ゲームではなくコミュニケーションの会社に–ミクシィ新社長の森田氏

劇的とも言える復活を果たしたミクシィ。2014年3月期の通期決算は、売上高121億5500万円(前年同期比3.8%減)、営業利益4億800万円(同81.3%減)、経営利益2億6300万円(同90%減)、純利益2億2700万円の赤字(前年同期は16億5400万円の黒字)、四半期ベースで見れば以下のグラフの通り。大幅な増収増益を実現した。そこには、前社長である朝倉祐介氏による事業再建施策と、スマホ向けゲーム「モンスターストライク(モンスト)」の好調ぶりが大きく貢献している。

そして事業再建のフェーズが終了したとして朝倉氏は6月に代表を退任。6月24日に開催された定時株主総会で、執行役員でゲーム事業の本部長を務めていた森田仁基氏が代表となった。

森田氏は2000年にfonfunに入社。フィーチャーフォン向けコンテンツの企画運営やケータイアプリのプロデューサーを経験したのち、2008年にミクシィに入社した。

当時のミクシィは、プラットフォームのオープン化を掲げていた時期。森田氏は「mixi アプリ」の立ち上げを担当して、当時人気だった「サンシャイン牧場」のRekoo、「まちつく」のウノウ(その後ジンガジャパンとなり、現在は閉鎖)などSAP(Social Game Provider:ゲーム開発会社のこと)開拓に務めたという。その後2011年にサイバーエージェントとの合弁会社であるグレンジの取締役副社長となり、さらにはミクシィのゲームプラットフォーム「mixi ゲーム」にも注力することとなる。

2013年1月からはミクシィ執行役員、5月にはゲーム事業本部長に就任。モンストの企画を立ち上げたのは2013年2月のこと。現在はモンストスタジオ エグゼクティブプロデューサーも兼任しているそうだ。モンストでは、全体戦略や組織作りなどを担当。制作面はプロデューサーの木村弘毅氏が中心になって活動しているそうだ。これまでのキャリアやモンストへの関わりもあって「ゲーム」の印象が強い森田氏だが、ミクシィをどのように導くのか。今後の展開を聞いた。

ミクシィ代表取締役の森田仁基氏

–社長交代の経緯について教えて下さい。

森田氏(以下敬称略):これまでミクシィは、どうしてもSNS「mixi」がほとんどを占めていました。それで調子がいいときもあれば、GREEやMobageのゲームにシェアを取られるようにもなりました。またFacebookやTwitterも出てきて、みんながmixiを使えばいいという時期でもなくなったのは、数字としても出てきました。

前代表の朝倉は事業再生のプロフェッショナル。そのタイミングで陣頭指揮を取るという考えが笠原としてはあったと思います。一方で僕は点を取るために新規事業を伸ばす、ということをやっていました。それでモンストが当たるようになってきて、事業再生も一段落し、再成長するというタイミングでの社長交代になります。

–森田さんが代表になったということで、ゲームを主軸に置いた会社になるという見方もできます。

森田:自身では特にそういうことは考えていません。ゲームはコミュニケーションの1つの手段なんです。それは木村とも、モンストのプロジェクトでもぶらさないようにしようと話していました。ツールがたまたまゲームというツールだったというイメージです。そこには「Face to Face」のコミュニケーションがあります。

もちろん新しいものは作り続けますが、必ずしもそれがゲームではないでしょう。ゲームの売上がかなり大きくなってしまったのでそう見えるかと思いますが、通期見通しでも、400億円のうち100億円はゲーム以外で作っていきます。

–「ミクシィは何の会社になるのか?」とは聞かれませんか。

森田:そう言われたのは初めてです。僕らを見て感じて頂ければいいと思うのですが、1つ言うならコミュニケーションを活性化させる、人と人のつながりを作れる会社だということです。繰り返しになりますが、モンストもmixiも人と人が繋がるサービスになります。

–モンストは6月に900万ダウンロード、7月には1000万ダウンロードを達成しました。成功の要因をどうお考えですか。

森田:先ほどから申し上げているとおり、コミュニケーションから設計に入っていることです。そうなると簡単に楽しめないといけません。難しそう、つまらない、となるとコミュニケーションは発生しません。

そこで、引っ張って離すというアクション(モンストは、キャラクターをタッチし、引っ張って離して飛ばすことで敵にぶつけ、敵を倒していくゲーム)は気持ちいいし、ミスした時にもツッコミを入れられるというコミュニケーションが起こります。アクションの気持ちよさについては岡本さん(ゲームリパブリック代表取締役社長でゲームプロデューサーの岡本吉起氏)に協力いただいています。

市場環境もラッキーでした。まずパズドラ(ガンホーの「パズル&ドラゴンズ」)がスマートフォンのゲームユーザーを切り開いてくれて、LINEがライトなユーザーを取っていった。ゲームを出したときに市場で上が狙えるような状況ができあがってきました。また、引っ張って離すという動作は(Rovioの)「AngryBird」にもありますが、それより気持ちいい。さらにスマホゲームなのに「(リアルで)集まってやる」というところがうまくはまったと思います。

