ザッカーバーグはどうやら欧州で味方をつくれなかったようだ

欧州連合の議員との会合で、Facebook創設者のザッカーバーグはEU一般データ保護規則(GDPR)の“コントロール、透明性、責任”という原則に言及した。この新たな規制GDPRは25日金曜日に施行され、そこには、反した場合に科す罰則も盛り込まれている。FacebookはGDPRを遵守すると、とザッカーバーグは明言した。

しかしながら、今回の会合では透明性や責任というものはほとんど見られなかった。会合に出席した議員からかなり突っ込んだ質問が1時間にわたって出されたが、ザッカーバーグは黙って顔をひきつらせながそうした質問を聞いたのち、そこから答えやすいものばかりを選んだ。

議員からの質問は多岐にわたり、その多くはFacebookの企業倫理について深く掘り下げるようなものだった。情報の不正使用によるプライバシーの侵害の影響はどの程度あったのか、Facebookが会社分割を必要とする独占状態にあるかどうか、データの不正使用についてユーザーはどのように償われるべきか、といったものだ。

Facebookは本当にGDPRを遵守しようとしているだろうか、という質問が何回も投げかけられた(当然のことだが、データ保護を専門とする懐疑派の議員からだ)。Facebookはなぜ15億人にものぼる世界のユーザーのデータ操作ステータスを変更し、GDPRの効力が及ばないようにしたのか。ユーザー情報をもとにしたターゲット広告をやめることを必死に回避してきた同社だが、そうしたターゲット広告のシステムを人々が拒否できるプラットフォームを提供する用意があるのだろうか。

そもそも、なぜ欧州議会との会合を公にすることを拒んでいたのか。EUのプライバシー規則に反対するロビー活動に、なぜ何百万ドルもの金を費やしたのか。サービスを運営している国で税金を払うのか。フェイクアカウントを防止するためにどんな取り組みをしているのか。いじめを防ぐ取り組みはどうか。コンテンツを規制するのか、それともニュートラルなプラットフォームなのか。

矢継ぎ早に厳しい内容の質問がなされ、ザッカーバーグは集中砲火を浴びた格好だった。しかしいざ質問に答える段になると、それは応答の体をなしていなかった。自分が選んだテーマで話したいことだけを話し、しかもそれは事前に準備されたものだった。

ここに、なとびきりの皮肉がある。人々の個人情報は、あらゆるトラッキング技術やテクニックを介してFacebookに大量に流れている。

Cambridge Analyticaによるデータ不正使用スキャンダルの詳細が物語っているが、個人情報はFacebookから大量にリークされたのだ。そのほとんどがユーザーの知らないところで行われ、もちろん同意を伴うものでもなかった。

Facebookの運営の話しになると、同社はかなりの秘密主義を展開している。ほんのわずかな’ニュースフィード“を公開し、どんなデータをどういう目的で収集しているのか詳細は一切明らかにしない。

先月もザッカーバーグは米国議会との会合に臨んだが、そこでもやはり基本的な運営についての質問にまともに回答することを避けた。もし今回の会合で真の透明性や責任の所在が明らかになることを期待していた議員がいたとしたら、完全に失望しただろう。

Facebook ユーザーは、Facebookに自らアップロードしたデータは、ダウンロードできる。しかし、Facebookがあなたについて収集した全情報をダウンロードできるわけではない。

欧州議会の会派の代表らの関心はいまやFacebookのビジネスに集中しているようだ。そして、今回のザッカーバーグの黙り芝居を、Facebookに罰則を適用するためのさらなる証拠としてとらえる向きもある。

EUの規則はお飾りではない。GDPRの欧州外への影響と、有力なパブリックプロファイルはさらなる政治的な論争を展開しそうな勢いだ。

ザッカーバーグが欧州議会の声に耳を傾け、これまで同様のことを語ることで、CEOがブリュッセルでの会合に出た、という事実を作ることをFacebookが今回望んでいたのなら、これは大きな誤算だったようだ。

「まったくザッカーバーグの対応には失望させられた。議員からの詳細な質問に答えなかったことで、欧州の市民の信頼を取り戻すチャンスを失った。それどころか、出席議員に‘より強い規則と監督が必要’との印象を与えた」と、欧州自由連盟議員でGDPR報告者でもあるJan Philipp Albrechtは会合後、我々にこう語った。

