コロナ後の世界、7つのシナリオ

編集部注:本稿はJon Evans氏による寄稿記事だ。Jon Evans氏はHappyFunCorpのエンジニアリング担当CTO。グラフィックノベル、紀行本など6作品を発表し、受賞歴もある著述家。2010年よりTechCrunchの週末コラムを担当。

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世界は大恐慌以来の深刻な経済危機に直面したのにもかかわらず、米国株式市場は昨年の同時期よりも高値で推移している。AirBNB、Lyft、Uberなどの米テクノロジー大手が従業員の20%をリストラする一方で、ビッグファイブと呼ばれる米IT大手5社が米国株式市場の時価総額の20%という記録的な割合を占めている。一体、何が起きているのか。

確かに、上記3社は新型コロナウィルス感染症のパンデミックによる直接的な打撃を受けている。しかしそれは他の業界も同じだ。いくつか例を挙げるだけでも、旅行、小売、接客、エンターテインメント、イベント、不動産、ビジネスサービスなどの業界が直接的な影響を受けているし、これ以外の業界も例外なく間接的な影響を受けている。

それでは、市場は全体として、その無限の英知に基づいて、どのような未来を予測しているのだろうか。「市場は、短期的に見れば投票機のようで、長期的に見れば計量器のようだ」という古い名言がある。その計量器で今、測り出されているのはどんな未来なのか。

筆者には、時代の行く末を示す大いなる抽選器の中でガラガラと回るくじ玉が7つ見える。

「V字型」シナリオ

未来のシナリオ:想定される未来の中で最善かつ最も苦労が少ないシナリオ。人間は新型コロナウィルスに勝利し、手洗い、マスク着用、物の表面の消毒などの簡単な対策により、その後の感染者激増を防ぐ。都市封鎖が終わると、人々は一斉に以前と同じ活動に戻る。一部の業界では数か月余分に時間がかかるかもしれないが、秋になれば学校やフライトが再開され、生活はおおむね通常どおりになる。それに続いて経済と雇用も通常に戻り、今回のパンデミックによる短期間かつ急激な不況は、11月になればV字回復する。

市場と多数の政治家が想定していると思われる実現確率:40%ということにしておく。

現実的な可能性:これは途方もなく無知な妄想である。厳重な都市封鎖を実施しても感染者数は良くて横ばいという国が多い。マスク着用や手洗いは効果的で重要な対策ではあるが、それだけでは不十分だ。米国では、マスク着用が嫌で殺人事件が起こるという事態も発生した。最も重要な点は、人々が一斉に以前と同じ活動に戻ることは絶対にあり得ないということだ。実は、以前と同じように活動することを、都市封鎖が始まる前からすでにあきらめていた人々がいたことを示すデータがある。新型コロナウィルスが依然として流行する中では(当然ながら)外出が自粛されるため、都市封鎖の有無に関わらず、個人消費の低迷が続き、それに引きずられて雇用や経済の低迷も続く。

「赤と緑」シナリオ

未来のシナリオ:世界はグリーンゾーンとレッドゾーンに分かれる。グリーンゾーンでは、新規感染者数がゼロに近い状態が維持され、検査1回あたり50ドルを被検者に支給して貧困層の検査を徹底することにより検査の範囲と頻度が向上し、詳細な接触者追跡や自宅外隔離が強制されることにより、集団発生が追跡される。レッドゾーンからグリーンゾーンに移動する人は、グリーンゾーンに入る前にバッファ区域での隔離が課せられる。グリーンゾーンでは経済活動が非常に活発になるが、レッドゾーンでは新型コロナウィルスとの戦いが続き、経済は引き続き半昏睡状態となる。レッドゾーンとグリーンゾーンはほぼ半々であるため、全世界がレッドゾーンになる状態と比較すれば、世界経済へのダメージは半分だけで済む。

市場と多数の政治家が想定していると思われる実現確率:おそらく7%程度では?

