サブスクベースの歯ブラシ交換サービスからフロス、マウスウォッシュなど製品を拡大、口腔内ケア市場に基盤を築くQuipが約110億円調達

個人および歯科医向けの大規模口腔ケアプラットフォームを目指すQuip(クイップ)が新たに1億ドル(約110億円)を調達し、目標実現に向けて資金源を獲得した。

Cowen Sustainable Investments(CSI)主導の今回のシリーズB新ラウンドは、2020年4月にQuipが黒字化を達成したことを受けて開始された。これで同社の2015年創業以来の資金調達総額は合計1億6000万ドル(約176億円)を超えることになる。前回発表された調達額は2018年の4000万ドル(約44億円)だった。Quipは2015年のTechCrunch Disrupt NYのStartup Alleyで同社のサービスをプレゼンテーションしている。

当時Quipはサブスクリプションベースの歯ブラシ交換サービスとして有名だったが、その後数年で、フロス、マウスウォッシュ、デンタルガム、スマート電動歯ブラシなどを製品ラインに追加し、4350億ドル規模の口腔内ケア市場で着実に基盤を築いてきた。最近では、歯列矯正医対応バーチャル歯列矯正器具サービスを4月に開始している。

Quipの共同創業者兼CEOであるSimon Enever(サイモン・エネバー)氏はTechCrunchの取材に答え、同社の長期ビジョンは「口腔ケアのカテゴリで持続的なグローバルビジネスを構築し、事業を適正な規模に維持すること」だと語っている。Quipは、成長、イノベーション、世界100カ国におよぶ750万人の顧客からなるコミュニティの構築に重点を置いている。

「この時期に新しいラウンドを実施し、このような大きな資金を調達したのは、意図的な戦略です」と同氏はいう。「我々は、口腔ケアアプリに必要な基本ピースをまず揃え、そして数カ月前に歯列矯正器具などのサービスを開始しました。こうして今、世界的に注目される利益を出すことができるコアビジネスを展開していることを証明したかったのです」。

6年前にQuipが創業し資金を調達した頃は、口腔ケアスタートアップはほとんどなく、同分野での資金調達もあまり行われていなかった、とエネバー氏はいう。そもそも同氏がQuipを起業しようと決断したのも、8年前の歯科検診で歯科口腔分野における投資が極めて低調であることを知ったからだ。その後、デンタルケアの分野に革新を起こすスタートアップが次々に登場し、個人と専門医の両方に向けた投資が行われるようになった。歯列矯正や予約システムなど、Quipが現在取り組んでいる分野は特に注目されている。

Quipは、今回調達した資金で、すでに750万人のユーザーがいる個人向け口腔ケアプラットフォームをさらに拡充し、そのユーザーを5万人を超える歯科医師のネットワークに接続できるようにする。また、新しい分野にも参入し、グローバル事業の拡大も図って、口腔ケアコンパニオンモバイルアプリに新しい機能を導入する予定だ。

アプリユーザー数は2022年には100万人を超えると予想している、とエネバー氏はいう。新機能により、コーチング、ヘルス監視による口腔ケア習慣の追跡という同社のミッションが補完されることになる。アプリのメンバーは習慣と健康を改善することでポイントを獲得し、獲得したポイントをQuipやパートナー各社の製品やディスカウント券と交換できる。

エネバー氏はQuipの従業員数(ニューヨークとソルトレイクシティー)を2022年末までに現在の200人から2倍に増やす計画だ。

「当社には野心的でやる気に満ちたチームがあります。現在の地位を築けたのもこのチームがあったからです。このチームを拡大して、次の段階への事業展開をサポートできることにワクワクしています」と同氏は付け加えた。「当社のチームのパフォーマンスには目を見張るものがあります。ここ数年で目標を達成し、4つの個人向けの口腔ケア新製品を導入して、Walmart(ウォルマート)への製品提供を開始して黒字化を達成しました。パンデミックの中、こうした実績を残した当社チームは本当にすばらしいと思います」。

小売売上高は2020年比で100%以上の伸びを達成しているという。また、Walmartへの製品提供に加え、Target(ターゲット)への製品提供も始まっており、提供先小売店舗数は1万店を超えている。

CSI社長のArtem Mariychin(アルチョーム・マリチン)氏は、今回の投資の一環として、Quipの取締役会に参加する。環境持続可能性を重視した成長投資戦略を掲げているCSIは、ゴミ対策など、世界の環境に好影響を与える企業をさがしている。同社がQuipに興味を持った理由もそこにある。

Quipでは、紙の包装とリフィル可能製品のリサイクルプログラムによって、1億個の使い捨て部品が埋立地に向かわずに済むと推測している。目標は、今後12カ月で約45万キログラムのプラスチックを削減または再利用することだ。

マリチン氏は他の消費財企業と比較したQuipの成長率、および同社の資本効率の高さと消費者中心型志向にも惹きつけられたという。これは口腔ケアビジネスにしかない特徴だ。

「Quip製品は高価ではないが、高品質で消費者ニーズに応え、難題を解決します」と同氏はいう。「サイモン氏のそもそもの目的はブラッシング効果を向上させることでした。現在、1日2回ブラッシングする人は50%しかいないからです。しかし、Quipは歯ブラシの製造だけではなく、フロスやマウスウォッシュにまで取扱製品を拡大しました。驚いたことに、サブスクリプション契約者は歯ブラシ以外の製品も購入するようになっています。Quipは歯列矯正器具など、他のデンタル製品も扱うようになっています。これはeコマース企業では例外的です」。

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画像クレジット:Quip

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(文:Christine Hall、翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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