ジャパンネット銀行が2種ブロックチェーンの連携に挑戦、mijinとHyperledger Fabricで実証実験

ジャパンネット銀行は、2018年2月6日から2種類のプライベートブロックチェーン技術を連携させた業務システムの実証実験(PoC)を開始した。2種類のブロックチェーン技術のひとつは日本のスタートアップ企業テックビューロが開発するmijin。もうひとつは大手ITベンダー(後述)が推進するHyperledger Fabricである。この2種類のブロックチェーンの連携を実証するのはこれが初めてである。検証の対象となる業務は、社間の契約書管理のシステム化である(図を参照)。実証実験の期間は3月30日まで。

「実証実験」と聞いても、その意味づけをイメージしにくいと思われるかもしれない。今回の実証実験について、ジャパンネット銀行 執行役員 IT本部副本部長の坪川雅一氏は次のように話す。「オモチャを作っても検証にならない。今回の実証実験では実用化へ向けて課題を洗い出すことを目指す。個人的な意見だが、将来は契約管理のシステムだけでなく、見積もり、契約、発注、検収、請求・支払いまで一連の流れを効率化したい。商取引の透明性を劇的に高めることができる」。実験のための実験ではなく、現実のシステム開発に向けたステップとしての実証実験という位置づけだ。

同社によれば、業務効率化やペーパーレス化を進める上で、契約書をデータとして扱うことは以前から課題だった。そこにテックビューロから「ブロックチェーン製品を試してみて欲しい」との声がかかり、取引先として契約書のやりとりが多い富士通も一緒になって今回の実証実験を進める運びとなったとのことだ。

Hyperledger Fabricとmijinという対照的な2製品を連携

ブロックチェーンとは、利害を共にしない複数の当事者(企業など)が、信頼できる第三者を用いずに、信頼できる台帳を共有できる技術だ。今回の実証実験では、図にあるようにジャパンネット銀行と富士通という2者が契約書を交換する手続きをペーパーレス化、デジタル化することを想定している。これが発展すれば、複数の企業間の手続きの多くをデジタル化でき、効率化が図れる。

なぜ2種類のブロックチェーン技術を使うのだろうか。同社は大きく2つの理由を挙げている。1番目の理由は、契約先企業が使っているブロックチェーン技術に合わせるには複数のブロックチェーンを活用できた方がよいという考え方だ。2番目の理由は、複数のブロックチェーン技術に共通の情報を記録することで、万一障害が発生した場合にもバックアップの役割を果たすと期待できることだ。ブロックチェーン技術は可用性が高く障害が発生しにくいと期待されているが、実際のシステム運用ではなんらかの落とし穴が見つかるかもしれない。それを洗い出すことも同社は実証実験の目的としている。

実証実験で構築するシステムの内容は、まず契約書をデジタル化して、そのハッシュ値をブロックチェーンに記録し、「誰がいつ作成した契約書なのか」を改ざんできないようにする。従来はこのような処理には認定を受けたタイムスタンプサーバーを使うやり方があったが、ブロックチェーン活用を使うことで、より低コストに実現できると期待されている。

今回の実証実験は「絶妙」に見える部分がある。連携させる2製品、Hyperledger Fabricとmijinがきわめて対照的だからだ。大企業が推す製品とスタートアップが推進する製品という点でも性格が違うが、それだけではない。

Hyperledger Fabricは、IBMが開発したソフトウェアをLinux FoundationのHyperledgerプロジェクトに寄贈したものに基づき開発を進めている。富士通、日立、NTTデータ、アクセンチュアなどIT大手を巻き込んで普及推進活動を展開しており、世界中で多くの取り組みが進行中だ。その作りはブロックチェーンのビルディングブロックとも言うべきもので、必要な処理はGo言語やJava言語により開発するスマートコントラクト(Fabric用語では「チェーンコード」と呼ぶ)として開発することが基本となる。作り込みにより幅広い要求に対応できる可能性を秘めている半面で、システム構築の手間は大きくなる可能性がある。Hyperledger Fabricは認証局によりノードを管理する作りや、ファイナリティ(取引の確定)を重視する設計が特徴である。性能面はコンセンサスレイヤーをどう作り込むかで変わるが、Fabric v1.0では毎秒1000取引以上の性能を出せるとしている。

一方、mijinはテックビューロが開発、推進するプライベートブロックチェーン技術で、仮想通貨NEMの開発者らが参加していることで知られている。NEMと共通のAPIを備え、NEMと同じくマルチシグ、マルチアセットに対応する。最近ではmijinとNEM(つまりプライベートブロックチェーンとパブリックブロックチェーン)を連携させたシステム構成も視野に入っているもようだ。

mijinの特筆すべき点は早い段階で処理性能が高いことを実証していることだ。プライベート環境向けにチューニングすることにより毎秒4000取引以上の性能を出せることを、2016年12月時点で実証して発表している(プレスリリース)。mijinはブロックチェーンを操作するAPIを提供し、APIの機能範囲内であれば短期間でシステムを構築できるといわれている。半面、APIの範囲にない部分は新たに作り込む必要が出てくるともいえる。

このように対照的な2製品だが、特に意図して2製品を選んだという訳ではなく、たまたまこの組み合わせになったらしい。「複数のブロックチェーンの連携」は地味に聞こえるしれないが、実は最先端のニーズを取り入れた取り組みといえる。パブリックブロックチェーン上の仮想通貨の分野では、最新の話題として複数のブロックチェーンの間で価値を交換する「クロスチェーン技術」の試行が進んでいる。また、パブリックブロックチェーンとプライベートブロックチェーンを連動させたシステムの取り組みの機運もある。プライベートブロックチェーン2製品を連携させる今回の取り組みからは、はたしてどのような知見が得られるのか。

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TechCrunch Japan

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