クラウドとデータ分析でスポーツの世界が変わる

Futuristic silver soccer ball exploding into pixels

【編集部注】執筆者のDavid Bolokerは、IBMのディスティングイッシュドエンジニア兼Emerging TechnologiesのCTO。

スマートテクノロジーは引き続き、生活のほぼ全ての側面を効率化しながら変化させている。その結果、睡眠パターンをモニタリングしたり、場所に縛られずに仕事をしたり、さらにはジカ熱のような病気の治療法をみつけたりといったことが可能になってきている。

しかし、冗長なワークフローを最適化したり、日常的な活動をゲーム化する以外にも、スマートテクノロジーは、私たちがより良いイノベーターになったり、世界に変化を起こしたりする上で必要な技術を底上げするのに貢献している。スマートテクノロジーは、これまでのパフォーマンスの限界を超越するきっかけを生むばかりか、物事の体験の仕方を変えるまでになったのだ。

プロスポーツの世界における、テクノロジーの利用例について考えてみてほしい。クラウドに接続されたセンサーやウェアラブルデバイスによって、瞬時にデータの解析が行われ、パフォーマンス向上につながるような洞察を得ることができる。今や非構造化データは、無比の成功の原動力になることさえできるのだ。

例えば、アメリカ自転車競技連盟(USA Cycling)は、これまでの手法を独自のハードウェアとソフトウェアに置き換えることで、選手のトレーニングの様子をより正確に計測できるようになり、これは今年の夏季オリンピックの結果に大きな影響を与えた。特に、IBMとの協業を通し、アメリカチームはパフォーマンス分析上の問題を解決するために、最新のテクノロジーを採用することした。彼らはもう、トレーニングごとにいちいちパワーメーターやセンサーから手動でデータを抽出したりはしていない。その代わりに、データはリアルタイムで複数のソースから収集されているのだ。使用される機器には、パワーメーターや心拍数モニターの他にも、筋肉中の酸素量をモニタリングするBSX Insight製のウェアラブルデバイスなどがある。BSX Insightのデバイスは、LEDライトと独自のアルゴリズムを使って、選手ひとりひとりのプロフィールを生成し、パフォーマンスモニタリング精度や、トレーニングの質を向上させるのに一役買っている。

その後、収集されたデータはクラウド経由でコーチのiPadに送信され、ダッシュボード上ではWプライムの減少量やエネルギー消費量といった数値が直感的な図で表示されるようになっている。さらにSolosのスマートグラスを利用することで、選手は実際の練習中にも、ヘッドアップディスプレイに表示された重要な数値を確認することができる。

クラウドやデータ分析技術は、スポーツ観戦をさらに面白くする力を持っている

前述の通り、これまでは複数のソースから集められたデータを、手作業で解析していたため、トレーニングセッションに関するフィードバックを準備するまでに、数時間または数日もかかっていた。今では、クラウドに繋がったモバイルアプリのおかげで、自転車や選手に装備されたセンサーとフィードバックの内容がリアルタイムで同期するようになっている。そのため、例えば選手がある地点で無駄にエネルギーを使ってしまっているとわかれば、少し力をゆるめることで、すぐにレース全体でのパフォーマンスを向上させることができる。また、コーチもデータを使って、選手の弱点を適時に発見し、対策を講じることができる。これは特に大きなレースに向けて練習を行っているときには重要なことだ。

自転車競技だけが、クラウドを活用したデータ分析の恩恵を受けているわけではない。NFLも2016年のシーズンを通して、センサーを利用し、ゲーム中のデータを収集・解析すると最近発表した。彼らは特別なチップをフィールドゴール時に使われるボールに埋め込むことで、キックに関するデータを集めるつもりなのだ。この研究が進めば、ゴール判定の変化、具体的にはゴールポストの幅が将来的に狭まる可能性がある。なお、NFLでは既にセンサーを活用して、選手のポジションやスピード、距離感などが計測されている。

トレーニングが効率化し、細かな改善が積み重なることで、選手のパフォーマンスが大幅に向上するという効果以外にも、データ収集によって、ファンの楽しみ方に良い影響が及ぶ可能性がある。リアルタイムでのデータストリーミングなど、クラウドやデータ分析技術は、スポーツ観戦をさらに面白くする力を持っているのだ。同様に、VR技術のスポーツへの応用例も増えてきている。

実際に、NASCAR(全米自動車競争協会および同団体が主催するレース)に参加しているドライバーやファンは、デジタルダッシュボードを利用し始めている。ラップタイムやタイヤ圧、ピットの範囲といったドライバー向けの情報をダッシュボードに表示させるだけでなく、NASCARは、同じ情報をファンにも提供したいと考えているのだ。将来的には、観客もモバイルデバイスを通じて、ドライバーと同じダッシュボードにアクセスできるようになる。そうなれば、ファンはお気に入りのドライバーと同じものを見ることができるばかりか、ドライバーがさまざまな状況にどう反応するかを含めて観戦できるようになる。

またNBCは、2016年のリオデジャネイロオリンピック期間中、VRを使って視聴者のエクスペリエンスを高めようとしていた。Samsung Gear VRのユーザーは、NBC Sportsアプリを介して、開会式や閉会、男子バスケットボール決勝といった特別コンテンツを視聴することができたのだ。この新しい視聴方法によって、会場から何百万マイルも離れた場所に住むファンも、世界最高峰のスポーツイベントを、まるでリオの会場にいるかのように体験することができた。

上記の例は、これから起きる巨大なテクノロジーの変化の序章でしかなく、今後はスポーツやそれ以外の分野でも、物事の体験の仕方が変わっていくことになるだろう。野球ファンは、一塁に滑り込む選手をさまざまなアングルから見ることができるようになるだろうし、ホッケー選手はデータを分析することで、スラップショットの精度を限りなく完璧に近づけられるようになるだろう。選手、コーチ、ファンの全員がもっと試合内容を深く理解できるようになることで、新たな戦術が生まれたり、新しい観戦のかたちが生まれる可能性もある。

スポーツ以外だと、スマートシティが各地で誕生し、エネルギー消費量からゴミ処理までさまざまなプロセスの効率化を図っている。ビジネスの世界でいえば、業界を問わず、各企業がデータを有効活用して、人員の最適化や生産性の向上など、社内の状況を改善しようとしている。このように、業界を超えた影響力を持つ、新しいテクノロジーの可能性について考えるのはとてもワクワクする。あなたは、クラウド・データ主導の未来に突入する準備がもうできているだろうか?

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(翻訳:Atsushi Yukutake/ Twitter

投稿者:

TechCrunch Japan

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