カップル動画の投稿が人気! 動画アプリ「MixChannel」は10代女子の新しい自己表現ツール

夏休みにユーザー急増、「10代女子」に人気

YouTubeやニコニコ動画、Vine、ツイキャスなど、動画関連サービス・アプリのなかには、コンテンツに紐づくコミュニケーションから独自のコミュニティや文化を生み出すものがある。最近、筆者が注目しているのが、10秒動画コミュニティアプリ「MixChannel(以下、ミックスチャンネル)」だ。CGM型のサービスで、手持ちの写真・画像・動画・音声などを組み合わせた動画を投稿できる。2013年12月のリリース後、10代を中心に利用されている。

10月には月間2億3000万回再生を記録。ウェブとアプリを含めた月間訪問者は300万人、ダウンロード数は130万を超えるまでに成長した。動画コミュニティアプリの規模としては日本最大級だ。ユーザーの約7割が10代、女性が7割近くを占める。「10代女子」に人気のサービスであり、1回起動したユーザーの平均滞在時間が15分というのも、その人気や依存度を裏付ける。

動画再生回数は、8月から10月にかけて4倍に増加。要因は「夏休み」なのだが、この期間にTwitter上で口コミが生まれ、多数の動画がシェアされたことで、若いTwitterユーザーが利用するようになった。10代が多く利用するサービスならではの伸び方も興味深い。

ミックスチャンネルの月間動画再生回数の急伸を表したグラフ

今回、ミックスチャンネルの立ち位置や文化について、株式会社Donutsにて同サービスのプロデューサー兼エンジニアを務める福山誠氏に話を聞いた。福山氏は、グーグルを経て、ソーシャルランチを起業、同サービスをDonuts社に売却し、新事業開発にあたっている。

「全国の中・高校生が文化祭をひたすらやっている感じ」

サービスづくりのきっかけは、昨夏あたりから、アメリカで6秒動画アプリ「Vine(ヴァイン)」が流行していたことにある。福山氏はソーシャルランチの売却後(現在も運営している)、Donuts社の主軸であるモバイルゲーム以外での新規サービスづくりに向けて調べていたところ、「短い動画」というコンテンツフォーマットに可能性を感じたという。

そこで2013年8月、親しい相手と共有するクローズドな6秒動画アプリ「ともらっち!」をリリース。しかし、LINE社が短い動画にBGMを付けて送信できる「Snap Movie(スナップムービー)」機能をリリースしたことを受け、閉じたという背景がある(スナップムービーは現在、30秒以内で自由に映像を加工できる動画撮影・編集アプリとしてリリースされている)。その後、オープンな動画コミュニティアプリとして、画像や写真なども使うことができるミックスチャンネルが誕生した。

「ニコニコ動画やYouTubeのような動画サービスは独自の文化をつくってきたと思います。ミックスチャンネルの場合は、インスタントに観ることができ、画像と動画の中間のような立ち位置です。個人的には画像の拡張であり、アニメーションGIFのようなものとして捉えています」

海外の短い動画サービスは、ソーシャル志向のものが多い一方、ミックスチャンネルは、友達ではなく全国のユーザーに向けて発信する。「全国の高校で文化祭をやっている感じで、そのなかでネット的な自己表現ができることが大きな特徴です」と福山氏は語る。

MixChannelのプロデューサー兼エンジニア・福山誠氏

 

「撮影」より「コラージュ」に重点がある

ミックスチャンネルは、操作が直感的でシンプルなことが支持されている。画面の長押しで撮影、シーンの切り替えも簡単、そしてアルバムにある写真や動画を活用できる。BGMの追加やマイクを使ってのアフレコも可能なため、表現に幅が生まれる。

「ミックスチャンネルは、撮影に特化しておらず、『デコる』『コラージュする』といったことに重点があります。映像で特技を見せたり、歌うこともでき、プリクラ写真を動画にしたりと、自己表現の幅がかなり広いです。この点が、撮影することに力が入るほかの動画アプリとの大きな違いとなっています」

加えて、「ファン機能」と「リンク機能」も特徴的だ。ファン機能では、ユーザーのファンになることで、新規動画が投稿されるたびに通知が届く。これによって定期的な視聴が可能になり、リピートの促進となる。また、ファン限定の動画投稿もできるなどファンやコミュニティづくりにつながる仕組みがある。

リンク機能は、自分が投稿する動画にほかのユーザーの動画をリンクすることができるというもの。誰かの動画に影響を受けてのリメイクや誰かの動画の一部を活用したコラボレーション、そしてアフレコなどでみられる1話、2話といったシリーズものをつくる際などにリンクされる。誰の動画に影響を受けたのか、誰の動画とコラボレーションしたのか分かるため、投稿者同士のコミュニケーションも活発になる。

「アフレコ動画ではコメント欄でシナリオをつくることもあります。機能がどのように使われるのかという想定はしながらも、遊び方のルールはユーザーさんが発明し、自己表現の幅を広げてくれています」。ミックスチャンネルではわかりやすいコンセプトとして「10秒」とくくっているものの、それ以上の長い動画も投稿できるなど、いい意味で幅をもたせている。

