クリエイターのための経済オペレーティングシステム

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先週のTechCrunchでは、Pico(ピコ)の650万ドル(約7億円)の資金調達を取り上げた。そこでは同社を「ニューヨークのPicoは、オンラインのクリエイターやメディア企業がお金を稼げて顧客データを管理できるようにする」と紹介した。The Exchangeは以前にもPicoを取り上げたことがある。最も近いところでは2020年半ばに、独立系出版やサブスクリプションメディアの世界での話題を紹介している。

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Picoのラウンド記事では、Anthony Ha(アンソニー・ハー)記者がすばらしい仕事をお届けしたが、私もまた同社とZoom(ズーム)コールを行った。なぜなら、彼らの新しい資金調達は一種の再出発のようなものであり、その件について私はもっと理解したかったからだ。

Picoのチームは、クリエイティブなデジタルツールの歴史的変遷を説明しながら、彼らのビジネスの中で何が変わったのかを説明してくれた。彼らによれば、以前、この世界はコンテンツのホスティングや配信を中心に展開していたという。同社の考えでは、クリエイティブに特化した新世代のツールが登場することで、Substack(サブスタック)やWordPress(ワードプレス)のような、CMS(コンテンツ管理システム)がツールの中心ではなくなる時代がやってくる。むしろ、マネタイズが中心となるのだ。

そこに賭けたPicoは、クリエイター市場向けのオペレーティングシステムを開発することにしたのだ。私の直感では、マネタイズを中心としたクリエイティブなデジタルの世界は、それまでの時代よりも収益性が高いと思える。

Picoの想定では、クリエイターが最初にどこでオーディエンスを獲得したかに関わらず、最終的にはマルチSKU(管理単位)、あるいはマルチプラットフォームになるため、顧客データを一元管理することが重要になる。

スタートアップが提供する今回改良されたサービスは、これまでのようなちょっとしたマネタイズのためのツールであると同時に、CMS(コンテンツ管理システム)やその他プラットフォーム上のデジタルアウトプットの上に置くことができる、クリエイターに特化したCRM(顧客関係管理システム)なのだ。これまでのところ、同社の顧客数は順調に伸びていて、2020年は約5倍の伸びを記録した。この先、Picoがそのビジョンにどこまで乗れるのか、クリエイター経済中の中流階級の形成に貢献できるのかどうかを見極めていきたい。

現実世界の食料品店革命

コロナ禍の期間中、Instacart(インスタカート)の驚くべき飛躍が取り沙汰されるなかで、ほとんどの人びとが、まだ果物や野菜を買うために実店舗に行っているという事実がやや忘れられている。

もちろん食料品店はその事実を忘れてはいない。しかし、彼らは歴史的に薄利多売であり、Instacart時代には顧客獲得競争も激化しているため、あまり安心していることはできない。彼らが顧客との関係を第三者に委ねることなく、よりデジタル化された戦略を追求するにはどうすればよいのだろうか?

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その答の1つが、Swiftly(スイフトリー)かもしれない。このスタートアップが開発している技術は、あらゆる規模の食料品チェーンがデジタル化を進め、最新のモバイル技術を活用し、広告によってより多くの収入を得るとともに、消費者により多くの買い物の選択肢を提供できるような技術だ。イイ感じかも?

Crunchbaseのデータによると、このスタートアップはこれまでに1500万ドル(約16億2000万円)強を調達しているが、米国で無数の店舗を展開する消費者向け小売業者Dollar Tree(ダラー・ツリー)との取引を開始したことで、再び私たちの記憶を呼び起こした。

私はSwiftlyについては昔から知っていた。共同創業者のHenry Kim(ヘンリー・キム)氏がSneakpeeq(スニークピーク)(後のSymphony Commerce[シンフォニー・コマース])を開発していた頃に会ったことがある。Symphony Commerceは、最終的にQuantum Retail(クオンタム・リテイル)に買収された。しかし、サンフランシスコ近辺で長年にわたってキム氏と会話をしてきた中では、Symphony Commerceを創業する前に彼が経験していた食料品市場の話が繰り返し出されていた。

5年以上前から、キム氏が食料品店とデジタルの可能性を声高に語っているのを聞いていたので、彼の希望と計画から生まれた会社が有力なパートナーを獲得したのを見るのはうれしい。

Swiftlyは2つの主要製品を提供している。リテールシステムとメディアサービスだ。リテール部門は、モバイルを使う買い物客に対して、レジ精算サービス、ロイヤリティプログラム、パーソナライズされた特典などを提供している。また、メディア部門は、実店舗に対して、通常は見逃されている消費者向けパッケージ商品(CPG)の広告費を手に入れるチャンスを提供する。同時にアナリティクスを活用することで、販売した広告の効果をより正確に把握することができる。

