スタートアップ初期は海外進出を控えて開発に注力しよう、99designs CEOがアドバイス

フリーランサーたち、特にデザイナーたちに仕事の門戸を開き、コンペ型クラウドソーシングサービスを提供しているスタートアップ企業がある。「99designs」だ。

1999年、Sitepoint.comで、デザイナーたちが学んだり、アイデアを出し合ったりし、楽しみながら競い合うフォーラムコミュニティーとして始まった99designsは、そのコンセプトのまま2008年にビジネスを開始。デザイナー、クライアントともに“世界”を舞台としたコンペ型クラウドソーシングの先駆け的存在として発展していった。

2015年4月にはリクルートからの出資を受けて、日本市場への展開を開始。早い時期から北米やヨーロッパに進出していった99deisigns。11月17、18日に開催されたTechCrunch Tokyo 2015で登壇した同社CEOのPatrick Llewellyn(パトリック・ルウェリン)氏は、99designsの特徴や、これからスタートアップを始めたいと考えている人へのアドバイスを語った。

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99deisigns CEOのPatrick Llewellyn(パトリック・ルウェリン)氏

フリーランスという働き方を選ぶ人たちに開かれている扉

今回、TechCrunch Tokyo 2015の来場者が記念として受け取ったオリジナルトートバッグは3種類あったが、このバッグの中には99designsとコラボしたデザインバッグが含まれていた。

Design for TechCrunch Tokyo conference bag contest by 99designs Other clothing or merchandise contestそのデザインも、もちろんコンペで選出。「スタートアップを想起するものを」というオーダーに対し、さまざまな国から82人のデザイナーによる231点ものエントリーがあり、ドイツ ハンブルグのデザイナーが優勝者となった。

このように、フリーランスのデザイナーであったとしても、99designsに登録していれば、どこに住んでいてもコンペに参加し、ビジネスチャンスを得ることができる。しかも、手がけられるデザインはWebに関連したものだけでなく、クルマ、看板、家具、ステーショナリーなど多岐にわたる。

日本のデザイン業界といえば、とかく“閉じられた”世界になりがちだが、99designsではフリーランスとして働くデザイナーたちへ、平等に機会が開かれている。

「フリーランスにとって大変なのは、多くの機会があるにも関わらず、仕事を見つけられないこと。また、きちんとした報酬をもらうことです。99designsでは、そのどちらも得られるというメリットがあります」とLlewelllyn氏。

コンペで落選してしまったデザイナーたちにとっても「同じ課題に対しどのようなデザインが出されたかを見ることができるのでお互いに学び合うことができる」と説明。「楽しみのためにコンペに参加する人さえいます」と語った。

「1.5秒ごとに」新しいデザインがアップされているという99designsには、192カ国に100万人以上のデザイナーが登録。これまでに約43万回のコンテストを開催、支払われた報酬は1億2000万ドル近くになるという。これだけ大きな市場規模のため、1デザイナーであっても世界を舞台にした活躍ができる、というわけだ。

Llewellyn氏はその成功事例として、インドネシア在住のデザイナー Ricky AsamManisさんを紹介。Rickyはコンテナ型仮想化技術をオープンソースで提供しているスタートアップ企業「Docker」のロゴデザインコンペにエントリーし、全84もの作品の中から優勝を勝ち取った。

また、カナダ オンタリオ州の小さな町に住むデザイナー Stacey Hillはワーキングマザーとして、子どもたちの世話をしながら収入を得ているという。「世界中から請けた仕事を、子どもたちと過ごしながら行なっている。素晴らしい仕事の仕方です」とLlewellyn氏は紹介した。

発注側には、世界中のデザイナーから寄せられた優れたデザインの中から選べるというメリットがあり、しかも満足の行くものがなかった場合はデザインコンテストをしたとしても、支払い不要でリスクゼロ。このような仕組みのおかげで、顧客との継続的な関係を築け、さらに大きなマーケットプレイスにつながっているようだ。

成長するために必要な国際的展開と課題

99designs発祥の地は豪メルボルン。しかし、北米をターゲットとしたマーケット展開をしていたこともあり、早い段階で米国に進出。その後もヨーロッパや南米にも事業展開を果たしている。国内だけで頭打ちになりがちな成長も、「海外には大きな市場やチャンスが待っており、海外進出は欠かせない」とLlewellyn氏。

ただし、注意点もあるという。

まず、開発の初期段階では海外進出を控えたほうが良い、という点。「充分に準備を整え、自力で成長してから」だという。「インフルエンサーと早い段階からやり取りをし、学びましょう。最初のうちは外部からの資金調達を考えず、自分たちでまかない、3年間はマーケティングにお金を使わず、開発のために使いましょう。このサービスが顧客のためになっているか、またプロダクトのスケールアップについてもよくテストしましょう」とアドバイス。

それらが整った後、展開先での準備も怠ってはならない。「現地にどのような競合他社があるか。それらが成功しているのであれば、何が要因か」を調査。「できるのであれば、現地の事業を買収したほうが、市場をすばやく獲得し、注目してもらえるというメリットがある」とLlewellyn氏。

そのほかの重要な点として、Llewellyn氏はサービスのローカライズを挙げた。URLはその国独自のものを設け(現に、日本の99designsのURLは「.jp」ドメインだ)、サポートもローカルで行う。そのためには翻訳やプロダクトの再構成などさまざまな準備をするが「信頼を構築するために必要」と語る。それらは口コミを生み、さらなる機会拡大へとつながるからだ。

Llewellyn氏はさらに、グローバル展開にまつわる問題とそれを解決する具体的なツールについても言及した。事務所が各国にできれば、当然チームは分散され、仕事をする時間軸も異なってくる。そのような際に便利なのがチャットツールのSlack、ストレージサービスのDropbox、さまざまなアプリを備えるGoogleサービス。特にビデオ会議は「同じビジョンを共有するために欠かせない」と述べた。

フリーランサーはこれからどうなっていくのか

「オーストラリアでは労働者の30%がフリーランスとして働いているが、日本では10%。2020年までにはもっと増えるだろう」とLlewellyn氏は予測する。そして、「今は個人として働く時代だ」ともいう。

その理由として、「今や規模を問わず企業が、自治体が、さらに国の経済までが破綻している」と説明。「自分たちの運命は、自分たちでコントロールしていく時代になった」と述べた。

「ITが発達し、インフラが整った現在、個人が受けられるメリットは大きい。無償ツールは増えつつあり、有償のものも安価になりつつある。学ぼうと思えば自分のペースで場所に縛られることなく、オンライン教育にアクセスすることもできる。そして世界中で開かれている“仕事”の機会にアクセスすることも。それによって、自分たちの作品を作って売れる。自分たちをいくらでも売り込める。地元から離れずに、グローバル市場で勝負できるようになったのです」(Llewellyn氏)

企業にとっても、退職者、主婦など埋もれていたかもしれないグローバルな労働力、才能を見い出すというチャンスが開かれている。

Llewellyn氏は、「今後、クラウドソーシングの場だけでなく、キュレーション、教育分野などにサービス拡大していきたい」としつつも、フリーランサーに向け「働き方は変化しています。ぜひとも目の前に開かれた機会を捉えてください。その実現のためにも、99designsを活用してください」と締めくくった。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。