コロッサルがマンモス復活プロジェクトを投資家たちに売り込むことに成功

医療を一変させるCRISPR(ゲノム編集技術)の可能性に関心を持つ企業がますます増えている。しかし、この遺伝子編集システムを用いて現代にマンモス(あるいは、それに極めて近いもの)を蘇らせようとしている企業はおそらく1社しかいないだろう。

それを第一のミッションとして掲げている会社が新興企業Colossal(コロッサル)だ。異端の遺伝学者George Church(ジョージ・チャーチ)氏と、企業家でHypergiant(ハイパージャイアント)の前CEO Ben Lamm(ベン・ラム)氏によって創業された同社は、CRISPRを使って既存のアジア象のゲノムを編集することでこの古代生物を現代に蘇らせることを目的としている。そういう意味では、蘇る生物はマンモスに極めて近いものの、どちらかというと象とマンモスの雑種ということになる。

チャーチ氏のラボではこのプロジェクトに数年間資金を投入してきた。チャーチ氏とラム氏は、マンモスを現代に蘇らせるというアイデアには単なるSF的なプロジェクト以上の意味があることを投資家たちに売り込むことに成功した。

コロッサルは、創業しLegendary Entertainment(Dune、Jurassic World、The Dark Knightなどをてがけた会社)の前CEO Thomas Tull(トーマス・タル)氏率いる1500万ドル(約16億5000万円)のシードラウンドを実施することを発表した。このラウンドには、Breyer Capital(ブレイヤーキャピタル)、Draper Associates(ドレイパーアソシエイツ)、Animal Capital(アニマルキャピタル)、At One Ventures(アットワンベンチャーズ)、Jazz Ventures(ジャズベンチャーズ)、Jeff Wilke(ジェフ・ウィルケ)氏、Bold Capital(ボールド・キャピタル)、Global Space Ventures(グローバルスペースベンチャーズ)、Climate Capital(クライメートキャピタル)、Winklevoss Capital(ウィンクルボスキャピタル)、Liquid2 Ventures(リキッド2ベンチャーズ)、Capital Factory(キャピタルファクトリー)、Tony Robbins(トニー・ロビンズ)氏、First Light Capital(ファーストライトキャピタル)などが参加している。

「チャーチ氏とラム氏の2人は、現代の遺伝学の考え方を一変させると同時に、絶滅種の復活だけでなく業界全体を前進させる革新的テクノロジーを開発する能力を持ち合わせた強力なチームです」とロビン氏はいう。「この2人が率いるプロジェクトに投資できることを誇りに思います」。

ラム氏はテキサス州本拠のAI企業ハイパージャイアントの創業者としてコロッサルに入社した。同氏は他にも、Conversable(LivePersonに売却)、Chaotic Moon Studios(Accentureに売却)、Team Chaos(Zyngaに売却)の3社を起業し売却している。

チャーチ氏は、これまでにも大規模で挑発的なプロジェクトを立ち上げてきたことでよく知られている。

チャーチ氏は1980年代に最初のゲノム直接配列決定法を生み出し、続いて人ゲノムプロジェクトの立ち上げにも携わった。同氏は現在、Wyss Instituteで、遺伝子とゲノム全体を統合することに重点を置いた人工生体の取り組みを率いている。

CRISPR遺伝子編集技術は対人臨床試験の段階に入ったばかりで、特定の病気の原因となっている遺伝子を編集することを目的としているが、チャーチ氏のプロジェクトでは、それよりはるかに大きな考えで取り組みを進めており、テクノロジーの進化を加速する目的に沿ったものが多い。2015年、同氏のチームは、人に移植する臓器を作る過程で豚の胚の62の遺伝子(当時の新記録)を編集することに成功した。

この取り組みから派生した企業eGenesisはチャーチ氏の当初の予定より遅れているが(同氏は、2019年までには豚の臓器を人体への移植に利用できると予測していた)、現在、猿を使った前臨床実験を行っている。

チャーチ氏は長年、マンモスの復活に照準を合わせてきた。2017年、ハーバード大学の同氏のラボは、マンモスを復活させる過程で、45の遺伝子をアジア象のゲノムに追加することに成功したと報告した。投資家たちからの研究支援を受け、コロッサルはチャーチ氏のラボでのマンモス復活の取り組みを全面的にサポートすることになる。

プレスリリースによると、コロッサルがマンモスを復活させることを追求しているのは、エコシステムを復元することで気候変動による影響と戦うためだという。

「当社の目的はマンモスを復活させることだけではありません」と同氏はいう。「もちろん、それだけでも大変なことですが、最終的にはマンモスを自然環境に適応させることが目的です。マンモスを復活させることができれば、絶滅を防いだり、絶滅危惧種を復活させるすべての道具立てが揃うことになります」。

