コンビニの“ビニ傘”を代替、1日70円の傘シェアリング「アイカサ」が12月に公開へ

いきなりだけど、僕はコンビニのビニール傘(ビニ傘)のヘビーユーザーだ。

ズボラな性格のため天気予報をきちんと見ることもなく「今降ってないし多分大丈夫だろう」と傘を持たずに外出。結果的に雨が降ってきて、出先のコンビニで傘を買うことが頻繁にある(そもそも、もし雨が降ったらコンビニで買えばいいやと思っているからなのだけど)。

そんなことを繰り返していると玄関には傘が溜まっていくばかり。処分するのは面倒だし、どこかもったいない気もする。だから今回「アイカサ」の構想を聞いた時、1度は試してみたいなと思った。

1日70円で使い放題の傘シェアサービス

アイカサは12月に渋谷を中心とした都心部でリリースを予定している、“傘”のシェアリングサービスだ。

ユーザーはLINEでアイカサアカウントを友達追加し、盗難防止機能の付いたオリジナルの傘が置かれているアイカサスポットを検索。設置されている傘のQRコードを読み取り、ロックを解除してから利用する。アイカサスポットは店舗やオフィスビルなどの遊休スペースがメインで、ローンチ時点では40〜50箇所が登録される予定だという。

返却する際には傘立てにある返却用QRコードを読み込めばOK。返却場所はアイカサスポットであれば、どこでも好きな所を選べる仕組みだ。料金は1日70円で、24時間以内であれば違う傘を何度でもレンタルすることが可能。1ヶ月の上限金額も420円に設定されているので、月の利用回数が7日を超えた場合は追加料金なく使い放題となる。

1日70円という価格設定もそうだけど“複数の傘を何度でも使えて、好きな場所で返せる”というのがポイント。たとえば電車に濡れた傘を持って入りたくないので駅近辺のスポットで一度返却し、次の駅に到着したら今度は別の傘を利用することもできる。

目的地の近くに傘が余っているスポットがあればの話にはなるけれど、買い物の最中や映画館で映画を見ているだけ手荷物になる傘を手放す、といった使い方もありだろう。この点については、アイカサを運営するNature Innovation Groupを立ち上げた2人の話が興味深い。

「携帯電話は小さくなり、スマホの普及によってキャッシュレスなど色々なことが便利になっていっている。一方で傘はいまだに形もそこまで変わらず、ずっと持ち歩かないといけない。傘を手放せる方法を考えたのが最初のきっかけ。多くの人が当たり前に感じている不便を解決したい」(共同創業者の黒須健氏)

「もともとミニマリスト的な思考があり、買いたくもないものを買うのが嫌だった。急な雨のためにビニール傘を買う人の多くは、傘を買いたいわけではなく、濡れない体験を買いたいのではないか。そう考えた時により安く、より快適な形で濡れない体験を提供できれば面白いと思った」(共同創業者で代表取締役を務める丸川照司氏)

年間で約8000万本のビニール傘が消費される日本

2人の話では日本では年間で約8000万本のビニール傘が消費されているそう。「1本500円で換算すると400億円が使われていることになる。ここをリプレイスできれば、それだけでもビジネスとしては成立する」(丸川氏)という考えだ。

製造費は傘に広告を入れることによる広告収入で賄い、傘の利用料を軸に複数の収入源を見込む。たとえば傘に加えてアプリや傘立てに広告を入れることもできるほか、ユーザーの利用データが貯まればそれを活用したマネタイズプランも検討しているとのこと。傘の利用料に関しても、雨傘だけでなく日傘の展開もあるうるという。

どちらにせよそれらのプランが成り立つためには、一定数のユーザーの生活に根付いたサービスに育てる必要がある。そんな背景もあり、ユーザーの使い勝手を考えた上でモバイルアプリではなくLINE上で動くアプリとして開発。「(LINEアカウントを保有して入れば)アプリのダウンロードや新規登録などの手間もない。急に雨が降ってきた時でもすぐに使える」(丸川氏)ことにこだわった。

3月には渋谷エリアで150本のビニール傘を使ったβテストも実施。当時はテストということもあり、10分ごとに1円という料金で提供したところ、100人程度が傘のシェアリングを体験したそう。ある程度ニーズがある実感を得たため、アップデートを加えたものを正式版としてリリースすることになった。

カギはアイカサスポット、雨の日のインフラ目指す

アイカサを開発するNature Innovation Groupの共同創業者。左が代表取締役を務める丸川照司氏、右が黒須健氏

アイカサの使い勝手を決める要素としては、もうひとつ重要なものがある。実際に傘を借りたり返したりするためのアイカサスポットだ。黒須氏も「スポットの開拓がアイカサのUXに1番影響を与える部分」だと話していて、今後はスポットがどれだけ充実していくかがポイントとなりそうだ。

遊休スペースをアイカサスポットとして提供する提携店にとっては、使ってない場所を有効活用することで副収入を得られるほか(アイカサ利用料の一部をレベニューシェア)、既存顧客の満足度向上やこれまで接点のない顧客と新たな関係性を築くためのツールにもなりえるという。お店のページにクーポンを表示できるような機能も考えているようだ。

集客ツールとしても機能しうる点などは荷物の一時預かりサービス「ecbo cloak」などと近しい部分もあるけれど、傘の場合は店舗側のスタッフにほとんど余計なオペレーションが発生しない部分はひとつの特徴と言えるかもしれない。

昨今は様々な企業がSDGs(持続可能な開発目標)への取り組みを活発化させているけれど、アイカサでもシェアリングの仕組みを通じて継続可能な傘の在り方を推進していく計画。軍資金として8月にはIncubate Fundと他1社から資金調達も実施した。

今後はアイカサスポットの拡大に向けた企業や行政との連携も強化しながら、2020年には東京を中心とした全国で3万本の傘が流通するサービスを目指す。

「新しい『雨の日のインフラ』を作っていきたい。これまでしょうがなく買っていたビニール傘を買わずに済んだり、長時間雨宿りしていたようなことがなくなったり。大きい目標ではあるが、10年とか15年経った頃に『昔は雨が降った時にビニール傘を買っていたんだよ』という会話が生まれるような世界観を目指して取り組んでいく」(丸川氏)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。