グーグルの親会社アルファベットがAIを活用して創薬に挑むIsomorphic Labsを設立

創薬の分野はAIの能力によって超高速化が進んでいる。複数の企業がさまざまな方法でAIを応用し、膨大な実際上の課題を、扱いやすい情報の問題に変えている。最近の動きとして、Google(グーグル)の親会社であるAlphabet(アルファベット)が、DeepMind(ディープマインド)のトップであるDemis Hassabis(デミス・ハサビス)氏の下でIsomorphic Labs(アイソモルフィックラボ)を設立し、この有望な新分野に挑戦する。

この会社については、初公開のブログ記事と、それに付随するごく一般的なFAQでは、ほとんど何も明らかにされていない。同社の目的は「生体システムを第一原理から理解し、病気治療の新方法を発見する計算プラットフォームを開発する」ことだ。

もちろん、この設立宣言には、いくつかの前提条件が織り込まれている。その中でも最も重要なのは、創薬に適した方法で生体システムを計算機上でシミュレートすることが可能であるという前提だ。

過去5年ほどの間に、よく似た目標を追求するために、複数の大企業が形成され、何億ドル(何百億円)もの資金が投入されたが、目に見える革命や、これまで治療不可能だった病気の特効薬をAIが発見したというようなことはなかった。その理由について考察することは本稿の範囲を超えているが(近い将来、Isomorphic Labsが取り組むことになるだろう)、AIシステムというものは奇跡の工場ではなく、いまだに膨大な時間・資金・試験管を必要とする長く複雑なプロセスの一部に過ぎないことは明らかだ。

ハサビス氏も馬鹿ではない。同氏は生物学を「情報処理システムです。ただし、非常に複雑で動的な」とやや楽観的に表現しているが(この分野の読者は下にスクロールしてコメント欄に向かっていることだろう)、直後にやや穏やかな言葉に置き換えた。

生物学はあまりにも複雑で混沌としているので、単純な数式では表現できないものです。しかし、物理学を記述する適切な言語は数学だということがわかったように、AIを応用する対象として生物学が最適だということが明らかになるかもしれません。

情報システムと生物システムには共通の構造があるのではないかという考えから「Isomorphic Systems(同型のシステム)」と名づけられた。同型とは、形は似ているが起源が異なるという意味だ。

同氏の説明の背景には、2020年、生物学者の度肝を抜いた、DeepMindのAI搭載タンパク質折り畳み構造解析システム「AlphaFold」が有効だとわかり、非常に複雑な分野で新たな常識を生み出すことに貢献したことがあるのは間違いない。

DeepMindの学習システムが汎用性や知識の伝達に特に親和性があることが明らかになりつつある。さまざまなタスクに再利用できる構造を持つということだ。AlphaFoldの成功が示すように、生物学的システムがこの種のシミュレーションや分析に適しているとすれば、ハサビス氏による検証は同社の幅広い能力を証明することになるかもしれない。

しかし、それが実現するのはしばらく先のことだろう。DeepMindがAI研究でスタートダッシュを見せたとしても、Isomorphicは基本的にこの問題をゼロから始めることになる(今後も両社は別々の会社として存在する見込みだが、研究結果は共有される可能性がある)。Isomorphicは、採用により「世界レベルの学際的なチーム」を構築しており、おそらく1~2年後には、同社の野望から生まれる成果の最初の兆候を目にすることができるだろう。

画像クレジット:Isomorphic Labs

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Nariko Mizoguchi

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TechCrunch Japan

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