現在、約100万種の動植物が絶滅の危機に瀕している。コロッサルのマンモスプロジェクトが成功すれば、最近絶滅した生物を復活させるだけでなく、ラム氏のいう「遺伝子レスキュー」によってそもそも絶滅を防ぐことさえできる能力が実現されることになる。

遺伝子レスキューとは、絶滅危惧種の遺伝子多様性を向上させるプロセスのことだ。これは、遺伝子編集によって、あるいはクローニングによって新しい個体を作り遺伝子プールを大きくすることによって実現できる(クローンと既存の動物の遺伝子が十分に異なることが条件)。これが実現可能である証拠はすでにいくつかある。2021年2月、北米で最初の絶滅危惧種のクローニングによってクロアシイタチが誕生し、Elizabeth Ann(エリザベス・アン)と名付けられた。このイタチは1988年に収集され冷凍された組織サンプルに含まれていたDNAからクローニングされたものだ。

山の中のマンモス。3Dのイラスト(画像クレジット:Orla / Getty Images)

絶滅種を復活させることで気候変動による影響と戦うことはできるかもしれないが、それで根本的な問題が解決するわけではない。人間が生み出した気候変動の原因が手つかずのままであるかぎり、そもそも気候変動によって絶滅した生物を復活させることができたとしてもあまり期待はできない。そもそも、気候変動は巨型動物類が絶滅した原因の1つなのだから。

また、絶滅してかなりの時間が経つ種を現代の環境に適応させることにより、新しい病気が蔓延したり、既存の種が置き換えられて実際に地形が変わってしまうなど、エコシステムにさまざまな重大な悪影響が生じる可能性もある(象は結局のところ生態系の技師なのだ)。

生物多様性を維持することがコロッサルの主たる目的なら、今すぐ救える種があるのになぜわざわざマンモスの復活にこだわるのだろうか。ラム氏によると、アジア象のゲノムを編集して回復力を高める試みをしてもよいが、マンモスプロジェクトがコロッサルを導く光輝く目標でもあることに変わりはないという。

ラム氏の見方では、マンモスプロジェクトはムーンショット(困難だが成功すれば大きな効果をもたらす試み)なのだ。このような困難な目標にあえて挑むとしても、絶滅種復活のための独自技術を開発し、それを見込みのありそうな買い手にライセンス供与または売り込む必要がある。

「この計画はアポロ計画によく似ています。アポロ計画は文字通りムーンショットでした。その過程で多くのテクノロジーが生まれました。GPS、およびインターネットや半導体の基本原理などです。これらはすべて大きな収益を生むテクノロジーでした」と同氏はいう。

要するに、マンモスプロジェクトは、多くの知的財産を生み出すインキュベーターのようなものなのだ。具体的には、人工子宮やCRISPRのその他の応用技術の研究プロジェクトなどがあるとラム氏はいう。こうした技術を実現するにはまだまだ多くの科学的なハードルをクリアする必要があるが(現行の人工子宮プロジェクトは臨床試験段階にも程遠い状態だ)、生きた本物の生物体を作り上げることに比べれば少しは実現可能性が高いのかもしれない。

けれども、コロッサルがこの研究を進めるにあたってたくさんの中間的な計画を持っていたというわけではない。コロッサルは、研究過程で記憶に残るブランドを作ろうと躍起になっている。ラム氏に言わせると、それは「ハーバードとMTVの融合」としてのブランドだという。

コロッサルに匹敵するような企業は存在しないとラム氏はいうが、インタビューでは、Blue Origin、SpaceXなどの大手の宇宙開発企業ブランド、そして何よりNASAの名前が登場した。「NASAは米国が作り上げた最高のブランドだと思います」と同氏はいう。

「SpaceXやBlue OriginやVirginの名前を挙げれば、私の91歳の祖母でも宇宙開発企業だと知っています。ULAなどの企業も数十年に渡ってロケットで衛星を打ち上げていますが、誰も知りません。SpaceXやBlue Originは宇宙開発事業を一般大衆に知らしめるのに大きな役割を果たしたのです」。

人を火星に送るというElon Musk(イーロン・マスク)氏の計画を少し連想させるが、同氏の火星探査宇宙船Starshipは、プロトタイプ試験段階から先に進んでいない。

夢のある大きなアイデアは人を惹き付けるとラム氏はいう。そして、その実現に向けた道のりで生まれる知的財産によって、投資家たちの気持ちをなだめることもできる。全体像はどうしてもSF的に見えてしまうが、それも織り込み済みなのかもしれない。

とはいえ、コロッサルはマンモスを復活させることなど本気で考えてはいないなどというつもりはない。今回のシードラウンドで調達した資金は、生存可能なマンモスの胚を作り出すのに十分な額だ。同社は、あと4年~6年で最初の分娩にまでこぎつけることを目指している。

画像クレジット:Colossal

原文へ

(文:Emma Betuel、翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。