シリコンバレーは分散可能か?ビジネスは最前線でパーティは遠隔地で

長い間、シリコンバレーの魅力は、この地にやって来ることができるかどうかにかかっていた。そのエコシステムは遠隔地からは機能しなかったからだ。Google VenturesのJoe Kraus(ジョー・クラウス)氏は、私が初めて参加したDisruptイベントで、Y Combinatorを含むほぼすべてのVCを代表して、「私たちは何処に居るのかがとても大切であることを知っています。シリコンバレーに来るべきです」と語ったものだ。

米国人ならそれは簡単だ。だがもしここに来るためにビザが必要な場合は、はるかに大変なことになる。今だにシリコンバレーは遠隔地から機能させることはできないのだろうか?それとも最近は、遠く離れた国々のスタートアップたちに、別の道があるのだろうか?先週私はInitialized CapitalのパートナーであるAlexis Ohanian(アレクシス、オハニアン)氏と、彼の祖先の故郷であるアルメニアの地で、この件について話す機会を持った。

最近は、どんな国でも自国のインキュベーターとシード投資家がいるようだ。アルメニアも例外ではない。私がオハニアン氏と会ったのは「アルメニアとアルメニア人のための」VCファンドである、Aybuben Venturesのローンチイベントでの事だった。私が先週報告したように、アルメニア人のディアスポラ(世界的な民族離散)は多大な効果を発揮している。

さて、もし真剣にシリーズAに取り組む必要が出てきたのに、地元の市場があなたのスタートアップを支えられるだけの規模がない場合には、次はどうなるだろうか?

ほんの5年前でさえ、シリコンバレーと関係を築くためには大変な苦労を強いられていたはずだ。しかし、その後事情は変化した。ベイエリアの人材と(そして不動産)の高騰が、Andreessen HorowitzのAndrew Chen(アンドリュー・チェン)氏の命名による、いわゆる「マレット・スタートアップ」(Mullet Startup)の台頭を促したのだ。そうした会社たちは、シリコンバレーを活用するために、その本社をベイエリアに置いているが、彼らの技術チームはもっと安くスペースも広い場所に置くのだ。つまり「ビジネスは最前線で、パーティは遠隔地で」ということだ。

オハニアン氏が指摘した点は、このマレットモデルが逆方向に働かない理由はないということだった。すなわち、どこか遠隔地で強力な技術チームを持った会社を起業し、ある発展段階に達したらベイエリアオフィスを開設して経営チームを移動し、マレット・スタートアップへと転じるのだ(もし企業として米国にやってくるのなら、ビザのオプションとして例えばEB-5移民投資家ビザを選べるようになるといった事実にも助けられる)。このスタイルを「リバース・マレット」と呼ぼう。PicsArtは、その好例のひとつだ。

このモデルは、遠隔地の技術チームが継続的な競争上の優位となるので、エンジニアリングや技術の厚い才能を抱えている国にとってはとりわけ実現可能なやり方なのだ(これこそが、オハニアン氏がアルメニアの滞在中ずっと、故国の人たちに対してコードを書くことを学ぶことの重要性を説き続けていた理由の一部だ。これはすでにチェスを必修科目としている国にとっては比較的取り組みやすいことだろう)。これらはすべて、理屈の上では素晴らしいもののように聞こえる。

とはいえ、今はまだリバース・マレットのユニコーンたちの群れがいるようには見えない。しかし、もしそれが実現すれば、多大な影響を持つ新しい成長モデルとして、非常に興味深いものとなるだろう。実質的にシリコンバレーが世界中に転移する方法のひとつとなるからだ。だが皮肉なことに、多くの非中央集権化の声は挙がりながらも、そのモデルの成功はやがてシリコンバレーの世界のテック産業の中心としての優位な地位を(すべての惑星を周回軌道上に従える太陽のように)強化することになるだろう。これから3年以内に生まれるリバース・マレットのユニコーンを数えてみよう。ほんの数個以上あれば、答えがわかるだろう。

【編集部注】「Mullet」というのはもともとは魚の「ボラ」を指す単語だった。そこから派生してトップの写真にあるようなヘアスタイル(前が短く襟足が長い)を「Mullet Hairstyle」と呼ぶようになった。それが転じて「立派なトップページは用意されているものの、それ以外の部分はそれほど手間のかかっていないウェブサイト」のデザインを「Mullet Strategy」(マレット戦略)と呼ぶようになっている。上記の「マレット・スタートアップ」という名称はそれがさらに転じたものである。

トップ画像クレジット:Tony Alter/Flickr より CC BY 2.0 ライセンスによる

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(翻訳:sako)

投稿者:

TechCrunch Japan

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