シドニーのQ-CTRLは量子センシングを活用した「サービスとしてのデータ」市場を目指す

Q-CTRLは、量子制御エンジニアリングソリューションを提供するシドニーのスタートアップ企業だ。同社はオーストラリア時間11月30日、Airbus Ventures(エアバス・ベンチャーズ)が主導するシリーズBラウンドで、2500万ドル(約28億円)の資金を調達したことを発表した。このラウンドには、Ridgeline Partners(リッジライン・パートナーズ)、Main Sequence Ventures(メイン・シーケンス・ベンチャーズ)、Horizons Ventures(ホライズンズ・ベンチャーズ)、Square Peg Capital(スクエア・ペグ・キャピタル)、Sierra Ventures(シエラ・ベンチャーズ)、DCVC、Sequoia Capital China(セコイア・キャピタル・チャイナ)、In-Q-Tel(インキューテル)も参加した。

Q-CTRLの創業者兼CEOであるMichael Biercuk(マイケル・ビアキュック)氏は、この資金調達がスタッフの雇用を支援し、量子センシングを活用した新しいデータ・アズ・ア・サービス(サービスとしてのデータ)市場を実現すると述べている。同社はまた、量子コンピューティングのための量子制御や、加速度、重力、磁場を計測する量子センシングの開発にも引き続き投資していく。同社はこれまでに、総額6000万豪ドル(約49億円)以上の資金を調達している。

「Q-CTRLのビジョンは常に、量子技術のあらゆる応用を可能にすることです。今回の新たな資金調達は、宇宙、防衛、商業の分野に真の価値を提供するという当社のミッションを実現するために不可欠なものです」とビアキュック氏は述べている。

Q-CTRLは、この分野で最も差し迫った課題であるハードウェアのエラーや不安定性に対処し、量子コンピューティングのパフォーマンスを向上させるインフラストラクチャソフトウェアを提供していると、ビアキュック氏はTechCrunchに語った。

今回のシリーズB資金調達は、Q-CTRLが最近行った主要な技術および製品開発の発表に続いて実施されたものだ。それらの中には、量子論理ゲートとして知られるQ-CTRLのコア技術を用いて、実際の量子コンピューター上で実行される量子アルゴリズムのパフォーマンスを2680%向上させる技術デモが含まれている。

同社はまた、Fleet Space Technologies(フリート・スペース・テクノロジーズ)を中心としたオーストラリア企業のコンソーシアムと共同で、宇宙に適した量子センサーや、地球と月や火星の探査技術を開発している。その量子センサーの顧客には、Advanced Navigation(アドバンスド・ナビゲーション)、オーストラリア国防総省、空軍研究所、オーストラリア宇宙庁などが含まれる。

「このチームのすばらしい量子制御ソフトウェア群は、量子産業全体が急速に加速している今、速さと機敏さを可能にします」と、東京に本拠を置くAirbus Venturesのパートナー、Lewis Pinault(ルイス・ピノー)氏は述べている。「Q-CTRLは、月面開発、地理空間情報、地球観測など、先進的なアプリケーションやソリューションの幅を広げています。これらはすべて、現在我々が直面している加速的な惑星システムの危機に対処するための世界的な取り組みにおいて、ますます重要になっているものです。私たちが特に期待しているのはそこです」。

ビアキュック氏によれば、Q-CTRLの2020-2021年度の収益は前年比3倍となり、2020年後半に開始したばかりの新しい量子センサー事業の売上と予約で900万ドル(約1億円)以上を計上したとのこと。

多くの企業がそうであるように、新型コロナウイルスの影響で成長が大幅に停止したため、予定していた海外での販売・マーケティング活動に大きな損失が発生したと、ビアキュック氏は述べている。にもかかわらず、同社のチームは2020年1月以降、約20人から60人に増えたという。

ビアキュック氏は、同社が量子制御の専門家による大規模なチームを運営しており、30人以上の博士レベルの研究者が、量子コンピューティングと量子センシングの研究と製品開発を推進していると付け加えた。

Q-CTRLは最近、誰でも量子コンピューティングを学ぶことができるインタラクティブでアクセスしやすいオンライン学習プラットフォーム「Black Opal(ブラック・オパール)」を起ち上げた。ビアキュック氏によると、これは10日間の販売目標を2日半で突破したという。

Q-CTRLは2017年に、ビアキュック氏が量子物理学および量子技術の教授として勤務するシドニー大学からスピンオフした。

マイケル・ビアキュック氏(画像クレジット:Jessica Hromas)

現在はシドニーとロサンゼルスにオフィスを構えているが、年内にはベルリンにもオフィスを開設し、最初の従業員を雇用する予定だと、ビアキュック氏は述べている。

Boston Consulting Group(ボストン・コンサルティング・グループ)の報告書によると、量子コンピューティング産業は、2040年までに年間評価額で8500億ドル(約9兆6000億円)以上になると推定されている。BCC Research(BCCリサーチ)の報告では、世界の量子センサー市場は、2019年の1億6100万ドル(約182億円)から、2024年には2億9990万ドル(約338億5000万円)に増加すると予測している。

画像クレジット:Q-CTRL

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(文:Kate Park、翻訳:Hirokazu Kusakabe)

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TechCrunch Japan

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