スタートアップの資金調達における明白な男女格差を克服する方法

著者紹介:Ximena Aleman(キシメナ・アレマン)氏は南米のオープンバンキングプラットフォームであるPrometeo(プロメテオ)の共同創業者兼最高ビジネス開発責任者。

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ベンチャーキャピタル投資において、女性創業者は今でも相変わらず男女格差の問題に直面している。他の領域(例えばテック業界全体の女性の数など)では男女格差は解消の方向に向かっているが、資金調達においては格差が解消される兆しが一向に見えない。2012年以降、女性創業者の企業が調達したVC出資額はほとんど変わっていない

フィンテック業界では特にこの男女格差の問題が顕著だ。過去10年間のフィンテック投資額全体のうち、女性創業社のフィンテック企業が調達した額はわずか1%にすぎない。もともと男性偏重の傾向が強い2つの業界、すなわちファイナンスとテクノロジーを融合させたものがフィンテックであることを考えると、この数字も不思議ではない。しかし、この数字は決して、女性がこの分野で優れた仕事をしていないという意味ではない。女性創業者も相応の公平なVC出資を受けてしかるべきだ。

短期的に見ると、現在の投資環境においてVC資金調達を成功させる確率を高めるために女性創業者にできることもある。例えば、コミュニティと自分を支援してくれる人たちの力を借りる、成功するために必要な自分を信じる力を育む、といったことだ。しかし、長期的に考えると、女性起業家に公平な機会を与えるには、根本的な変化が必要だ。VCファンドは、経営幹部を含め、意思決定が可能な役職に就く女性の数を増やすよう、より一層の努力をする必要がある。

この記事では、VC投資における男女格差の現状と格差を是正するために、創業者、出資者、およびファンド自体ができることについて考察してみたい。

公平な競争条件とはほど遠いベンチャーキャピタルの現状

VCによる2019年の全出資額のうち、女性創業者が獲得したのは3%未満であり、創業者に1人でも女性が含まれるスタートアップに出資した米国のVCは全体の5分の1にすぎない。また、平均出資額の規模で比較しても、女性創業企業または共同創業者に女性が含まれる企業は男性のみの創業者によるスタートアップの半分以下である。創業者コミュニティに占める女性の割合が増えていることを考えると、女性創業者がその割合(創業者の約28%は女性である)に応じた調達資金を獲得できていないというのはゆゆしき問題だ。これに人種と民族性の要素を加味すると、数字はさらに厳しいものとなる。2009年以降の調達資金総額のうち黒人女性創業者が獲得したのはわずか0.6%であり、ラテン系女性創業者に至っては全投資額の0.4%しか獲得していない。

統計の数字は厳しい現実を示しているが、筆者はこうした男女格差を個人的に体験したことがある。例えば、私の目の前で、私の共同創業者に「どうして君ではなくこの女性が話をしているのかね」と尋ねたVC投資家がいた。あるいは、出資者となる可能性のある投資家が私の共同創業者に、「君はこの女性とビジネスを始めるつもりかね」と尋ね、「いや、仕事終わりに君が飲みに行く相手を確認しておきたかったのでね」と付け加えたこともある。

こうした話は、VC投資家たちが彼らのポートフォリオ企業の創業チームに男性がいることを当然のこととして期待しており、無意識であれ意識的であれ、経営陣の中の女性の意見より男性の意見を重視することが多い。

では、もしあなたが女性創業者で、資金を調達するためにVCの前でプレゼンする必要があるとしたら、どのような手順を踏めば無事資金調達に成功できるだろうか。

女性として資金を調達する

このように女性にとって圧倒的に不利と思える環境ではあるが、それでもVCからの資金調達を成功させるために女性創業者ができることはいろいろとある。まずは、自分のコミュニティと自分を支援してくれる人たち(メンターやロールモデルがいれば理想的だ)のネットワークを存分に活用して、可能性のある出資者に自分を紹介してもらうようにする。あなたのビジネスをよく理解していて信頼している人たちなら、喜んで協力してくれるだろう。誰かから個人的に推薦された人物となれば、VC側のあなたに対する見方も随分と違ってくるはずだ。

