ウェブのオープンソースインフラストラクチャの公平化に1.4億円の助成金

オープンソースのソフトウェアは、事実上すべてのオンラインの中核をなしていると言えるだろう。しかし、その大部分は何らかの方法で注意深く維持されている一方で、基礎的な要素が必要とするような精査を受けていないものもある。こうした状況を背景に、米国時間3月3日、130万ドル(約1億4130万円)相当の助成金が発表され、オープンソースのソフトウェアと開発がより公正に、持続可能的に、そして責任を持って行われるようにすることを目指す13のプロジェクトに配分された。

これらの研究プロジェクトでは、オープンソースのデジタルインフラストラクチャーがどのように利用され、維持されているか、あるいはどういった影響を受けているかについて、いくつかの問題を調査する。例えば多くの自治体では、政府のソフトウェアソリューションのニーズの高まりを受けてこの種のインフラに依存しその構築を進めているが、そのプロセスはどうなっているか。どういうアプローチやフレームワークが成功するのか、そしてその根拠は何か、といったことである。

また、大規模なオープンソースプロジェクトに貢献している民間企業が互いに協議することは往々にして少ないものだが、どのように意思疎通して優先順位や依存関係を共有するのか。その状況を改善できる方法はないか、また費用や給付金の面で対処し得ることはあるだろうか。

こうした諸問題は、単一の機関や地方自治体が自発的に取り組むようなものではなく、もちろんその研究にかかる費用はささいなものではない。しかし、専門家チームは2020年、約250のアプリケーションを分類した結果、十分に興味深い(そして新しいアプローチや製品を生み出す可能性が高い)と判断した。

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この助成事業は、Ford Foundation(フォード財団)、Alfred P.Sloan Foundation(アルフレッド・P・スローン財団)、Open Society Foundations(オープン・ソサエティ財団)、Omidyar Network(オミダイア・ネットワーク)、Mozilla Open Source Support Program(モジラ・オープンソース・サポートプログラム)がOpen Collective Foundationと協力して資金を提供し、組織している。

「フリーでオープンソースのインフラストラクチャーのニーズと潜在的なアプリケーションを調査するための資金が不足しています。オープンソースの背景にある公益の問題は見逃されている部分です」とフォード財団で補助金プログラムを率いているMichael Brennan(マイケル・ブレナン)氏はいう。

「財団の理事長であるDarren Walker(ダレン・ウォーカー)氏はかつて『公正な社会は公正なインターネットに依存している』と語っていました。私たちの課題はどうすればそのようなインターネットを構築できるのか、誰もが平等に利用できる公正なインターネットを創造し維持できるのか、ということです。私たちは実際には答えよりも多くの懸案を抱えていますが、そうした懸案事項に対する研究に資金を提供している人はほとんどいません」

適切な懸案事項を見つけることでさえ課題であり、基礎研究においてはこれが期待されている。フィールドでの初期の作業は、実際の行動指針を示唆するべく作業の範囲と一般的な方向性を確立することを目的としており、もどかしいほど汎用的であるか、決定的でないように思われることがある。

「最終的なポートフォリオは、 『客観的に最良』なだけのものではなく、いかにして多様なアプローチやアイデアを模索し、プロジェクトのさまざまな側面に取り組むか、そしてプロジェクトの多岐にわたるグローバルな性質を象徴するかということに帰結しました」とブレナン氏は語った。「2021年は研究と実装の両方の提案を採用しました。この研究が、公平で持続可能なインフラストラクチャの構築につながることを期待しています」

