ザッカーバーグの「今年の決意」は政治―Facebook CEOのままでの公職就任期間に2年の縛りはない

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マーク・ザッカーバーグがFacebookの経営者でありながら公職に就ける期間は2年間に限られていない(この点について当初誤った解釈が報道されたが、われわれは記事を訂正した)。SEC〔証券取引委員会〕に提出された文書を精査すれば、ザッカーバーグは十分なパーセンテージの株式を保有しているかあるいは取締役会の承認を得るかすれば無期限に公職に就くことができる。

昨日(米国時間1/3)、ザッカーバーグは「今年の決意」を発表した。それによると2017年のザッカーバーグの目標は全米50州すべてを回って人々の声を直接聞くことだという。先のSEC提出文書とこの決意の発表によって「ザッカーバーグは真剣に政治に取り組もうとしている」という観測がメディアに一気に広まった。

2年間という期限がないのであれば、ザッカーバーグはこれまで考えられていたよりはるかに重要性の高い公職に任命、あるいは選出されることが可能になる。任期が2年未満と限定されていては、たとえ閣僚に任命されても表面的な影響しか与えることができない。

もちろん選出されるためには有権者の信頼が欠かせない。最近のフェイク・ニュース事件はこの点について信頼を揺るがすものだった。一部にはザッカーバーグの政治への関心を―慈善活動への巨額の出資にも関わらず―権力の利己的な追求だと考えるものもいるだろう。また一部の公職は歴史的に営利活動から隔離される必要がある。つまりザッカーバーグはFacebookの経営から手を引かねばならない。しかしドナルド・トランプ次期大統領は大統領の地位にあって保持可能な営利企業の持ち分について制限を緩和しようとしている。

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ザッカーバーグとブラジル大統領(上)、イスラエル大統領(左)、メキシコ大統領(右)

訴訟文書が明らかにしたザッカーバーグとFacebookの取締役であるマーク・アンドリーセンとのやり取りについての解釈の混乱はBloombergの記事に端を発しているようだ。株主総会で投票権のないクラスC株を新設する(つまりザッカーバーグがほぼすべての持ち株を慈善事業に移管してもなおかつFacebookの議決権を握り続けることができる)という案に取締役会メンバーを賛成させるためにはどうすればよいかをザッカーバーグとアンドリーセンは密かにテキスト・メッセージで話し合ったとされる。結局、ザッカーバーグはFacebook株のほとんどをザッカーバーグ夫妻が創立した慈善団体Chan Zuckerberg Initiativeに寄付した。

この過程でZuckerbergは 「経営者交代に基づく混乱を最小限に止める」ためのいくつかの施策に同意した。簡単にいえば、万一ザッカーバーグが死亡しあるいはCEOとして経営が継続できない障害を負い、解雇され、自発的に辞職した場合、現在1株につき10議決権のクラスB株にもとづくザッカーバーグのFacebookに対する絶対的支配権をどう取り扱うかを決めたものだ。こうした事態が生じた場合、ザッカーバーグ本人はすでにFacebookを支配していないので、前述のクラスB株は1株につき議決権1票のクラスA株に転換される。これは高い経営能力を持った人物にとってFacebookのCEOの地位の魅力を高めるためだ。

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ザッカーバーグ、サンドバーグとインドのナレンドラ・モディ首相

しかしザッカーバーグはこの「日没自動発動条項(sunset trigger)」に大きな例外を設けることを認めさせた。つまりザッカーバーグは公職に就く場合にはCEOを自発的に辞職ないし休職してもFacebookの議決権を失わないといいうものだ。この条項に付随する条件は次の2項目のいずれかの場合だ。

  • (2016n年)6月にザッカーバーグが公職に就く場合についてFacebookの社外取締役と話し合い、この合意に署名した際に所有していたFacebook株式の30%以上を彼が引き続き所有していること

あるいは

  • ザッカーバーグが所有する株式が30%未満であって、Facebookの社外取締役の過半数の承認を得るかあるいは公職に就く期間が2年未満である場合

Facebookの広報担当者はこの解釈が正しいことを認めた。法律用語で書かれた原文は以下のとおり【略】

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簡単にまとめればこうだ。もしザッカーバーグが十分なFacebook議決権を握っているなら、自由に公職に就くことができる。議決権を持っていない場合は取締役会の承認を必要とする。訴訟で明らかになったザッカーバーグとアンドリーセンのやり取りで言及された「2年間のしばり」はたしかに議論はされたが、実際に署名された文書の条件には含まれなかった。

Bloombergの先月の記事はザッカーバーグの公職就任に2年間という限度があると紹介はしたものの、その限度が適用されない場合については述べていない。Fortune、Vanity Fair、The Guardianを含め他の記事はすべてBloomberg記事の引用、再掲だった。TechCrunchも昨日同様の記事を掲載したが、われわれは不整合に気づいて修正した。

この混乱が正されれば、ザッカーバーグが単にソフトウェア・サービスだけでなく、政府の公職を通じて世界を変えようとしていることの真剣さが分かってくる。ザッカーバーグはたびたびFacebookを「町の広場」、つまり良識を保ちながら多様な声に耳を傾けることができるプラットフォームとして語ってきた。

Zuckerberg leads a town hall meeting at Facebook's headquarters with President Obama in 2011

2011年にFacebook本社にオバマ大統領を迎えて「タウンホール・ミーティング」を主催するザッカーバーグ。

ある意味で、Facebookはすでに国だ。ザッカーバーグはアメリカ全土をめぐり、人々から直かに声を聞き取る共感のツアーを計画している。ザッカーバーグは「私の仕事は世界を結びつけ、すべての人々に声を与えることだ。今年、私はこうした声をもっと直かに聞き取りたい」と昨日書いた。。これは支援者と握手したり赤ちゃんにキスしたりするお馴染みの選挙キャンペーンを思い起こさせる。過去数年、ザッカーバーグは世界を旅し、インド、ブラジル、日本などの重要な国の指導者と会談してきた。今年はアメリカ国内を重点とするのは理にかなっている。

FacebookのCOO、シェリル・サンドバーグは結局政府の職に戻るのではないかという観測が流れている。その一方で、ザッカーバーグの政治を通じて「世界を変える」という野心は2年間という制限の枠に収まるものではないこともはっきりした。ザッカーバーグは波乱も多いが繁栄している18億人のオンライン国の事実上の大統領だ。3億2000万人の現実の国の政治でも大きな成果を収めることができるのではないか?

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(翻訳:滑川海彦@Facebook Google+

投稿者:

TechCrunch Japan

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