強力な支援者と呼べるような人がいない場合は、女性創業者やスタートアップグループを探して自分のコミュニティの構築を始めることだ。例えば、成長企業の女性リーダーたちのグローバルネットワークであるNext Women(ネクスト・ウーマン)や、テック業界で働く女性同士をつなぎ支援することをミッションとする草の根団体であるWomen Tech Founders(ウーマン・テック・ファウンダーズ)などを活用できる。

資金調達を成功させる鍵は自信を持つことだ。売り込み、プレゼンテーション、交渉スキルなど、すべてにおいて完璧である必要がある。こうした分野でトレーニングが必要だと思うなら、ワークショップか指導プログラムを探して、資金調達のプレゼンテーションを行う前に必要なスキルを習得しておこう。

男性のVCや出資企業の幹部と話していると、こちらが女性であるために差別的な対応を受けていると感じることがあるかもしれない。そのような場合は、自分を信じる気持ちと内面の強さが重要となる。自分が有望で信頼に値する創業者であることを彼らに信じさせる唯一の方法は、あなた自身がそう信じることだ。

結局のところ、現代の女性創業者たちは、女性としてVCからの資金調達を受ける初めての世代であると認識する必要がある。それは本当に大変なことかもしれないが、エキサイティングな体験でもある。無意識の偏見に直面しても、少しずつ分かってもらうしかないと考えることが不可欠だ。男性の共同創業者にすべて任せてしまっているようでは、次世代の女性たちの成功は期待できない。

女性VCが増えれば女性創業者の調達額も増える

確かに、女性創業者が個人レベルで取り組めることはある。しかし、さまざまな障害を乗り越えるにはベンチャーキャピタル自体が内部から変革しなければならない。女性創業者の資金調達額が男性創業者に比べて少ない最も大きな理由は、VCファンド内で女性が占める割合が極端に少ないからだ。

Harvard Business Review(ハーバード・ビジネス・レビュー)の調査によると、投資家は投資の判断を性別に基づいて行い、女性に対して男性とは異なる質問をすることが多いという。男性投資家から真剣に受け止めてもらえず、結果として価値ある投資対象とみなされない女性企業家の話は枚挙にいとまがない。VCの経営陣にはこうした男女格差があるため、資金調達における男女差別を是正する方法として、女性創業者に特化したファンドが出現している。このようなVCは、女性創業者の企業だけでなく黒人創業者の企業にも投資することが多いことは注目に値する。VCコミュニティは、女性および人種的マイノリティーを中心とする投資家を受け入れるだけでなく、コミュニティ全体として、経営幹部により多くの女性リーダーを登用する必要がある。

VCにおける男女平等はビジネスにも有利

Prometeo(プロメテオ)のチームでは創業初日から、意思決定権を持つ役職に男性と女性の両方を配属するよう協力して取り組んできた。創業チームと経営幹部に女性を含めることは、同社において、無意識の偏見に対抗できるという意味でも、よりダイナミックな労働環境を作るという意味でも、重要な役割を果たしてきた。そうした環境では、思考の多様化によってビジネス上の意思決定の質が向上するからだ。

VCファンド内部と創業者コミュニティの両方で男女平等の取り組みを進めることは、収益向上にも良い結果をもたらす。実際、Boston Consulting Group(ボストン・コンサルティング・グループ)の調査によると、1ドルの投資に対する利益率は、女性創業者のスタートアップで78%、男性創業者の企業では31%となっている。

南米は、女性創業者が獲得するVC出資額がVC全体の投資額に占める割合が世界一高い地域だ。そのため、女性が南米のフィンテック革命を主導したことも驚くには当たらない。経営幹部に占める女性の割合を増やすことは、結果的に、ビジネスにも良い結果をもたらす。

VCファンドにおける男女格差を軽減するのは容易なことではないが、是が非でも実現する必要がある。VC内部の改革と外部的な取り組み(コミュニティの構築、トレーニングの機会、女性中心の支援ネットワークなど)により、最終的にはすべての人に公平なVC活動の実現に向けて歩を進めることができる。

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カテゴリー:VC / エンジェル
タグ:中南米 差別

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(翻訳:Dragonfly)

投稿者:

TechCrunch Japan

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