研究概要の全文はこちらから。概略と提案者の名前は以下のとおり。

  • How are COVID data infrastructures created and transformed by builders and maintainers from the open source community?(オープンソースコミュニティのビルダーやメンテナーは、COVIDデータインフラストラクチャをどのように作成し、変革しているか? )– Megan Finn(メーガン・フィン)氏(ワシントン大学、テキサス大学、ノースイースタン大学)
  • How is digital infrastructure a critical response to fight climate change?(気候変動対策において、デジタルインフラストラクチャはどのように重要な役割を果たしているか?) – Narrira Lemos de Souza(ナリラ・レモス・デ・スーザ)氏
  • How do perceptions of unfairness when contributing to an open source project affect the sustainability of critical open source digital infrastructure projects?(オープンソースプロジェクトに貢献する際の不公正の認識は、重要なオープンソースデジタルインフラストラクチャプロジェクトの持続可能性にどのような影響を与えるか?) – Atul Pokharel(アトゥル・ポカレル)氏(ニューヨーク大学)
  • Supporting projects to implement research-informed best practices at the time of need on governance, sustainability, and inclusion.(ガバナンス、持続可能性、包括性に関するニーズが発生した際に研究に基づいたベストプラクティスを実施するプロジェクトの支援。)– Danielle Robinson(ダニエル・ロビンソン)氏(Code for Science & Society)
  • Assessing Partnerships for Municipal Digital Infrastructure.(自治体のデジタルインフラストラクチャのためのパートナーシップの評価。) – Anthony Townsend(アンソニー・タウンゼント)氏(コーネル・テック)
  • Implement recommendations for funders of open source infrastructure with guides, programming, and models.(ガイド、プログラミング、およびモデルを使用した、オープンソースインフラストラクチャの出資者に対する推奨事項の実装。) – Eileen Wagner(アイリーン・ワグナー)氏、Molly Wilson(モリー・ウィルソン)氏、Julia Kloiber(ジュリア・クロイバー)氏、Elisa Lindinger(エリサ・リンディンガー)氏、Georgia Bullen(ジョージア・ブレン)氏(Simply Secure & Superrr)
  • How we can build a “Creative Commons” for API terms of Service, as a contract to automatically read, control and enforce APIs Terms of service between infrastructure and applications?(インフラストラクチャとアプリケーション間のAPI利用規約を自動的に読み込み、制御、施行するための契約として、API利用規約のための「クリエイティブ・コモンズ」をどのように構築するか?) – Mehdi Medjaoui(メフディ・メジャウイ)氏(APIdays、LesMainteneurs、Inno3)
  • Indian case study of governance, implementation, and private sector role of open source infrastructure projects.(オープンソースインフラストラクチャプロジェクトのガバナンス、実装、および民間セクターの役割に関するインドの事例研究。) – Digital Asia Hub
  • Will cross-company visibility into shared free and open source dependencies lead to cross-company collaboration and efforts to sustain shared dependencies?(共有のフリーおよびオープンソースの依存関係を企業間で可視化することは、共有された依存関係を維持するための企業間のコラボレーションと努力につながるだろうか?) – Duane O’Brien(ドウェイン・オブライエン)氏
  • How do open source tools contribute towards creating a multilingual internet?(オープンソースツールは多言語インターネットの構築にどのように貢献するか?) – Anushah Hossain(アヌーシャ・ホセイン )氏(UCバークレー)
  • How digital infrastructure projects could embrace cooperatives as a sustainable model for working.(デジタルインフラストラクチャプロジェクトは協同組合を持続可能な労働モデルとしてどのように取り込むことができるか。) – Jorge Benet(ジョージ・ベネット)氏(Cooperativa Tierra Común)
  • How do technical decision-makers assess the security ramifications of open source software components before adopting them in their projects and where can systemic interventions to the FOSS ecosystem be targeted to collectively improve its security?(技術的な意思決定者は、オープンソースソフトウェアコンポーネントをプロジェクトに導入する前に、そのセキュリティの影響をどのように評価し、FOSSエコシステムへの組織的な介入はそのセキュリティを集合的に改善するためのターゲットとなり得るか?) – Divyank Katira(ディヴィヤンク・カティラ)氏(Centre for Internet & Society in Bangalore)
  • How can African participation in the development, maintenance, and application of the global open source digital infrastructure be enhanced?(グローバルなオープンソースデジタルインフラストラクチャの開発、維持、および適用へのアフリカの参加をどのように強化することができるか?) – Alex Comninos(アレックス・コムニノス)氏(ICTアフリカ、RIAとケープタウン大学の研究)

プロジェクトにはまもなく助成金が支給され、2021年の後半(または準備ができ次第)には主催者が成果を発表できるようなイベントを企画する。ブレナン氏は、資金提供者はプロジェクトに関与せず、研究を自ら保有したり発表したりしないことを言明した。理に合致するところで調整し、サポートを提供するということだ。

また、130万ドルというのも興味深い数字だ。場合によってはそれは微々たるものかもしれない。スタートアップは1、2カ月でその金額を使い果たすこともある。しかし学術的な観点から言えば、10万ドル(約1084万円)というのは、仕事をやり遂げるか、断念するかの違いになり得る。フォード財団をはじめとする支援団体の慈善活動や無償援助活動の一環として、基層への小規模な注入がより良い環境を作り出すことを期待したい。

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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