっと輸送をフルに提供できず賠償金を支払い続けた場合、その額は最大450万ドル(約4億7000万円)になる。

では、TBCそしてLVCVAが望む輸送能力を阻むものは何か。地下交通システム向けの火災予防規則があり、火災が起こった時の混雑を避けるために警音、スプリンクラー、非常用出口、最大収容人数などが定められている。

TBCが提出した建設計画にはLoopの地上駅の1つにかかる消防規則分析が含まれている。

画像クレジット:The Boring Company/Clark County NV

上の計画のスクリーンショットには「Tesla(テスラ)車両に乗降するエリアのピーク時の最大収容人数は7.5分ごとに100人で、これは1時間あたり乗客800人に相当する」と記されている。たとえ他の駅の収容人数がこれよりも多くてもシステムの時間収容人数は1200人に制限される。

「それは正しいと思われます」とニューヨークにある刑事司法を専門とする大学ジョン・ジェイ・カレッジ・オブ・クリミナル・ジャスティスのセキュリティ、火災、非常事態管理の教授Glenn Corbett(グレン・コルベット)氏は話す。「しかしそれがボトルネックなら、安全の観点からの疑問は(1時間800人に)どうやってコントロールするかです。それは純粋にルールを運用する人間の誠実性に頼るのか、それとも人々を締め出すための機械的な仕組みが用意されるのか」。

計画には入場を制限する改札口や障害物は示されていない。

安全制限の件がなくても、Loopは目標収容人数の達成には苦戦するかもしれない。Loop駅の10の区画はそれぞれ1時間たり乗客100人をさばかなければならず、各車両が何人を運ぶかにもよるがおそらく100超の到着と出発に対応することになる。そうすると、人々や荷物の乗降のための時間はわずかで、0.8マイルの輸送やときどき行われる充電については言うまでもない。

  1. Loop4

  2. Loop5

  3. Loop6

  4. Loop7

TBCのLoopウェブサイトにはシステムには自動走行車両が使われると書かれているが、TBCの幹部は昨年、計画委員会に車両が「追加の安全のために」人間のドライバーを乗せるかもしれないと伝えた。TBCはLoop向けに最大16人乗りの大型自動走行シャトルの開発を提案した。しかし最新の提案では従来のセダンが活用されており、マスク氏は今週「我々はかなりこれをシンプルにしました。現時点では基本的にトンネルの中を走行するのはテスラだけ」とツイートした。

TBCが提出した最新の資料にはまた、Loopの元のデザインに変更が施されていることが示されている。

印象的なカーブしたルーフはなくなり、地上駅はいま、テスラ車両の充電に活用する平らな太陽光発電の天蓋を有している。これらのターミナルステーションはそれぞれにSupercharger(急速充電)ステーションが備えられ、地中のトンネルで使われているのと似ているコンクリートセグメントでできている「彫刻の展示」も置かれる。

中央の地下駅には大きなオープンプラットフォームがあり、電気設備や安全設備、IT機器などを備える。各駅にはテスラ車両10台が客を乗降させる区画がある。

最初のLoopを運行する前だが、TBCは近くにもう2つのLoopトンネルを掘ることを計画している。 LVCCをウィン・アンコール・アンド・リゾーツ・ワールド・カジノにつなげるためだ。

アンコールへのトンネルは、安全規則に則って途中に緊急出口を設ける必要があるほどに長いものだ。計画には緊急出口シャフトと小さなハッチが示されているが、火災や故障から逃れる乗客が階段あるいは梯子をのぼることが想定されているのかは不明だ。

画像クレジット:The Boring Company/Clark County NV

TBCは昨年、提案しているボルチモアとワシントンD.C.をつなぐLoopに緊急梯子を盛り込んだ。動きに制限のある乗客のことを考えていないとして、コルベット氏が「狂気の定義」と呼んだシステムだ。このプロジェクトはいま一時停止している。

TBCの公式目標は、LVCC Loopを地元の人々の移動手段から、ストリップ区域、空港、ゆくゆくはロサンゼルスにもつながるようベガス全体の輸送システムに広げることだ。同社が旅客輸送能力、そして小規模のコンベンション・センター・システムからの売上高に苦戦しているのなら、野心で描いた将来は疑わしいかもしれない。

カテゴリー:モビリティ
タグ:イーロン・マスク、The Boring Company、CES

画像クレジット: Maximilian Müller / Getty Images

[原文へ]

(翻訳:Mizoguchi

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。