コンピュータ科学とプログラミングの全国民“一般教科化”を目指すCode.org

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ハッカソンで何かを簡単に手早く作ってしまうプログラマたちを見ていると、世の中の一般人は、宅配ピザの空き箱とRed Bullの缶が散乱したHarvard(ハーバード大学)の学生寮の、薄暗い一室を想像するかもしれない。なぜなら、世界の、サンフランシスコとニューヨークを除くあらゆる部分で、人びとはプログラマという人種を映画“The Social Network”でしか見たことがないからだ。Hadi Partovi/Ali Partovi兄弟は、今日(米国時間1/22)非営利事業として立ち上げたCode.orgでもってこの状況を変え、コンピュータ科学とプログラミングを誰もがアクセスできるものにしたい、と考えている。誰もがとは、プログラミングをしたい人という意味ではなくて、文字どおり、誰でも、世の中の人すべて、という意味だ。

文章を書くことに比べてコンピュータのプログラムを書くことには、なぜ今のような大きな格差があるのか、昨日Hadiに会ったぼくは、まずそれを聞いてみた。彼は、“それは放っておいてよい格差ではなく、この国が解決しなければならない重要な問題だ”、と言った。格差の原因の一部は、本当なら今や誰もが学ぶべきコンピュータ科学を、学校が教科として教えないことだ。また教師をはじめ今の世の中の一般人は、プログラミングが読み書きと同格の必須スキルであることを、理解していない。Partoviは、この大きな問題に挑戦することを自分のライフワークとし、そのための行動の一環として Code.orgを立ち上げた。

Partoviはこれまでの経歴がすばらしくて、iLikeやTellmeのファウンダの一員だったし、FacebookやDropboxやAirbnbなどにも投資やアドバイスを提供している。

私はこの業界で過ごした経験から貴重なものを多く学び、そして、ソフトウェアというもののおかげで世界が完全に変わってしまったことも知った。そこでは、新しい仕事が増えているだけでなく、産業の形も大きく変わっている。にもかかわらず、学校は逆の方向を向いている。しかし、世界でもっとも高い給与をもらっている人に、世界でもっとも低い給与の仕事をやってもらうことは、困難である*。

〔*: もっとも高い給与をもらっている人==プログラマ(など)、もっとも低い給与の仕事==学校の先生。〕

スタートアップという仕事は、必ずしも収入の良い仕事ではないが、そのことも学生たちのあいだでコンピュータに人気がない理由かもしれない。でも、誰もがある程度コードを書けるようになったら、これまでアイデア倒れに終わっていたような発想にも、実現に向かう道が開けるはずだ。コンピュータプログラミングは、ふつうの仕事に就いた若者にも、そのための道具や武器を与える。

実はPartoviのこのCode.orgプロジェクトを紹介する短編ビデオには、自分のアイデアをプログラミングを通じて大きく実現した人物像のモデルとしてMark Zuckerberg(Facebook CEO)が、出演する可能性もある。Zuckerbergと並んで、Bill Gatesも出演するらしい。このビデオの目的は子どもたちに、コンピュータのプログラミングは勉強する意義のあるすばらしいものであり、しかも、考えていたよりも楽しいことを、伝えることにある。楽しみとしてのプログラミングはそろそろ、親の家の地下室に住む“スーパースマートキッズ”たちの独占を脱し、広く一般に開放される必要がある。

なお、この短編ビデオを作ったLesley Chilcottは、Code.orgのチームの一員であると同時に、映画“An Inconvenient Truth”や“Waiting For Superman”のプロデューサーでもあった人だ。

そのビデオは、制作時の契約に基づいて、全米で50万以上のクラスに寄贈される。先生たちは、それを教室で再生するだろうか? それはまだ未知数だが、ビデオには先生たちに対する啓蒙の意味もある。Code.orgがやっていることに関心のある先生や親たちは、寄贈対象になってなくても、ぜひそのビデオをもらうべきだ。