現実的な可能性:世界はすでにこのシナリオのような状態である。台湾、韓国、ニュージーランド、(建前では)中国、ベトナムはグリーンゾーンだ。欧州と米国までグリーンゾーンが拡大するかどうかは、わからない。カリフォルニア州は初動が速く、その後の州政府の対応も的確だったが、今では同州だけで中国全土の(報告されている)感染者数と同程度になっている。爆発してキノコ雲になったウランを元の爆弾の形に戻すことは難しい。しかし、十分な検査と追跡ができれば不可能ではない。一方で、政府がパンデミックの現実から目をそらしている州は、グリーンゾーンに転じるために必要なリソースを投じないだろう。こう考えると、不可能ではないとはいえ、筆者の私見では、米国や欧州が実際にグリーンゾーンになる可能性は低く、南米やサハラ以南のアフリカ諸国となるとさらに可能性は低くなると考えている。筆者の母国であるカナダはグリーンゾーンに転じる可能性が高いと考えたいが、分裂して機能不全に陥っている米国との関係があまりにも緊密であることを考えると、何とも言えない。

「ハンマーとダンス」シナリオ

未来のシナリオ:Tomas Pueyo(トマス・プエヨ)氏が数か月前に発表して話題になった非常に秀逸な記事がある。その中で同氏は、現在実施されている都市封鎖(「ハンマー」)の後も、感染者の増減が周期的にずっと続くと書いている。ふと思い出したかのような不定期なタイミングで感染者が急に増え、より厳重な都市封鎖が行われるなど、局地的に抑制策が強化される。しかし、医療崩壊に至ることはなく、ついにワクチンが開発されて普及するまで十分な時間を稼ぐことができる。その時点で集団免疫の実現からはまだほど遠いため、結果的により多くの人命が救われることになる。経済も周期的な波を経験する。勢いよく正常に戻った後に大々的に後退するというサイクルが2020年末まで続き、少なくともそのまま2021年に突入する。

市場と多数の政治家が想定していると思われる実現確率:10%程度。

現実的な可能性:筆者はこのシナリオが実現する可能性は割と高いのではないかと考えている。都市封鎖によって感染者数が横ばいになり、ウィルスを減らせることはわかっている。怖いのは、機能不全と強硬姿勢が広まって、前述の「赤と緑」シナリオが実現不可能になってしまうことだ。少なくとも米国ではそうなる可能性がある。国民も政治家も「組織」と「独裁」の区別がつかず、都市封鎖のような原始的手段を好むからだ。そのような状況を考えると、「ハンマーとダンス」は一番ましな戦略だと思う。しかし、「ダンス」段階でオーバーシュートするリスクがあり、それがおそらく不可避であることが心配だ。とはいえ、経済の観点から考えると、これは良策とは言えない。人々は不安感を抱き続け、経済は(現在よりは緩和されるとはいえ)「ハンマー」対策による打撃を受け続けるからだ。

「特効薬」シナリオ

未来のシナリオ:ヒト感染試験によってワクチン開発が加速して、7種類のワクチンの生産工場が同時に建設されたとしても、実際に普及するのは、最大の期待を込めつつ慎重に見積もって、早くとも2021年に入ってしばらくしてから、あるいはそれより先になるだろう。しかし、ワクチンが唯一の治療方法というわけではない。もし単独あるいは他の方法と組み合わせて使うことで新型コロナウィルス感染症の危険性を緩和できる予防薬や治療方法を発見できれば、非常に良い効果がもたらされるだけでなく、この長引く戦いの流れが一気に好転する。

市場と多数の政治家が想定していると思われる実現確率:少なくとも35%。医師や科学者が「もっと早くワクチンを開発しろ!」と急かされる声が今にも聞こえてきそうだ。

現実的な可能性:「幸せ探しをする少女ポリアンナ」のようだと言われてしまうかもしれないが、筆者はこのシナリオが実現する可能性はかなり高いのではないかと考えている。結論を下すにはまだ早いが、効果が期待できる治療法がひとつふたつと言わずいくつもあることを示す(非常に初期段階の)研究結果がすでに発表されている。ただし、「非常に初期段階の」研究であり、ヒドロキシクロロキンの場合のように、追加研究データによって治療薬候補から外される可能性があることは再度、強調しておきたい。とはいえ、この感染症に関する知識が深まるほど、より良い治療法にたどり着けるだろう。問題はどの程度良い治療法をどの程度早く発見できるかということだが、「かなり良い治療法を割と早く」発見できるというのは、少なくともあり得る答えだと思う。

