ウイスキー熟成の加速加速させるデータ駆動型プロセス開発のBespoken Spiritsが約2.8億円調達

ウイスキーの熟成を加速し、特定のフレーバーを生み出す新しいデータ駆動型プロセスを開発した、シリコンバレーのスピリッツメーカーであるBespoken Spirits(ビースポークン・スピリッツ)が、米国時間10月7日、260万ドル(約2億8000万円)のシード資金を調達したことを発表した。投資家には、ワイナリーClos de la TechのオーナーであるT. J. Rodgers(T.J.ロジャーズ)氏や元野球選手のDerek Jeter(デレク・ジーター)氏も名を連ねている。

同社は、かつてBloom Energy(ブルーム・エナジー)、Blue Jeans(ブルー・ジーンズ)、そしてMixpanel(ミックスパネル)の幹部だったStu Aaron (ステュー・アーロン)氏と、また別のBloom Energy卒業生のMartin Janousek(マーティン・ジャノセック)氏によって共同創業された。ジャノセック氏の名前はBloom Energyが所有する多くの特許上で見ることができる(特許参照サイト)(特許参照サイト)。

熟成を加速させる課題に挑戦するスタートアップはBespokenが初めてではない。これは、通常木の樽の中で行われる、蒸留酒の熟成にかかる時間を、最小化しようとする試みだ。同社は、自身がACTivation(アクティベーション)テクノロジーと呼んでいる手法と、機械学習ベースのアプローチを組み合わせたのは、初めてだと主張している。

「蒸留酒を樽に入れ、自然のなりゆきを受動的に待って、偶然に頼って何が起こるかを見守るのではなく、私たちは独自のACTivationテクノロジーを使用します。A、C、Tはそれぞれ、アロマ(香り)、カラー(色)、テイスト(味)を意味しています。この手法は樽の成分を蒸留酒に注入し、優れた品質の特製蒸留酒を生み出すために工程と化学反応を積極的に制御するのです。そして、そのことを数十年単位ではなく数日単位で行えるようにするのです」。

もちろんこのテクノロジーには、特に職人的なアプーロチを誇るビジネスの中では、多くの懐疑の目が向けられている。だが一方で、同社は多くのコンテストで受賞を果たしているのだ。チームは、蒸発によって製品の20%が失われ、再現することが難しい従来の樽熟成は無駄なプロセスだと主張している。また、従来の熟成には時間がかかるため、ビジネスのスタートアップには経済的な課題も発生させ、イノベーションも困難になる。

共同創業者が私に語ったところでは、同社のビジネスには3つの柱がある。独自ブランドの蒸留酒の販売、ブレンド業者や蒸留業者のための「サービスとしての熟成処理」(Maturation-as-a-Service)提供、そして小売店、バー、レストラン向けのカスタムプライベートラベル蒸留酒の製造だ。当面チームが焦点を合わせるのは、主に後の2つ、特にサービスとしての熟成処理ビジネスだ。アーロン氏が述べたように、現在多くのクラフト蒸留所が財政的負担に直面しており、在庫のロックを解除して市場により早く出せることが、しかもおそらくこれまでに比べてより良い品質で、つまりより高い価格で売れることが望まれている。

また少なくとも米国では、既存の製品を使ってブレンドを行うブレンド業者の市場も存在している。こうした業者も、工程を改善し、再現可能性を高める方法を模索している。

興味深いことに、多くの醸造所もまた新型コロナウィルスの感染蔓延のために過剰なビールや期限切れのビールに苦しんでいる。「彼らは、そのビールを回収して処分するために費用をかけるのではなく、それをリサイクル、まあより良い表現としてアップサイクル(付加価値付きリサイクル)して、ビールを蒸留し、ウイスキーにできることに気がついたのです」とアーロン氏は語る。「しかし残念ながら、醸造所がビールをウイスキーへと蒸留しても、普通あまり良いウイスキーにはなりません。そこで私たちの出番となります。多くの人が初期蒸留品と呼ぶ、そうしたビールを蒸留した製品を、私たちは受け入れて高品質のウイスキーに変えることができるのです」。

Bespokenはまた、いくつかの食料品チェーンと協力して、既存のブランドの外観や味に一致する、またはまったく新しいエクスペリエンスを提供する、独自ブランドの特注ウイスキーを製造している。

チームがこれを行う方法は、工程全体で多くのデータを収集し、テイスティング委員会に製品の評価を依頼するというやり方だ。そのデータをシステムにフィードすることで、同社は結果を再現するか、必要に応じて微調整するかを決めていくことができる。しかも樽が成熟するまでに何年も待つ必要はないのだ。

「私たちはこうしたすべてのデータを収集しています。現在収集しているデータの一部には、何に使用するのかさえ、まだわからないものもあります」とジャノセック氏はいう。多くの場合、Bespokenは独自の技術を使用して新規顧客向けに数十種類のサンプルを作成し、そこから絞り込む作業を支援する。

「私はよく、自分たちの会社を23andme(遺伝子検査キット企業)、Nespresso(ネスプレッソ)、Impossible Foods(インポッシブル・フーズ)をかけ合わせたものだと表現しています」とアーロン氏。「まず私たちは23andmeに似ています。繰り返しになりますが、顧客の好みを結果に対するレシピへとマッピングしようとしているからです。ちょうどビッグデータを用いた、ゲノムマッピングのような作業を伴うのです。また私たちの企業はNespressoにも似ています。私たちは蒸留酒を受け入れて供給ユニットを生み出します。もっとも私たちの場合は供給ユニットが小さなカプセルではなく、産業規模ですけれど。そしてまた、私たちはImpossible Foodsのような存在でもあります。なぜなら、私たちは古くさい時代遅れのモデルを、完全に異なるものへと再定義しようとしているからです」。

同社は、新しく得た資金を利用して、市場での勢いを加速し、技術開発をさらに進めることを計画している。そのハウスブランドは現在、カリフォルニア州、ウィスコンシン州、ニューヨーク州で販売されている。

T.J.ロジャーズ氏は「品質と多様性の両方を提供できる会社の能力が、私の注意を強く引き投資したいと思わせた理由です」と語る。そして「彼らは短期間のうちに、ウイスキーからラム酒、ブランデー、テキーラまで、信じられないほどのレンジの一流のスピリッツをすでに生み出しています。これらはすべて、それぞれブラインドテイスティングや一流の品評会で何度も検証されているのです」。

免責事項:Bespokenは私にいくつかのサンプルを送ってくれた。私はそれらをレビューできるほどのウイスキー愛好家ではないものの、それらを楽しめたということだけは責任をもっていうことができる。

カテゴリー:人工知能・AI
タグ:Bespoken Spirits、ウイスキー

画像クレジット:Bespoken Spirits

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(翻訳:sako)

投稿者:

TechCrunch Japan

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