Albrechtは会合で、FacebookはWhatsAppとデータの共有をどう行なっているのか、とただした。この問題はデータ保護当局の怒りをかっている。当局がFacebookに対し、そうしたデータフローを止めるよう促しているのにもかかわらず、Facebookはいまだにデータ共有を続けている。

また議員は、そうした2つのアプリ間でのデータ交換はしないことを約束するよう迫った。しかし、ザッカーバーグは頑として約束は口にしなかった。

欧州議会で人権委員会(Libe)の委員長を務めるClaude Moraesは会合後、極めて厳しいトーンではあったものの、そつのないコメントをしていた。

「データ漏えいの結果、Facebookの信用は地に落ちた。こうした状況を打開し、Facebookは欧州のデータ保護法を完全に遵守していると人々に納得してもらうためには、ザッカーバーグ氏とFacebookは真摯に努力しなければならない。’私たちはユーザーのプライバシー問題を真剣に考えている‘といった一般的なコメントだけでは不十分だ。Facebookはそれを行動で示さなければならない。差し当たり的なものであってはならない」と述べている。

「Cambridge Analyticaスキャンダルの件はすでに現在のデータ保護ルールに違反しており、間もなく施行されるGDPRにも反するものだ。この法律に従い、欧州データ保護当局はしかるべき対応をとることになるはずだ」とはっきり語ったのは英国議会の文化・メディア・スポーツ省の委員長Damian Collinsだ。

同委員会はこれまでに3度ザッカーバーグを召喚しているがいずれも実現していない。完全にザッカーバーグに拒絶され、容赦ない姿勢は当然だろう。ザッカーバーグの代理として英国議会で証言に立ったCTOが質問に対してあいまいにしか答えなかったことでもFacebookを非難している。

Collinsはまた「欧州議員からの極めて重要な質問について綿密に調べる機会を逸したのは残念だ。シャドープロファイルやWhatsAppとのデータ共有、政治広告を拒否できるかどうか、データ不正使用の実際の影響度合いはどうだったのか、といったことに関する質問は図々しくも回避された」と指摘した。「残念ながら今回とった質問形式ではザッカーバーグに質問の選り好みをさせる結果になり、各指摘についての回答はなかった」。

「出席議員の、今回の会合はまったく意味をなさなかったという明らかな不満をここに代弁する」とも付け加えた。“ユーザーが知りたいこと”を議会で明らかにするという点では、今回の会合は結局4回目の失敗に終わった。

今回の会合の最後の方では何人かの議員が明らかに激昂した様子で、これまで答えなかったことについて再度ザッカーバーグを質問攻めにした。

ザッカーバーグが話しを次に移そうとするタイミングで、1人の議員は「シャドープロファイル」と言葉を挟んだり、ザッカーバーグが鼻息荒く笑ったり時間を稼ぐためにあらかじめ用意したメモをみたりすると別の議員が「賠償」と叫んだりといった具合だった。

そうした後に、やや不満な態度をあらわにしたザッカーバーグが追求する議員の1人をみて、議員のシャドープロファイルについての質問に答えると言い(実際のところ、認識していなかったというのを理由に、ザッカーバーグはシャドープロファイルという言葉を使わない)、Facebookはセキュリティ目的でそうした情報を収集する必要があると持論を展開した。

議員の1人が、Facebookは非ユーザーの情報をセキュリティ以外の目的で使用することがあるのかと質問したのに対し、ザッカーバーグは明確に答えなかった(後付けしたセキュリティ目的というのは、隠そうとしていることを逆に明らかにするようなものだ)。

ザッカーバーグはまた、非ユーザーはどうやって“データの収集をやめさせる”ことができるのか、という再三の質問も無視した。

話すべきポイントについて隣にいる弁護士の方を向く前に(“他に話しておくべきことはあるだろうか”と尋ねた)、ザッカーバーグは「セキュリティという面で、私たちは人々を守ることは大変重要だと考えている」と素っ気なく述べた。

FacebookにとってCambridge Analyticaの件は、将来あるかもしれないデータ強盗を未然に防ぐのにどうやってプラットフォームを厳重に監視するかということをPRする材料となった。弁護士は、話がCambridge Analyticaに戻るのに不満を表したものの、すぐさまそうしたスキャンダルの危機PR術を行動に移した。