数字が語る真実

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Partoviによると、コンピュータ業界にはおよそ140万の仕事があるが、これまでコンピュータ科学を専攻して大学を卒業した者の合計はわずか40万だ。その差は、小学生にも分かる、約100万だ。コンピュータを仕事とする人材が、絶対的に不足している。だからこそ、これからは、プログラミングを義務教育の必須教科にしていくことが重要なのだ。Partoviは次のように言う:

オバマ大統領は、税金を上げる必要も、歳出をカットする必要もない。子どもたちをしっかり教育して、それらの仕事が海外に逃げて行かないようにすればよいのだ。

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[インフォグラフィック訳:
2020年にはコンピュータ関連の仕事の数がコンピュータ科学専攻学生の数より100万多い。

コンピュータ科学は大卒の中で二番目に高収入の学位、コンピュータプログラミングの仕事は全国平均の倍以上の成長率。

仕事はコンピュータ科学に多く、しかし専攻学科はコンピュータ科学がとても少ない。

大卒でコンピュータ科学の学位取得者は全学卒の2.4%以下、しかも10年前よりも減少。

高校教師でコンピュータ科学専任は1000人中6人。

あなたの学校をcode.orgに登録しよう。
]

数字の話の続きとしてPartoviとぼくは、スタートアップとテクノロジ企業を全部合わせると今後の雇用機会はどれぐらいになるのか、という話をした。関連してレストランやバーといったサービス業の開業や雇用機会も増えることを、忘れてはならない。Justin KanのExecのようなサービスは、各種サービス業のプロたちと、彼らへのニーズを結びつける。

平等公平なアクセス

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重要なのはアクセス性だ。Code.orgも、そこから始める。Partoviは次のように説明する:

だから、本当は100万以上もの新しい雇用機会がある。それによって、この国の最大の問題が解決できる。しかしその機会に実効性があるためには、すべての子どもや児童生徒学生たちが、全員、簡単にプログラミングを学べるのでなくてはだめだ。

もちろん、プログラミングができることイコール、プロのプログラマになることではない。どんな仕事でも、今および将来は、コンピュータとネットワークと日常使うアプリケーションを正しく理解して、数行のスクリプトぐらい自分で書けることが重要なのだ。医師も弁護士も、クラウドについて、あるいはドキュメントがどこに保存されているかについて、基本的なことを知っているべきだ。Partoviの説では、農家の人たちでさえ、農業は今やテクノロジと無縁ではないから、コンピュータ科学の基礎を理解していないと次世代のイノベーションについて行けなくなるだろう。

Partoviの話は、だんだん熱を帯びてくる:

これは、一業界の問題ではなく、国家の問題だ。宇宙開発に着手したときと同じぐらい、あるいはそれ以上に重要な、全国民の抜本的な能力開発だ。やるかやらないか。今やらなければ、アメリカはずっと後方に置き去りになる。これからの子どもたちには、何を備えさせてやるべきか、真剣に考えよう。わが国の教育システムは150年間変わっていない。その間、新しいものは何一つ加わっていない。だから、今加えるべきものが、ものすごく重要なのだ。

Code.orgが今やろうとしているのは、何らかの形でプログラミングを教えているクラスのデータベースを作ることだ。高校、大学、子どもたちの週末行事、などなど。このデータベースの作成には、誰もが参加できる。うまくいけばそれは、この種のデータベースとしては世界最大のものになるはずだ。今は、まだ始まったばかりだが。

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学ぼうと思えば、公立校の11歳のヒスパニックの少女でも学べるのに、今はまだ、たとえば2〜3人の少女たちがコンピュータを囲んでプログラミングをしている、なんて、ありそうな画像が実はまったくない。この状況をこそ、変える必要がある。

Codecademyなどのサービスも、この問題の克服に取り組んでいる。それは、浅瀬で足を濡らしてみるのに適したサービスだし、また友だちを誘うのにも適している。

テクノロジは多くのドアを多くの人びとに開放しているし、個人にとっての参入障害はほとんどまったくない。コンピュータとインターネットへの接続があれば、今すぐにでも勉強を開始できる。次の”Mark Zuckerberg”は、Zuckが思わず感心してしまうような子どもたちの中から、出現するだろう。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa))