ゲームエンジン開発Unityが数々の大作映画を手がけた視覚効果のWeta Digitalを約1850億円で巨額買収

ゲームエンジンの開発で知られるUnity(ユニティ)は、Peter Jackson(ピーター・ジャクソン)氏が共同設立した有名な視覚効果会社のWeta Digital(ウェタ・デジタル)を、16億2500万ドル(約1850億円)もの巨額で買収すると発表した。

その名前を知らなくても、Weta Digitalの作品を見たことがある人は多いだろう。「ロード・オブ・ザ・リング」から「アバター」や「シャン・チー/テン・リングスの伝説」など「ぜひ映画館で見るべきだ」といわれるような映画では、Weta DigitalがVFXで大きな役割を果たしている可能性が高い。

これまでWeta Digitalは、視覚効果を生み出すアーティストのチームであると同時に、アーティストが使用するツールの多くを開発するエンジニアのチームでもあった。Unityが買収するのは、これらのツールとエンジニアチームであり、その一方で視覚効果のアーティストチームは、独自の新しい組織に分割される予定だ。

今回の買収により、Weta Digitalの275人以上のエンジニアが、Unityに加わることになる。VFXアーティストは、ピーター・ジャクソン氏が引き続き過半数を所有する新会社「Weta FX」にスピンアウトする。両社は今後も協力関係を続けていく予定で、Unityはこの先、Weta FXが「メディア・エンタテインメント分野における最大の顧客」の1つになると見ているという。

その一方でUnityは、Weta Digitalの数多くの自社製ツールの開発を引き継ぐ予定だ。例えば「City Builder」(「キングコング」などの映画で破壊された巨大な3D都市をプロシージャルに生成する)「Manuka」(最終バージョンですべてが非常にリアルに見えるようにするために役立つ物理シミュレーションを行うカスタムレンダラー)「Gazebo」(より高速なリアルタイムレンダラーで、アーティストが時間のかかる最終レンダリングの前にシーンを正確にプレビューするために使用される)、そして他にも、キャラクターを動かすためのリギング、顔のアニメーションやレンダリング、モーションキャプチャーの処理、髪の毛 / 毛皮 / 煙 / 何千年も前に放棄された都市の景観に生え茂る植物などをシミュレートするためにチームが構築した独自の技術のすべてだ。

Wetaの「City Builder」ツール(画像クレジット:Unity/Weta Digital)

なぜWetaなのか?UnityのSVPであるMarc Whitten(マーク・ウィッテン)氏に電話して、彼の考えを聞いてみた。

「10年前を思い出してみてください」と、彼はいう。「これは2Dの話ですが、どれだけの写真が撮影されていたか。きっと膨大な数でしょう。しかし、それから10年後……今はさらに驚異的に増えています。3Dも同じようなものではないかと私は思います」。

「ただし、1つ違いがあります」と、彼は続けた。「10年前の私でも、写真を撮ることはできると思っていました。今、2Dで同じように写真を撮ることができます。しかし、実際にはそれは10年前と大きく異なります。なぜなら、私がiPhoneのシャッターボタンを押すたびに、iPhoneは私を(写真家に)変身させるために、おそらく500万行の超高度なコードを実行しているからです。しかし、3Dでは、現在、個人的に何かをモデリングすることはほとんどできません。これからの10年で私たちがやるべきことは、同じアプローチを取ることです。つまり、この信じられないほど深い技術を、簡単に使えるようにすることです」。

言い換えれば、つまり、Unityは3Dでの構築をより簡単にする必要性が高まっていると考えており、それはWetaが過去数十年を費やして追求してきたことなのだ。

この買収契約の一環として、UnityはWeta Digitalが長年にわたって構築してきた膨大なデジタル資産のカタログも取得することになる。それは、都市や自動車、人々の3Dモデルから、雨の中で火から出る煙の仕組みを決定するアルゴリズムや、動物の群れが木々の間をどのように移動するかのシミュレーションまで、1つ1つ挙げれば切りがないほど膨大だ。これらのすべてが、潜在的にはUnityの製品に組み込まれ、クリエイターがそれを基に制作できるようになる可能性があるというわけだ。もっとも、ウィッテン氏は「明確に認められるIP」は含まれないので、次に開発するゲームに(ロード・オブ・ザ・リングの)Gollum(ゴラム)をドラッグ&ドロップできるようにはならないだろうと指摘している。

これ以前にUnityが行った最大の買収は、2021年の8月にParsec(パーセク)を3億2000万ドル(約365億円)で買収したことだった。当時、ウィッテン氏はこの買収がUnityのより大きなクラウドへの野望の一環であることを示唆していたが、今回の買収にも同じことが言えるだろう。

「(Weta Digitalの)ツールは……まさにこのパイプラインです」と、ウィッテン氏は述べている。「それぞれのツールは個々に強力ですが、このパイプラインに沿って連携すると、すべてが実にうまく機能します。あるツールで変更を加えれば、他のツールで照明や合成を行ったときに、それが正しい形で現れます。複数の人が本当に簡単に一緒に作業できます」。

「その先に私たちが考えているのは」と、同氏は続けた。「アーティストがMaya(マヤ)やHoudini(フーディニ)、Unityの中で作業をするときに、これらのクラウド機能が直接接続できるようにすることです」。

「このパイプラインをクラウドで利用可能にして、どこにいてもすぐに接続できるようにすることが重要であると、私たちは考えています」。

Unityによれば、この買収は2021年の第4四半期中に完了する見込みだという。Weta DigitalのCEOを務めているPrem Akkaraju(プレム・アッカラジュー)氏は、新たに設立されるWeta FXのCEOとして留任し、CTOのJoe Marks(ジョー・マークス)氏は、Weta DigitalのCTOとしてUnityに移籍する予定だ。

画像クレジット:Unity/Weta Digital/20th Century Fox

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(文:Greg Kumparak、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

投稿者:

TechCrunch Japan

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