クラウドソーシングは特化型へ、海外のプレイヤーから見るクラウドソーシングの今

編集部注:この原稿は内藤サトル氏(@satoruitter)による寄稿である。内藤氏はEast Venturesアソシエートで、海外のテクノロジー情報を発信するブログ「シリコンバレーによろしく」を書くテクノロジー・ブロガーだ。

昨今、日本でもクラウドソーシング系の事業が話題になっており、ニュースで耳にする機会も増えた。クラウドソーシングを利用することで、依頼主は即座にプロフェッショナルへ仕事が発注できる、もしくは必要に応じて安価に労働力を確保できる点。依頼先は、仕事の場所や内容、量、労働時間などを自分でコントロールできる点がクラウドソーシングの魅力だ。このように双方のニーズに応える形で、様々な切り口のクラウドソーシング系の事業が国内外問わず誕生してきた。

今回は、そのクラウドソーシング分野の現状を、各海外プレイヤーのポジショニングを通じて考察していく。

(1) 仕事のジャンル多い×専門性低い+高い

oDeskElance
Freelancer

高度なプログラミングから単純な文章作成まで幅広いジャンルの仕事を引き受け、専門性の高いクラウドワーカーから専門性の低いクラウドワーカーまで幅広く揃えているのが、oDeskやElance、Freelancerだ。去年、oDeskとElanceの2社は上場を見据えて合併、Freelancerは上場を果たした。このような幅広いジャンルの仕事を扱う総合デパート型のモデルは、規模の経済をどれだけ活かせるかが重要になってくるため、今後もこの分野では買収や合併といった動きが活発になってくると思われる。

【国内プレイヤー:CrowdWorksLancersなど】

(2) 仕事のジャンル多い×専門性低い

TaskRabbit
Zaarly
ちょっとした家事やおつかいなどを代行するサービスの代表格がTaskRabbitやZaarly。報酬の価格はユーザーが自由に設定できるが、平均単価(※TaskRabbitの場合)は、日用品の買い物で35ドル、家の掃除で60ドル、日曜大工などのなんでも屋作業で85ドルと少々高い印象。

Amazon Mechanical Turk
オンラインでの入力作業や、簡単なアンケートなど汎用が利く仕事を発注できるのがAmazon Mechanical Turk。1つの仕事を1〜5セントという格安の値段で発注することができる。ここに集まるのは金銭目的ではなく、暇つぶしを目的にしているクラウドワーカーが多いというのが特徴。

Crowdflower
汎用が利く一連のタスクを、クラウドソースして管理できるのがCrowdflower。例えば、表示されている情報は適正か、入力されている情報に漏れがないかなど、ルーティン化されてる事務作業を一括で委託・管理できる。

【国内プレイヤー:ココナラnanapi worksshuftiなど】

(3) 仕事のジャンル多い×専門性高い

Marblar
大学の研究室で発明された現在使用されていない技術や特許を公開し、商業化や他の技術と組み合わせ、利用可能にするアイディアをアウトソーシングするためのプラットフォーム。

InnoCentive
特定の問題に対して、各分野の専門家に解決策となるアイディアをアウトソーシングすることができる。ジャンルはビジネス、社会、政治、科学、テクノロジーなど多岐に渡る。

【国内プレイヤー:Dmet ideaWemakeなど】

(4) 特定のジャンル×専門性低い

Scoopshot
依頼主が出すお題に対して、ユーザーがスマホで写真を撮り、依頼主が気に入ったものを買い取るという形のクラウドソーシング。

Homejoy
部屋の掃除を1時間20ドルで代行してくれるサービス。メイドをアウトソーシングするイメージで、洗濯や冷蔵庫の掃除もオプションで引き受けてくれる。

Mobee
一般消費者に対して、実店舗でのアンケートを依頼できるサービス。ユーザーは、近くの実店舗の接客態度や清潔さを調査をする代わりにポイントを受け取り、それらをギフトカードなどの商品と交換することができる。

【国内プレイヤー:BearsSansanなど】

(5) 特定のジャンル×専門性高い

SmartShoot
プロのカメラマンに、写真やムービーの撮影を依頼できる。AirbnbやYelp、Grouponはここに発注した多くの写真をサービスに利用している。

Directly
各分野のプロフェッショナルが、カスタマーケアを代行してくれるサービス。顧客が質問をフォームに記入して送信すると、その内容を自動に分析し、各プロフェッショナルに回答するタスクを振り分けるシステム。平均回答時間は8分。AT&Tやコムキャスト、ユナイテッドエアラインなどの大手企業も採用している。

