グルーヴノーツとキユーピーが量子コンピューティング技術活用の製造ライン「シフト最適化」開始

グルーヴノーツとキユーピーが量子コンピューティング技術活用の惣菜工場「シフト最適化」開始

量子コンピューター関連ビジネスを手がけるグルーヴノーツは10月9日、キユーピーの惣菜工場において、量子コンピューティング技術を活用した製造サインのシフト最適化プロジェクトを本格開始したと発表した。

同プロジェクトは、経済産業省が推進するロボットフレンドリーな環境を実現するための研究開発事業「令和2年度 革新的ロボット研究開発等基盤構築事業」に採択されたもの。同事業においてキユーピーとグルーヴノーツが協働し、今回のプロジェクトである「量子コンピュータによる高速シフト計算検討」、ならびに「AIによる需要予測と協調領域データレイク検討」に取り組む。

AIによる需要予測と協調領域データレイク検討では、需要に対する生産量の適正化に向けて、小売と食品メーカーが協調し、協調領域として共通するデータや需要予測に必要なデータの標準化を図るため、データ範囲の定義、 管理・運用方法について検討。これにより、食品ロスや機会損失を削減し、さらなる業務効率化を図ることができると期待されているという。

グルーヴノーツとキユーピーが量子コンピューティング技術活用の惣菜工場「シフト最適化」開始

シフト計画を作成するには、本人の労働条件や休暇希望、製造ラインごとに求められる人数・スキル要件、勤務間隔、人件費、人と人の相性など、様々な条件を考慮する必要がある。こうした多くの条件を満たした上で、様々にある組み合わせパターンの中から最適な答えを解く問題は「組合せ最適化問題」といわれ、組合せ最適化問題を解決するテクノロジーが、量子コンピューティング技術の中で「イジングマシン」(または、量子アニーリング)と呼ばれる。

グルーヴノーツとキユーピーが量子コンピューティング技術活用の惣菜工場「シフト最適化」開始

グルーヴノーツは、先進のテクノロジー発想と高い技術力を基に、イジングマシンを活用して業務上の様々な組合せ最適化問題を解くモデル(イジングモデル)やアプリケーションを独自開発し、「MAGELLAN BLOCKS」(マゼランブロックス)として提供。

同社はこのMAGELLAN BLOCKSの活用により、シフト最適化や製造順序最適化、物流最適化など、企業が抱える組合せ最適化の実問題を解くことに成功してきた。そこでキユーピーは、グルーヴノーツを最適生産体制の実現に向けたテクノロジーパートナーとし、両者共同して惣菜工場における製造ラインのシフト最適化プロジェクトを開始する。

これまでキユーピーとグルーヴノーツが行った実証実験においては、MAGELLAN BLOCKSのイジングモデルでシフトを作成。例えば熟練のシフト作成者が30分かけて作成したシフト表と比べて、遜色なく実運用で使える結果をわずか1秒で示すなど、イジングマシン活用の効果が確認されたという。

これにより、従来は複雑すぎて考慮しきれなかった条件や、従業員が求める新しい働き方の要件、新型コロナウイルス感染症対策として密集を回避した配置基準などを加味して、「働く人にやさしい」快適かつ最適なシフト作成が可能になると期待されるとしている。また、同事業として、人とロボットの共存を考慮したシフトおよび製造順序の最適化に向けた取り組み検討を進める。

製造ラインにおいて人とロボットが共に働いた場合のオペレーションをシミュレーションした結果、ロボットが高性能であるよりも、人間の動きと調和したときに時間あたりの生産量が最大化することがわかっているという。

グルーヴノーツとキユーピーが量子コンピューティング技術活用の惣菜工場「シフト最適化」開始

さらに、MAGELLAN BLOCKSのイジングモデルによる最適化と、AIによる需要予測を組み合わせて活用することで、日々の需要量に応じた製造計画の策定から、製造順序の最適化・シフト最適化・番重(食品用コンテナ)の積み付けの最適化・物流の最適化など、工場全体の最適生産体制の構築に向けた支援が可能になると考えているという。

グルーヴノーツとキユーピーが量子コンピューティング技術活用の惣菜工場「シフト最適化」開始

今後はさらに両社で、量子コンピューティング技術やAIを活用して、工場内の様々な課題に取り組み、さらには取り組んだ成果を食品業界モデルとしてソリューション展開していくことで、業界全体の課題解決に貢献していく。

キユーピーは、調理・調味料事業、サラダ・惣菜事業、タマゴ事業など、食品5事業+物流事業を展開する食品メーカー。惣菜市場は10年連続して拡大を続け、同社サラダ・惣菜事業の売上は、調理・調味料事業、タマゴ事業に次ぐ構成比(2019年度:16.5%)とさらなる事業機会の拡大に取り組んでいるという。一方惣菜を作る工程においては、見た目・重量など厳密な盛り付け基準が設けられていることなどから、最も多い人手を要し、ベルトコンベアを囲んで多くの従業員が24時間交代制で働いている。

今後、ますます人手不足の深刻化が予測される中、人手を増やさずとも従業員の負荷軽減を図りながら生産性を最大化するため、ロボット活用が急務とされているという。一方ロボット導入の上では、人とロボットの役割分担をふまえ、業務オペレーションやシフト体制の再設計が不可欠としている。加えて、短時間勤務など人の多様な働き方を可能にする働き方改革を推進していくにあたり、最新テクノロジーの活用や高度なシフト管理システムの導入が求められているという。

カテゴリー: 人工知能・AI
タグ: グルーヴノーツキユーピーMAGELLAN BLOCKS量子コンピュータ日本

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