ウクライナがロシアにハッキングで対抗する「IT部隊」を募集し反撃、テックリーダーにも参加を呼びかけ

ウクライナがロシアの一方的な侵攻に対抗するために現地の一般市民を動員し武器を与える中、ウクライナ国外で力になりたい人々は、バーチャルワールドでの戦いに参加するよう要請されている。G7(米国時間2月27日に日本も参加)が結集して国際銀行システムのSWIFTからロシアの銀行を締め出そうとしている一方で、ウクライナ政府はデベロッパーたちに向けて、具体的なサイバー攻撃の任務を負ったIT部隊への参加を募るキャンペーンを行っている。政府はテック企業のリーダーにも、それぞれの役割を果たすよう名指しで呼びかけている。

IT Army of Ukraine(ウクライナIT部隊)」は26日に発表され、すでに同部隊のメインTelegram(テレグラム)チャンネルに集まった18万4000近いユーザーは(人数は伸び続けており、本稿執筆時点で1万人近く増えている)、アカウントを使って特定目的のプロジェクトを複数立ち上げ、ロシアのサイト、ロシアのスパイ、ロシアと共謀して行動する人々を封鎖し、ウクライナに住む人たちを動員して自分たちにできる行動をするよう呼びかけている。(Telegramを使っていない人たちのためのGmailアドレス、itarmyura@gmail.com も用意されている。TechCrunchはこのアドレスに連絡を取り、主催者がプロジェクトの詳細について話してくれるよう尋ねている)。

そしてその効果は現れているようだ。ロシア最大級の銀行であるSberbank(ズベルバンク)のAPIを封鎖するためのチャンネルの呼びかけがすでに実行に移されたようで、サイトは現在オフラインになっている。同様に、ベラルーシの公式情報ポリシーサイトも、対応するチャンネルで呼びかけがあったあと、オフラインになったと報告されている。彼らのとっている単純なアプローチは、Anonymous(アノニマス)をはじめとする活動家ハッカーグループが特定のターゲットを攻撃する際に用いているものと類似している。

「信じられないサイバー攻撃がロシアの政府サービス・ポータル、官邸、議会、チャンネル1、航空宇宙、鉄道などのサイトを襲った」と、ロシアメディアを引用して同部隊は指摘した。「『50を超えるDDosアタックが1テラバイト以上の容量を飲み込んだ』誰のしわざ:)?なんと悲しい事故でしょう」。

この取り組みは口コミで広がっているだけでなく、政府担当者もリンクをツイートして支援している。(ただし、政府が実際に背後にいるかどうかはわからない)。

「私たちはIT部隊を作っています。私たちはデジタル人材を必要としています」とウクライナの副首相兼デジタル変革相、Mykhailo Fedorov(ミハイロ・フェドロフ)氏がTwitterで呼びかけた。「誰にでも任務があります。私たちはサイパー前線で戦い続けます。最初の任務はサイバー専門家のためのチャンネルに書いてあります」。

フェドロフ氏はTwitterで言葉を無駄にしていない。同氏はMark Zuckerberg(マーク・ザッカーバーグ)氏とElon Musk(イーロン・マスク)氏も指名して、それぞれのプラットフォームと既存の製品を使ってプロジェクトを支援するべく、ロシアでのFacebookへのアクセスを禁止し、ユーザーがデータをバックアップできるようにStarlink(スターリング)のアクセスをウクライナに拡大するよう呼びかけた。しかし、Facebookの行動は少々遅れているようだ(広告は禁止されたが、今のところアクセスは禁止されていない)。

フェドロフ氏は、NFT(非代替性トークン)などのバーチャル商品の取引に使われているDMarket(ディーマーケット)が、ロシアとベラルーシのユーザーのアカウントを凍結したこともとり上げて称賛した。それらのアカウントの資金は対ウクライナ攻撃に使われる可能性があったからだ。

この国の暗号資産プラットフォームに対する立ち位置は概してかなり積極的であり、ウクライナ公式Twitterアカウントは26日、Bitcoin(ビットコイン)、Ethereum(イーサリアム)、およびTether (テザー、USDT)による寄付を受け付けるためのアドレスを公表した。多くの人々はアカウントがハックされたものだと思ったが、現在このツイートはピン留めされており、真剣であると思われる。しかし、寄付された資金がどのように集められ、どのように使われるのかは明確にされていない。

一連の出来事は、テクノロジーの動きの速さと、そこへの依存性の高さを物語っている。これを銀行間ネットワークSWIFTの閉鎖と対比すると興味深い。「swift(迅速)」の名前とは裏腹に、この制裁の動きはあまり速くない。なぜなら効果を得るためには各国が名乗りを上げるだけでなく、メンバーの金融機関(SWIFTには200カ国にわたる1万1000社の銀行その他の金融機関が加入している)もスイッチを切る必要があるからだ。

「SWIFTは中立的国際協力機構であり、200か国、1万1000以上の機関からなる共同体の総合的利益のために運営されています。国や個人を制裁するあらゆる決定は、適格な政府機関および適用される立法機関に委ねられています。ベルギー法の下に法人化されている私たちの義務は、EUおよびベルギーの関連規則を遵守することです」とSWIFTがTechCrunchに提供した声明で述べた。「私たちは欧州委員会、フランス、ドイツ、イタリア、英国、カナダ、米国の指導者による、ロシアの銀行に対して近々新たな規制実施を言明した共同声明を認識しています。私たちは欧州当局と協力して、新たな規制の対象となる実体の詳細を理解し、法律を遵守する準備を進めています」。

誤解のないようにいっておくが、SWIFTのアクセスを失うことは一大事であり、ロシアとロシア企業から商品売買のための取引機会を奪うものだ。しかし、この種の封鎖が最後に実施されたのはイランに対するもので、最大の効果を得るまで数年を要した。

「SWIFTを禁止されたりそこから排除されることは確実な影響があります、なぜならポイント・ツー・ポイント・ネットワークに関して、代替手段は多くないからです」とフィンテックコンサルタント会社、Firebrand Research(ファイアブランド・リサーチ)のアナリストファウンダー、Virginie O’Shea(バージニー・ オーシェイ)氏がTechCrunchに語った。彼女は、ロシアはかつてロシア国内銀行ネットワークを独自に構築しようとしたが、現時点で海外へは拡大していないことを指摘した。「SWIFTのような仕組みを作るには多くの時間と手続きが必要です」。

イランのときと同様、他国にも莫大な影響がありガスなどのエネルギー製品をロシアに依存している国々は特にそうだ。SWIFT決議の実施に時間がかかる理由の1つがそれだ。「石油とガスの視点で考えれば、これらのサービスへの支払いを妨げているのであり、ロシアだけでなく取引国にも影響を与えることになるのです」。

画像クレジット:Anadolu Agency / Getty Images

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Nob Takahashi / facebook

投稿者:

TechCrunch Japan

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