Babelverse
モバイルを通じて、リアルタイムで通訳をしてくれるサービス。必要な時に必要な時間だけ通訳家を呼び出すことができる。本格的なビジネス英語から簡単な旅行向け英語まで、レベルに応じた翻訳家を用意している。

99designs
ロゴ作成やデザインをコンペ式で発注できる数あるプロダクトの中でも代表的なものが99designs。世界192カ国から25万人を超えるデザイナーがコンペに参加している。

LawPivot
弁護士版の99Designs。 法律に関する相談を、コンペ形式で一部回答してもらうといったもの。気に入った回答を提出した弁護士と引き続き相談ができる。

Bugcrowd
7600人を超える外部のリサーチャーに対してバグの発見を24時間いつでも依頼することができる。依頼の金額は300ドル前後から受け付けている。

Assembly
プロジェクトを公開し、外部のエンジニアやデザイナーとアプリを協働で開発するプラットフォーム。チームの投票によって貢献度を顕在化させ、その度合に応じて報酬を支払う。

Zirtual
プライベートアシスタント(秘書)をクラウドソーシングできるサービス。仕事内容は、スケジュールの調整、リサーチ、メールの代筆など幅広く引き受けてくれる。

GoodBlogs
会社のブログ執筆を外部のブロガーにアウトソーシングできる。依頼方法は、いちばん質の良いコンテンツをコンペ形式で採用するといったもので、依頼主は1日15分程度の作業時間でブログを運用することが可能になる。オウンドメディアを持ちたい企業にはうってつけのサービス。

【国内プレイヤー:ConyacVoip!MUGENUPdesignclueViibarなど】

上記のように、海外の各プレイヤーのポジションを整理してみると、幅広いジャンルの仕事を扱う総合デパート型の分野は、主要プレイヤー達がエグジットを迎え、ある種の収穫期に入ったことから、プレイヤーの拡大という点では一段落した印象を受ける。

また、苦戦するTaskRabbitやZaarlyのような専門性の低い多ジャンル型のプレイヤーを尻目に、ある仕事内容に特化したプレイヤーのいくつかは順調にスケールしており、新たなサービスも次々に生まれている(※今回紹介したプレイヤーはほんの一部に過ぎない)。では、なぜこの分野が順調なのか。

専門性の高い特化型のプレイヤーが伸びる理由

この分野は大きく分けて、99designやLawPivotのような「コンペ型」と、HomejoyやBabelverseのような「サービス提供型」に分類することができる。

「コンペ型」のプレイヤーは、仕事を特定の分野に絞ることで、クラウドワーカーとして用意するプロフェッショナルの量と質を高めることに集中できる。その結果、総合デパート型よりも、質の高いプロフェッショナルを多く提供することを可能にし、顧客体験の向上に繋がる。加えて、総合型より「この仕事内容なら、このサービスを使う」といったブランドイメージを確立しやすい点も特徴だ。例えば、デザインのアウトソーシングに特化した99Designsは、分野をデザインに絞ることで、質の高いデザイナーをより多く集めることに経営リソースを集中させることができる。そうすることで、総合型のoDeskやFreelancer等が用意できない量と質のデザイナーを提供でき、かつ依頼主に対して「デザインの依頼なら99Designs」というブランドイメージを印象づけることもできるのだ。

一方、「サービス提供型」のプレイヤーは、提供するサービス内容を1つに絞ることで、依頼主にとって最もネックとなるクラウドワーカーとのコミュニケーションコストを依頼主に代わって引き受けることが可能になる。その結果、依頼主は『発注→クラウドワーカーとのコミュニケーション→成果物 or サービスを受け取る』という手間のかかるプロセスから『発注→成果物 or サービスを受け取る』というプロセスのショートカットを享受できるようになる。例えば、先述した秘書業をクラウドソーシングできるZirtualは、サービス内容を「秘書業の提供」に絞ることで、本来自前で行わなければならない、通訳者の選別、労働時間の調整等の面倒なコミュニケーションを、Zirtualが引き受ける。そうすることで、ユーザーである依頼主は、ただZirtualにアクセスし、仕事内容をZirtualに告げるだけで面倒なコミュニケーションを行うことなく成果物やサービスを享受することができるのだ。

ジャンル特化型のサービスは、上記のような点で依頼主のニーズを満たしており、今後もそのニーズに応える形で、特化型のプレイヤーは国内外問わず誕生していくだろう。引き続き、クラウドソーシングの分野から目が離せない。


投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。