一番人気は「カップル動画」

これらの特徴が若いユーザーにハマったことで、今年6月には「ユーザーの9割が10代」という段階もあり、いまでは月間2億回再生という数字を記録している。しかし、なぜ、ここまで10代を惹きつけているのだろうか。

もちろん、10代のユーザー獲得のために一定量のプロモーションをおこなっているが、サービス初期に新規ユーザーを引き連れてきたのは、人気の読者モデルたちだった。「女子高生に人気の大倉士門くんやこんどうようぢくんにサービスを使ってもらっていたことが、最初のうねりをつくることになりました」。

また、若いユーザーに向けたカテゴリーも理由のひとつとなっている。おもしろ、LOVE、顔出し、歌、メイク・ファッション、こえ、イラスト・こえ素材、スポーツ、before→afterメイクといったカテゴリーがあり、おもしろとカップルが2大人気カテゴリーだという。メイクカテゴリーは、女性ユーザーが多く、要望もあったため、後から追加した。非日常ではなく、隣の学校のおもしろい日常を見るエンタメ感が受けている。

上の世代にとって、LOVEカテゴリーは特に衝撃なのだが、これが嬉しい想定外だったようだ。「カップル動画がここまで流行るとは想定していませんでした。いまでは投稿数がいちばん多いカテゴリーとなっています」と語るように、カップル動画がアプリの人気に一役買っている。リリース初期の1月頃に、帰国子女のユーザーが彼氏とのイチャイチャ動画を投稿しはじめたことがきっかけだそう。

「当初はおもしろいことをやる人がちらほらいるくらいの状態だったので、最初のカップル動画の登場は衝撃的でした。それから同じようなフォーマットでのカップル動画が増えていきました」。コミュニティにカップル動画を投稿して、前向きなリアクションやそれに影響を受けた動画が投稿されるようなことは、ミックスチャンネル発の新しい若者文化とも言えるだろう。

ミックスチャンネルからテレビ出演を果たした「スマホの歌姫」

「当初は、彼氏といっしょの動画を投稿するだけでしたが、いまでは紙芝居のような質も高く、面白い動画が投稿されるほどに進化しています。動画制作などやったこともなかった女子高生がいまではiMovieを駆使してカップル動画を作る、ミックスチャンネルにアップするということもあるほどです。ファン機能やリンク機能、そしてコミュニティがあることで、いい動画をつくって公開したいという欲求がサービス内で生まれていると思います。10代の自己表現の背景にある、人気になりたい、認められたいといった欲求を受け止めることができればと思います」

ミックスチャンネルでは、タレントの活躍をはじめ、一般人でもファンが1万人以上つくことも珍しくない。人気ユーザーのMiracle Vell Magicさんは2万人以上のフォロワーがいる。「スマホの歌姫」と呼ばれ、テレビ出演も果たしているほど。女子高生の2人組の「まこみな」も10代女子に人気なユーザーだ。リリースから1年経っていないものの、アプリから生まれた才能が活躍しはじめており、全体的な傾向では、読者モデルを中心に女性が人気になっているという。

若い世代のクリエイティビティが集まるコミュニティであるため、「カップル動画コンテスト」など動画コンテストもおこなっている。また、企業の才能を発掘したいというニーズが合致する場合は、企業ともコラボレーションも実施。現在はユーザーを伸ばしている段階で、マネタイズには着手していないとのこと。今後はビジネス開発を強化するとともに、広告を中心にさまざまなマネタイズの可能性を考えているという。

年内に月間4億回再生、200万ダウンロードを目指す

ユーザー数や再生回数などが急速に伸びているミックスチャンネルだが、実は、福山氏にエンジニアとディレクターを加えた3名で運営している。Donuts社のコーポレート・スローガンには「歴史を変えたサービスのほとんどは、小さなチームから生まれている」という言葉もあるように、少数精鋭チームで大きなプロダクトを羽ばたかせようという思想がみえる。

少数チームながら、今年4月にiOS版で英語対応し、海外ユーザー獲得に向けて動き出した。しかし、実際のところは注力できておらず、まだ日本のユーザーしかいないとのこと。6月にリリースしたAndroid版も今月から英語対応する予定で、「アジア最大のスマートフォン動画投稿プラットフォーム」に向けてようやく海外展開を進めていく段階だ。アジアに焦点を当てているのは、インターネット人口が急増し、動画の広がりがまだまだ浸透しておらず、大きな市場があるからである。しかし、まだまだ中心は国内だ。

年内に月間4億回再生、200万ダウンロードを目指し、海外展開については「年内にどこかの国で流行り始めているという状態にしたい」と福山氏は語る。PC時代には動画サービスから新しいコミュニティや文化が誕生したが、スマートフォン時代にはどのようになるのだろうか楽しみだ。ミックスチャンネルから発信される若者の自己表現。その周りにはたしかに10代の求心力をもった、独特の文化圏が根づきはじめている。


投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。