–ゲーム以外の事業について教えて下さい。ライフイベント事業も好調のようです。

森田:特に(マッチングサービスの)YYCが好調です。売上はすごく大きいし、まだ伸びています。

–YYCは御社による買収の前から月商1億円近いという話も聞いたことがあります。ところでコンプライアンス上は大丈夫なのでしょうか。たとえば、2ちゃんねるのまとめを模して、(女性のヌードなども含まれる)過激な表現の広告なども見かけます。

森田:サービスは法律を遵守して運営しています。それをやっている限り心配はありません。

(前述の広告については)アフィリエイターのことなので、細かいところまで(コントロールすること)は難しいですが、そこは特にどうこうとは考えていません。もちろん法律に抵触するのであれば、対応していきます。(ここで広報コメント「ルールに反するものについては順次対応はしていますが、量が多く対応が終わっていないところもあります」)

–以前、「追い出し部屋」を作って、リストラをしたとも聞きました。あらためて「組織の再構築」という意味でリストラはなかったという認識ですか。

森田:そこは「リストラはなかった」と言うしかないです。

–現在の人事面での施策について教えて下さい。

森田:新しい事業が生まれているので、逐一必要な必要な人員は増えています。もちろん、人事異動もやっています。モンストがあれだけのユーザーを抱えてサービスを継続できるのは、これまでSNS「mixi」の強靱なシステムを作っていたスタッフが運用しているというところもあります。そういう意味では機動的な人員配置を行っています。

あと、人員配置の上で大事なのは「君こっちね」と言って指示しないようにすることです。こうしてしまうと、やらされている感が生まれます。そこで「キャリアチャレンジ」という制度を作り、できるだけ本人の意思をくむような人事異動ができるようにしました。

–決算資料などを見る限り、SNS「mixi」の人員は減らしているようです。mixiのサービスはどうしていくのでしょうか。

森田:FacebookやLINEなどが出てくる中で勝負するのはなかなかしんどいと思っています。ですがmixiには「コミュニティ」という大きな財産があります。これを軸に今後しっかり伸ばしていこうとしています。メインユーザーの属性は、30歳以上が比較的多い状況です。UUなどは公表していませんが、アクセス数自体は下げ止まっているという状況です。

–「イノベーションセンター」とうたって新規事業を募集していたかと思います。

森田:新規事業への取り組みは引き続き大事だと思っています。直近でも新規事業のブレストもやっていますが、基本的には「何でもあり」で社内から募集しています。ここはC(コンシューマ向け)、B(法人向け)問わずにやっていきます。

–新規事業としてやるかやらないかは別として、森田さんの興味のあるのはどういう分野でしょうか。

森田:興味がある分野はいっぱいありますね。新しいデバイスが出てくるタイミングは大きなビジネスチャンス。例えばウェアラブルなどもうまくやれば成長するのではないでしょうか。

また「nohana」のように、ネットだけで終わらないサービスは面白いと思います。すでにいくつかアイデアはあります。

−−ベンチャー投資についてはどうお考えでしょうか。

森田:(子会社の)アイ・マーキュリーキャピタルでは引き続きシードの純投資をやっていきます。一方でM&Aは(成長の)方法としてあります。当然既存の事業領域を伸ばすことはやっていく必要があり、それを自分たちでやることも、M&Aで時間を買うこともあります。

—創業者の笠原健治氏が新規事業を手がけていると聞いてすでに1年ほどが経過しました。

森田:笠原は今新しいサービスの仕込みをやっているところです。時期は明言できませんが、楽しみにして待っていて頂きたいと思っています。笠原はアンテナ感度が高いし、ラッキーパンチではなくしっかり狙ってヒットを出せます。市場の状況やニーズ、ビジネスモデルを熟考した上でモノを作っています。

ヒットを出すためにはそれなりの時間がかかります。モンストも2月から開発して9月に出したところです。もう少しだけ楽しみにして待って頂ければ。

—ご自身の課題と目標について教えて下さい。

森田:ぼくの英語力じゃないですか(笑)。アジアを含めてグローバルを目指す中で、英語を話せないといけないと思います。

個人的な目標についてですが、言っても社長1年目です。まずは社員からの信頼をしっかり得られるように誠実にやっていきたいと思います。僕はどちらかというと「時価総額1兆円」とか掲げるのは苦手で、都度自分自身の能力を伸ばしていくタイプだと思っています。

–モンストの次のゲームはもう準備されているのでしょうか。

森田:うーん、どうですかね(笑)。

今は正直なところモンストに注力しています。もちろん次のゲームを作るというのは、売上の地盤を作るためだと思います。しかし、日本と中国、台湾のように1カ国1カ国にモンストを出すのと、ゼロから新規のゲームを作って出すことは(市場を作るという意味で)同じだと思っています。


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TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。