グーグルを解雇されたティムニット・ゲブル氏、自らAI研究所「DAIR」を設立

ちょうど1年前、Google(グーグル)のAI倫理チームの共同リーダーの1人であり、このテーマの第1人者であるTimnit Gebru(ティムニット・ゲブル)氏は、チームのメンバーに懸念を示すメールを送った後に解雇された。そのゲブル氏が自ら仕事場を構え、Googleで敬遠されていると感じていた論題に焦点を当てたまったく新しい研究機関「DAIR」を設立した。

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発表されたプレスリリースによると、この「Distributed Artificial Intelligence Research Institute(分散型人工知能研究所)」は「AIの研究、開発、展開における巨大テクノロジー企業の広範な影響力に対抗するための、独立した、コミュニティに根ざした研究所」であるという。

DAIRは、Google(グーグル)、Amazon(アマゾン)、Facebook / Meta(フェイスブック / メタ)などの企業で使用されているプロセスに疑問を持ち、多様な視点を取り入れ、強調することを目的として設立された機関で、独立資本で運営される。その焦点は、学術的な領域における論文発表に置かれているものの、伝統的な学会の絶え間ないプレッシャーや、グローバル企業のパターナリスティック(父権主義的)な干渉を、研究者に与えることはない。

ゲブル氏はThe Washington Post(ワシントン・ポスト紙)の取材に対し「私は長い間、現在の私たちが置かれているインセンティブ構造に不満を感じていました。そのどれもが私のやりたい仕事には適していないように思えたのです」と語っている。

この研究所は現在までに、Ford Foundation(フォード財団)、MacArthur Foundation(マッカーサー財団)、Kapor Center(ケイパー・センター)、Open Society Foundation(オープンソサエティ財団)などから、370万ドル(約4億2000万円)を調達している。これだけあれば十分に運営を開始できるだけでなく、研究者にも十分な報酬を支払うことで、この種の仕事が、AI研究に頻繁に資金を提供している大企業で働くよりも現実的な選択肢であると保証できる。

TechCrunchでは、これまでさまざまな論題について語ってもらったことがあるゲブル氏に、DAIRの将来的な研究に関する方法や方向性について尋ねてみたので、返事があればこの記事を更新する予定だ。しかし、DAIRに関わる2人の人物から、我々が何を期待できるかを知ることができる。

「Algorithms of Oppression(抑圧のアルゴリズム)」の著者で、Macarthur Genius Grant(マッカーサー天才賞)を受賞したSafiya Noble(サフィヤ・ノーブル)氏は、DAIRの諮問委員会に参加する予定だ。我々は先日、「TC Sessions:Justice」の公開討論で同氏をお迎えした。そこで彼女は、テクノロジーが広く使われるようになって「ありふれたもの」になった時に、それを中立的で価値があると考えることの危険性について語った。実際には、そうなった時にこそ、より厳しい目で見られるべきなのだ。

また、DAIRの最初の研究員であるRaesetje Sefala(ラエセチェ・セファラ)氏は、南アフリカにおける地理的・経済的な分離を、衛星画像を用いて定量化する研究を行っている。

「AIは地に足をつける必要があります。AIは超人的なレベルにまで高められており、それが必然で人間の制御を超えたものであると、私たちは信じ込まされています」と、ゲブル氏は発表の中で述べている。「AIの研究、開発、展開が最初から人やコミュニティに根ざしたものであれば、これらの弊害に先手を打ち、公平性と人間性を尊重した未来を創造することができます」。

画像クレジット:Photo by Kimberly White/Getty Images for TechCrunch / Getty Images

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(文:Devin Coldewey、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

投稿者:

TechCrunch Japan

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