Swiftlyは、現在大きな公開取引案件を抱えているので、今後数四半期でより多くの資金を調達することになると思う。何か分かり次第お知らせする。

UiPath、SPACそしてすてきなベンチャーキャピタルラウンド

先の2週間、The ExchangeはUiPath(ユーアイパス)のIPOについてかなりの量の記事を書いてきた。おそらく書きすぎといわれるくらいに。しかし、念のためにいっておくなら、同社の最初のIPO価格帯は、出された評価額が予想よりも少し低くなったため、レイトステージ投資家に対する警告のようなものとなった。そして同社はその価格帯を引き上げて、私たちの懸念を払拭はしないまでも和らげてくれた。そして、最終的なプライベートラウンドに比べればまだ割安ではあるものの、調達した価格帯を上回る価格をつけた。その後、取引を開始してからは順調に推移して、CFOも「順調だ」と語っている。

同社のプライベート〜パブリック評価額の経緯を詳しく知ろうと、The Exchangeは、Battery VenturesのジェネラルパートナーでB2B投資家であるDharmesh Thakker(ダーメッシュ・タッカー)氏に、IPOの価格よりも少し高めだった同社の最終的なプライベートラウンドに対する彼の見解を尋ねた。彼の言葉を紹介しよう。

あのラウンドには、スマートマネーが絡んでいました。そうした人びとは、Twilio(トゥイリオ)、Atlassian(アトラシアン)、MongoDB(モンゴDB)、Okta(オクタ)、Crowdstrike(クラウドストライク)などがIPO後に価値を5~10倍に上げたように、重要な価値創造はIPO後3~5年で起こることを理解しているのです。

現在、UIPathは、600億ドル(約6兆5000億円)のオートメーション市場の中での普及率は、わずか1%に過ぎない6億800万ドル(約659億円)です。COVID以降、反復的なタスクのためのインテリジェントなプロセスオートメーションに関する緊急性は高まる一方なのです。企業は、自動化を使ったコスト管理を必要としています。よってUiPathは、ターゲット市場に徐々に普及し成長していく中で、継続的な価値をもたらして行くことになるでしょう。それをIPO直前やIPO段階での投資家たちが実感したのです。彼らは忍耐強く待つでしょう」。

つまり彼は強気だということだ。UiPathのIPOについては、PitchBook(ピッチブック)のアナリストであるBrendan Burke(ブレンダン・バーク)氏が、より辛辣な意見を述べている。彼は同社やその市場について以下のように語っている。

RPAは、自動化の需要に応じて急速に拡張されてきましたが、依然として限定的なソリューションであり、恒久的な価値を持たない可能性があります。私たちはカスタムスクリプトに依存しているRPAを、AIネイティブな挑戦者からの競争リスクに直面している、クラウドネイティブなAIオートメーションへの橋渡しをするテクノロジーであると考えています。エンタープライズオートメーションの未来は、フロントラインのユーザーに対して、ダイナミックなデータストリームに適応し、正確な判断を下すことができるクラウドネイティブな機械学習モデルを提供するところにあります。UiPathの実装はクラウドネイティブではありませんし、インテリジェントな意思決定のためには約75のAIモデルベンダーとのサードパーティ統合が必要です。さらに同社は、事業のリスク要因として、AIエンジニアの採用能力を挙げています。UiPathが、AIバリューチェーン全体に展開できる能力があるかどうかが、長期的な展望にとって重要となるのです。

このような発言を引用したのは、一般的なアナリストの世界では、失礼な発言であることを恐れるあまり、実際のネガティブな発言を引き出すのが難しい場合があるからだ。

関連記事:業務自動化のUiPathが約790億円調達、IPOもまもなく

先を急ごう。先週は紹介しておきたい新しいSPACの案件があった。SmartRent(スマートレント)がFifth Wall Acquisition Corp(フィフス・ウォール・アクイジション・コープ)と合併する。Crunchbaseのデータによれば、SmartRentは非公開時代にRET Ventures、Spark Capital、Bain Capital Venturesなどから1億ドル(約108億1000万円)以上を調達している。

そのため、SmartRentに22億ドル(約2377億3000万円)の株式評価額が与えられた今回のSPAC取引は、VC支援による重要なエグジットとなっている。その投資家向け資料はここから見ることができる。私たちがSmartRentに注目しているのは、やはりSPACを行おうとしているLatch(ラッチ)と同じような分野で活動しているからだ。賃貸住宅のインフラ企業同士の激突となるか?こいつは楽しみだ(LatchのSPAC案件についてはこちら)。

今回の主たる話題の最後になるが、HYPRが先週3500万ドル(約37億8000万円)を調達した。先週書きたかったけれど書けなかったベンチャーキャピタルのラウンドの中で、同社を取り上げたのは、HYPRがパスワードのない未来を約束しているからだ。そして、シリーズC調達を行ったばかりだが、その目的を達成できるチャンスがあるかもしれない。ああ神様、どうか実現しますように。

その他のことなど

先週は、Y Combinatorを卒業したばかりのメンバーが行った資金調達を取材した。Queenly(クイーンリー)とAlbedo(アルベド)の記事を書いている。読んでみて欲しい。

そうそう、Afterpay(アフターペイ)の最近の業績を見る限り、Buy-now-Pay-Later(後払い販売)の市場は今も急速に成長しているようだ。

カテゴリー:VC / エンジェル
タグ:The TechCrunch ExchangePicoInstacartUiPathSPAC

画像クレジット:Nigel Sussman

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(文:Alex Wilhelm、翻訳:sako)

投稿者:

TechCrunch Japan

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