スタートアップ支援プログラムで沿線と活性化ねらう東急電鉄、その期待と不安

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東京急行電鉄(東急電鉄)がIMJ インベストメントパートナーズ(IMJ IP)とともにスタートアップ向けのアクセラレーションプログラム「東急アクセラレートプログラム(TAP)」を開始する。プログラムを開始するという内容は6月1日に発表されていたが、6月18日に東京・渋谷のヒカリエで開催されたキックオフイベントにてその詳細が発表された。

東急電鉄のリソースを使ったテストマーケが可能に

プログラムでは、設立から約5年以内のアーリーステージのスタートアップを対象に、東急電鉄沿線でのビジネス展開に向けた支援をする。今回は「交通」「不動産」「生活サービス」の3領域のBtoCおよびBtoBtoCモデルのサービスやプロダクトを募集する。

応募は7月1日から8月28日までオンラインで行う。その中から30社程度を選抜して9月末から10月にかけて面談を実施し、10社程度まで候補を絞る。その約10社に対して東急電鉄社員らとのディスカッションなどを行う3週間のブラッシュアップ期間を設け、11月11日に最終審査会を実施。ここで最優秀賞、優秀賞の2社を決める予定だ。なお最優秀賞には109万円(「とうきゅう」とかけている)、優秀賞には42万8000円(同じく「しぶや」とかけている)の賞金が与えられる。

最優秀賞、優秀賞に選ばれた2社は、東急のリソースを使ってサービスやプロダクトのテストマーケティングを2015年12月から2016年3月まで実施できる。具体的には東急の車両内の中吊りや駅貼りのプロモーション協力、駅や商業施設の貸し出し、法人紹介による営業協力といった内容だ。テストマーケティングの結果をもとに、今後の継続的な連携を検討する。なお審査で重視するのは新規性や独創性、東急との親和性、収益性など。

スタートアップとの協業で沿線の新規ビジネスを生み出す

東急電鉄 都市創造本部 開発事業部 事業計画部 課長補佐でTAP運営統括の加藤由将氏が説明したところによると、東急がこれまで大企業間のオープンイノベーションを通じて新しいワークスタイルやライフスタイルを発信。持続的に成長する街を創るとして、企業や大学と「クリエイティブシティコンソーシアム」を立ち上げ、東京・二子玉川で2010年から実証実験を続けてきたという。

今後その取り組みを二子玉川と渋谷、自由が丘を結んだエリア(同社は「プラチナトライアングル」と呼んでいる。人口82万人、消費支出推計1.2兆円のエリアだ)に拡大するが、「変化の多いマーケットでの新規事業にはリーンスタートアップの事業開発手法が適しているが、大企業では組織規模や構造上の理由もあって導入が難しい」(加藤氏)と説明。そこでスタートアップとの共創の道を模索した結果スタートしたのがこのプログラムだ。

渋谷周辺と言えば、数多くのスタートアップがオフィスを構えるだけでなく、ベンチャーキャピタルやコワーキングスペースも多いエリア。しかし加藤氏は「ベンチャーを支援環境は充実しているが、0から1のアイデアを形にするところに集中している。(1から100の成長という意味で)苗に水を与える人たちは少ない」と説明。今回のプログラムでその「1から100」の支援をしたいとアピールした。

スタートアップは「下請け」か

加藤氏は「特定エリアを持つコングロマリット企業が取り組むプログラムは日本初。海外でも他にないのではないか」と語る。確かに僕も今まで聞いたことはなかった。

だが僕は少し説明に違和感を感じた。ミーティングの最後にあった懇親会で話した複数人の参加者も同じような感想だったようで、彼らの言葉をそのまま用いると「東急沿線の新規ビジネスを作るための下請けとしてスタートアップを募集しているみたい」というような印象を持ってしまったのだ。

もちろん企業が行うプログラムなのだから本業とのシナジーを求めるのは当然のことだ。でも今回のキックオフイベント「自分たちがやりたいこと」の説明に寄りすぎて、どんなスタートアップを求めているのか、自分たちにどこまで熱意があるのかといった内容がイマイチよく理解できなかった。イベントでの質疑の様子も以下にまとめておく。

Q:東急のユーザーに関するデータをプログラムで提供することはあるのか
A:テストマーケティングが決まった際にNDAを結んでもらって提供する

Q:求められる新規性とはどういったものか
A:他の沿線にあっても東急沿線にないもの。もしくは他の沿線にもないもの。例えばドローンでも、タクシーでも

Q:学生による参加は可能か
A:歓迎する。ただしアーリーステージを対象にしており、プロトタイプが必要

Q:そもそもなぜ2社しか支援しないのか
A:プログラム自体が初めてで、回らなくなった場合ベンチャーに致命的な迷惑をかけることになりかねない。来年再来年とやっていきたいのでまずはこの規模でやる

Q:テストマーケティングのために追加開発が必要な場合の資金を提供するのか
A:サービス開発にお金を出すのは寄付になるためできない。現状のままで応募するか、融資や出資を受けて開発して欲しい

Q:募集するアーリーステージの定義について
A:業種業態によって変わるが、プロトタイプを持っているということ

Q:プログラム参加者への出資はあるのか
A:今回のプログラムの主目的は沿線に新しいサービスを提供すること。出資は当初からは考えていない。まずは業務提携し、今後関係を増したいというのであれば

僕もこれまでいくつか企業によるアクセラレーションプログラムの話を聞いてきたけれど、どちらかというと企業側は「やれる範囲でやることはやるので、どんどん飛び込んできて欲しい」というメッセージを積極的に出している印象が強かった。KDDI 代表取締役社長の田中孝司氏は「プログラムは赤字でも、志の高いエンジニアを応援したい」なんて言っていたし、NTTドコモ・ベンチャーズでも副社長の秋元信行氏が「われわれを使い倒せる起業家と出会いたい」なんて言っていた。

また今回東急電鉄と組んでプログラムを運営するIMJ IPは、親会社であるカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)とともにアクセラレーションプログラム「T-Venture Program」を展開している。このプログラムでも10社以上のスタートアップが採択され、出資やサービス連携について具体的な話が進んでいるという事例も聞いている。そういう事例を見ると、もっと思いを語ってくれてもいいんじゃないだろうかと感じたのだ。

「できない」となることはない、要望をぶつけて欲しい

不安なことも書いたが、渋谷や自由が丘、二子玉川エリアの鉄道や施設を利用できるチャンスがあるというのはスタートアップにとっては非常に魅力的な話だと思うし、加藤氏のチームがここ1年ほどスタートアップ関連イベントに参加して、積極的に環境を理解しようと活動していたのも知っている。実際、このチームのメンバーはTechCrunchのイベントにも参加してくれており、「東急電鉄がスタートアップと組んでどういうことをしたい」という話をいろいろ聞いたことがある。

またイベントの進行を務めたIMJ IP 日本支店長&インキュベーションマネージャーの岡洋氏も「第三者的に言うと、こういうプログラムは一緒に作り上げる気概が大事。(条件について)こう書いているからといって『できない』となることはないと思っている。皆さんの熱意があって、それが東急電鉄とやれば伸びるのであればやらない理由はない。資金面など要望を言って頂ければ我々でジャッジするので、どんどん思いをぶつけてほしい」と語っていた。興味がある人はまず、7月1日以降にエントリーしてみてはいかがだろうか。

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。