「集団免疫」シナリオ

未来のシナリオ:引き続き医療崩壊を防ぎ、高齢者、免疫不全患者、糖尿病患者などを、最善を尽くして保護しつつ、いわゆる「集団免疫」を目指す。したがって、ウィルスと戦うことは基本的にやめる。残念なことに、集団免疫が実現する前に、それよりも多くの人がこの感染症の犠牲になることはほぼ間違いなく、高齢者を守ることも不可能に近い(「高度に訓練されたテナガザルが老人介護施設で働いているとでも思っているのか?」と発言した人がいた)ため、このシナリオでは、不要な犠牲者が多数出ることがほぼ確実であるばかりでなく、経済面でもほとんど効果がない。新型コロナウィルス感染症にかかるという、死ぬことはなくても、それまでの人生の中で最悪の経験をするリスクを冒してまで外出したがる人はいないからだ。

市場と多数の政治家が想定していると思われる実現確率:せいぜい10%といったところだろう。一般市民が納得するシナリオでないことは彼らもわかっているし、経済面でも特段の効果は見込めないためだ。

現実的な可能性:これは「ハンマーとダンス」シナリオの中でも最悪のバージョンである。医療崩壊ギリギリのところで何とか持ちこたえるだけだからだ。人々はこれを「スウェーデンモデル」と呼ぶ。スウェーデンが今後どうなるのかはこれから見守るしかないが、スウェーデンの人口がニューヨーク市の人口とほぼ同数であることに注目してほしい。この同じシナリオを「ニューヨークモデル」と呼んだ途端に、その魅力は半減する。ニューヨーク市やイタリアのロンバルディ州の教訓があるため、西側諸国のほとんどの国は意図的に集団免疫を目指すことはないだろう。

「第二波」シナリオ

未来のシナリオ:現在の都市封鎖が緩和されると、すべてが元通りになったように見える。ときどき局地的に流行したり、引き続き多少の感染者が発見されたりするが、基本的には今にも消えそうな小さな炎のようなものになる。しかし、季節性化し、秋が到来すると、だれも予測せず兆候も見えていなかった予想外の第2波が突然襲ってくる。そう、あのスペイン風邪のときと同じだ。

市場と多数の政治家が想定していると思われる実現確率:0%。

現実的な可能性:筆者もこのシナリオが現実になる可能性は非常に低いと思う。第一に、新型コロナウィルスが熱や湿気に弱いのであれば、エクアドルやブラジルで大流行している理由の説明がつかない。第二に、さらに重要な点として、スペイン風邪のときとは異なり、私たちにはスペイン風邪大流行から得た教訓がある。秋、そして冬になっても、世界の半分はアンテナを張り巡らしてあらゆるデータを注意深く観察することだろう。その全員がそろいもそろって前兆に気づかずに、第二波の奇襲攻撃を受けてしまうということはないと思う…ないと願いたい。

「連鎖」シナリオ

未来のシナリオ:これは、まったく別のシナリオというよりも、上記のシナリオの二次効果だ。「連鎖」シナリオでは、新型コロナウィルス感染症が引き金となって、まだ最初の危機に対処している間に、連鎖的に別の重大な危機が発生する。例えば、米国で今年11月の大統領選を延期しようとして、憲法の危機が引き起こされ、米軍の介入が必要になるといったことが想定される。他にも、食料価格が世界中で高騰した結果、多くの国々で食糧不足、暴動、革命が起こる可能性もある。あるいはブラジル、ロシア、インドなど、新型コロナウィルスの被害が特にひどかった国が崩壊するかもしれない。

市場と多数の政治家が想定していると思われる実現確率:0%。二次効果はそもそも市場や政治家が制御できるものではない。

現実的な可能性:非常に低い…でもゼロではない。だから心配だ。

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Category:ヘルステック

Tags:新型コロナウイルス 株式市場

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(翻訳:Dragonfly)
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TechCrunch Japan

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