ゴミテック、道路点検AI、小型衛星エンジンなど、東大IPC起業支援プログラムが新たな支援先を発表

東京大学協創プラットフォーム開発(東大IPC)は3月25日、起業を目指す現役東大生や卒業生などの大学関係者、起業をしてまもない東京大学関連ベンチャーに対して事業化資金や経営支援を提供するプログラムの新たな支援先を発表した。

今回で同プログラムは5回目を迎える。前回からは各業界のリーディングカンパニーと共同でコンソーシアム型のインキュベーションプログラム「東大IPC 1st Round」として運営をスタート。JR東日本スタートアップ、芙蓉総合リース、三井住友海上火災保険、三井不動産、三菱重工業に加えて、新たにトヨタ自動車と日本生命保険がパートナーとして参画した。

今月には前回参加企業のエリーが三井住友海上キャピタルから出資を受けるなど、すでに採択企業とパートナー企業の協業事例も生まれている。

ここからは支援先に選ばれた6チームを紹介していこう。

Pale Blue : 水を推進剤とした小型衛星のエンジンを開発

Pale Blueは「小型衛星」を動かすためのエンジンを開発しているチームだ。

近年、衛星の小型化により宇宙産業への参入障壁が下がり、小型衛星市場に注目が集まっている。この小型衛星を宇宙空間で動かすには推進器(エンジン)が必要になるが、大型衛星用のエンジンには高圧ガスや有毒物が推進剤として用いられているため、体積や重量、コスト感の観点で小型衛星にはマッチしないことが1つの課題とされてきた。要は小型衛星用のエンジンが必要なわけだ。

Pale Blueが目指すのは、東京大学で研究を進めてきた「水」を推進剤としたエンジンを社会実装すること。水は低コストなうえに安全無毒で、なおかつ入手性や取扱い性にも優れる。

同チームは東京大学の小泉研究室で5年以上に渡って衛星やエンジンの研究開発を行ってきたメンバーが立ち上げた。CEOの浅川純氏は2019年に小泉研究室で博士号を取得し、現在は東大の特任助教を務めている。

ファンファーレ : 産業廃棄物回収の省力化目指す“ゴミテック”企業

ファンファーレはテクノロジーを活用して廃棄物業界の省力化や効率化を目指す、ゴミテック領域のスタートアップだ。同社は最初のプロダクトとして産業廃棄物回収における配車計画を瞬時に作成するサービスを手がけている。

配車計画を立てる際には何十台の車と作業員、作業種別、処分場などさまざまな要素を踏まえる必要があるが、この複雑な作業を配車係がエクセルや紙を使って毎日行なっているため負担が大きい。前日にキレイな計画を作っても当日イレギュラーが発生することも頻繁にあり、1日の70%ほどの時間を配車表の組み替えに使っているそうだ。

ファンファーレのサービスを使った場合、乗務員情報やコンテナ情報、案件情報などを入力すると、瞬時に計算して効率的な配車表を出力。約7時間かかっていた作業が3分ほどで終わるという。

ファンファーレ代表取締役の近藤志人氏は前職のリクルートホールディングス時代に同社でUX業務を行う傍ら、副業として産廃大手の基幹システムの改善に携わっていたそう。その際に現場の課題を知ったことが、この領域で事業を立ち上げるきっかけになった。

UrbanX Technologies : スマホを活用した道路点検AI

UrbanX Technologiesはスマートフォンやドライブレコーダーなどの簡易デバイスを用いて、都市空間のリアルタイムデジタルツインを構築することを目指すスタートアップだ。

現在このチームでは、車のダッシュボード上にスマホを設置した状態で道路を走行すると、リアルタイムに損傷箇所を検出してくれる道路点検AIを開発している。従来この点検作業はレーザーなどを備えた専用車を用いるか自治体の職員が目視で実施するかの2パターンが主流だったが、前者はコストがかかりすぎるため網羅的な点検が難しく、後者の場合も専門職員不足や予算不足などから十分な点検ができていないケースがあるという。