今回の会合ではっきりとしたのは、Facebook創業者のコントロール方法の好みだ。それは、彼が現在訓練中のものだ。

Facebookが欧州の議員と会うことについて同意するのに先立って決められた会合形式の制限により、議員に追及を許可しないというのは明らかにFacebookにとっては好都合なことだった。

ザッカーバーグはまた、それとなくほのめかしたり、時間になったようだと言ったりして何度も会合をたたもうとした。議員はこうしたザッカーバーグのたたみ掛けを無視したため、自分の言うことがすぐさま実行に移されなかったザッカーバーグはかなりの不快感を露わにしていた。

議員から出されたそれぞれの質問について、Facebookから書面による回答を受け入れるかどうかという、議会議長と議員との間で展開されたやり取りをザッカーバーグは見守り、その後に書面で回答することにAntonio Tajani議長とその場で合意することになった。

あらかじめCollinsが議員に警告していたように、Facebookは自らのビジネスのプロセスについての質問に対し、多くの言葉を語りながらその実は何も語っていないという回答方法を十分に練習している。その回答方法というのは、質問されていることの意図や目的を巧みに避けるというものだ。

ザッカーバーグが演じた会合でのショーで見られた自制というのは、明らかに欧州議員がソーシャルメディアに必要だと考えているようなガードレールではない。何人かの議員がザッカーバーグの顔から感じた自制は、効果的ではなかったようだ。

最初に質問した議員はザッカーバーグに謝罪が十分でないとせまった。他の議員は、15年悔恨し続けることになる、と指摘した。

Moraesは、Facebookは欧州の基本的価値観に対し“法的そして道義的責任”を果たす必要があると発言した。Libeの委員長であるMoraesはさらに「GDPRが施行されるEUにあなたは今いることを忘れてはならない。EUのデータ保護法を確認し、また電子上のプライバシーについて考え、EUのユーザーならびに何百万ものEU市民、非ユーザーのプライバシーを守るために、法的そして道義的責任を果たしてほしい」と述べた。

自制、もしくはザッカーバーグがいうところの次善の策であるFacebook流の規則は、欧州議員の規制の話に対し、米議会で述べた言葉で答えるというものだった。その言葉とはこうだ。「ここでの問いは、規制があるべきかどうかだと考えていない。何が正しい規制なのか、ということだと思う」。

「インターネットは人々の暮らしにおいてとても重要なものになりつつある。ある種の規則が重要であり、不可欠のものでもある。ここで重要なのは、この規制を正しいものにすることだ」と彼は続けた。「人々を守る規則体系を有すること、革新の余地があるようフレキシブルであること、今後さらに進化するAIのような新技術を妨げるようなものでないことを確認しておく必要がある」。

彼はスタートアップのことも引き合いに出した。’好ましくない規制‘は将来のザッカーバーグの登場を妨げるものになると言っているのだろう。

もちろん、ザッカーバーグは自身が所有するFacebookというプラットフォームが注意を十分にひく存在であり、我こそはというエントレプレナーがひしめく次世代の中でも飛び抜けた存在であることに言及していない。

ブリュッセルでの会合で、味方をつくったり人々に影響を与えたりする代わりに、彼は欠席するよりももっと失うものがあったようだ。Facebookに適用されるEUの規則を刷新するのを仕事とする人たちを怒らせ、遠ざけたのだ。

皮肉にも、ザッカーバーグが答えたいくつかの質問の一つに、Nigel Farageによるものがある。Facebookが“政治的に中立なプラットフォーム”なのか、1月にアルゴリズムに変更を加えた後、中道右派の発言を差別しているのではないか、といったものだ。Facebookはフェイクニュース監視を行う第三者のファクトチェッカーの名前を明らかにしていない。

つまり、米国の上院と議会でも明白だったが、フェイスブックはあらゆるところから集中砲火を浴びている。

実際のところ、Facebookはファクトチェックのパートナーシップについて情報を開示していない。しかし、ザッカーバーグが大した意味もない質問に限られた時間を費やしたのは、十分に意味するところがある。

Farageは、彼の持ち時間の3分の間に、「Facebookや他のソーシャルメディアの存在なしには、英国のEU離脱やトランプ政権、イタリアの選挙結果はあり得なかった」と述べた。

ザッカーバーグがこの発言についてコメントする時間がなかったのは、滑稽としか言いようがない。

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(翻訳:Mizoguchi)

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TechCrunch Japan

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