ケンブリッジ大学の量子フォトニクス研究のスピンオフ「Nu Quantum」がシード資金を調達、商用技術のデモを目指す

量子暗号化、量子シミュレーションが現実のプロダクトとして実現されつつある今、個々のフォトン(光子)を高い信頼性で送出、検知できるハイパフォーマンス素子が必要とされるようになっている。こうした分野を専門として成果を上げている企業は世界的にも数少ないが、その1つがNu Quantumだ。このスタートアップはケンブリッジ大学の研究プロジェクトからのスピンオフだ。

同社はAmadeus Capital Partnersがリードするシード資金調達ラウンドで210万ポンド(約2億8600万)を調達することに成功した。投資家にはAhren Innovation Capital、IQ Capital、Cambridge Enterprise、Martlet Capitalが含まれる。2020年にAmadeusは65万ポンド(約8800万円)のプレシード投資をリードしており、これに参加したSeraphim Capitalも今回のラウンドに新たな投資家として参加した。

今回の資金はケンブリッジにある最先端のフォトニクス研究所に充てられ、同社が初の商用技術のデモンストレーションを開始するにあたり、科学者、製品チームメンバー、ビジネス部門の主要な採用活動に充てられる。

Nu Quantumはケンブリッジ大学のキャベンディッシュ研究所で8年前から開発が続けられた量子光学、半導体フォトニクス、情報理論等の成果を統合した知財ポートフォリオをベースとしてスピンアウトしたスタートアップだ。 同社は量子フォトニクス分野で数少ない世界最高レベルの企業の1つだ。

同社が最初の商業的プロダクトとして提供を計画しているのは、量子フォトニクスにおける独自のテクノロジーとアルゴリズムを利用して乱数を生成するデバイスだ。この乱数のランダム性には極めて高い信頼性があり、同社では暗号化のためのベースとなる乱数としてデータ保護のために広範囲で利用されることになると期待している。Nu Quantumは英国の国立物理研究所をリーダーとする乱数ジェネレーター開発コンソーシアムのパートナーで、このプロジェクトには英国政府のIndustrial Strategy Challenge Fundから280万ポンド(約3億8100万円)の助成金が出ている。

Nu QuantumのCEOであるCarmen Palacios-Berraquero(カーメン・パラシオス=ベラケロ)博士は声明で「私たちのシステムは量子力学的効果を利用した量子フォトニクス素子の実現を目標としています。今回の資金はこの目標に現実化するために利用されます。Nu Quantumでは世界的かつ学際的なチームによる新しいラボが可能となります。私達は潜在的顧客とパートナーに向けて独自テクノロジーの初の意義あるデモを実施できると期待しています」と述べた。

Amadeus Capital PartnersのマネージングパートナーであるAlex van Someren( アレックス・ヴァン・ソメレン)氏は、「量子フォトニクスはデジタル暗号化を根本的に変革しサイバーセキュリティに新たな時代を切り開く可能性があります。私たちがNu Quantum に再び投資したのは同社には商業的ソリューションを開発し、市場に提供する能力が十分あると信じているからです。ケンブリッジはこれまでも量子コンピューティングのハード、ソフトの開発と商業化で世界をリードしてきました。Amadeusではこの優れた起業家チームを応援する機会を得たことに興奮しています」と述べている。

カテゴリー:ハードウェア
タグ:Nu Quantum量子コンピュータケンブリッジ大学資金調達

画像クレジット:Nu Quantum

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滑川海彦@Facebook

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TechCrunch Japan

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