UrbanX Technologiesではそれに変わる新しい選択肢として、スマホをベースとしたリアルタイムかつ高精度な点検システムの社会実装に取り組んでいる。

UrbanX Technologiesは東京大学生産技術研究所の特任研究員である代表の前田紘弥氏と、東京大学生産技術研究所人間・社会系部門准教授の関本義秀氏が中心となって立ち上げた。4月を目処に法人化をする予定だ。

スマートシティ技術研究所 : 道路の状態をスマホ一台で定量評価

スマートシティ技術研究所は独自の車両振動解析技術とAI画像処理技術を用いて、スマートフォン1台で道路の状態を定量評価する技術「GLOCAL-EYEZ」を開発している。

現時点で取り組んでいるのは上述したUrbanX Technologiesと近しく、道路点検の領域だ。車にスマホを設置して道路を走ることで車両の振動と前方の画像を取得。振動を分析することで路面のプロファイルを推定し、前方画像をAIで分析することで路面のひび割れなど不良箇所を検知する。

同社の技術はすでに土木研究センターによる「路面性状自動測定装置性能確認試験」に合格した実績もあり、高価な専用測定車両に劣らない点検精度を低コストかつ簡単な操作で実現することを目指していているという。

スマートシティ技術研究所は東京大学博士卒のZHAO BOYU(チョウ ヒロタカ)氏と現東京大学研究員のXUE KAI(セツ ガイ)氏が創業。2人は共に長年路面評価技術の研究に従事してきた経験を持つ。ゆくゆくは道路の分野のみならず、様々なインフラ維持管理の分野に同社の技術を広げていく計画だ。

Liquid Mine : リキッドバイオプシーを用いた白血病遺伝子検査

Liquid Mineは次世代の白血病検査法を実現しようとしている医療スタートアップだ。

同社の代表取締役を務める近藤幹也氏は現在東京⼤学医科学研究所(IMSUT)の博士課程に在籍中で、⾎液内科専⾨医として白血病診療に携わってきた経験も持つ人物。近藤氏によると従来の白血病検査法は全ての患者に適応できるわけではないことから、時に本当に最適な治療方針を立てることができない現状があるそう。その課題を解決したいという思いがLiquid Mineを立ち上げたきっかけにもなった。

Liquid Mineが研究開発を進めているのは、IMSUTの独自の遺伝子解析手法と液体生検(リキッドバイオプシー)を組み合わせた検査方法。血液を用いることで患者の負担を軽減しつつ、今まで以上に多くの患者に適応可能な仕組みを確立することで、個々の患者に最適な治療環境を提供することを目指す。

Liquid Mineには近藤氏のほか、ゲノム医療の知見を持つ複数人のメンバーがアドバイザーとして参画している。

Magic Shields : 転んだ時にだけ柔らかくなるマット

Magic Shieldsが開発を進めているのは、歩くときは硬く、転んだときだけ柔らかくなるマットや床「ころやわ」だ。

背景には高齢者や神経疾患を持つ患者が頻繁な転倒によって骨折してしまう現状がある。同社で代表取締役CEOを務める下村明司氏によると、高齢者の転倒による骨折は国内で毎年100万人発生しているそう。本人や家族の苦しみが大きいことはもちろん、社会的な観点でも医療費や介護費が増大する原因になってしまっている。

そこでMagic Shieldsでは転んだ際にだけ柔らかくなることで衝撃を吸収する、手すり付きのマットを開発。まずは転倒が発生しやすい自宅の居間や寝室に設置してもらうことで、高齢者や神経疾患を持つ患者を骨折から守ることを目指す。

下村氏はヤマハ発動機でさまざまなバイクの設計を手がけてきた技術者。チームには下村氏と同じくヤマハ出身の技術者や理学療法士のメンバーなどが参加しているという。

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TechCrunch Japan

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