スマートホームエナジースタートアップの独Tadoが約588億円の評価額でSPAC上場を計画

サーモスタットを専門とし、最近ではロードシフトテクノロジーに基づく柔軟な「使用時間帯別」エネルギー料金体系に移行したドイツのスマートホームスタートアップtado(タド)は現地時間1月17日、企業としての次なるステップを発表した。SPAC(特別買収目的会社)との取引による株式公開だ。

持続可能な技術に特化したドイツのSPAC企業GFJ ESG Acquisitionは、tadoと合併して新会社をフランクフルト証券取引所に上場させると発表した。GFJとtadoは現在、PIPEs(私募増資)に取り組んでおり、完了すればtadoの評価額は4億5000万ユーロ(約588億円)になると予想される。新会社は引き続きtadoとして取引される。

tadoの広報担当者は、予定している上場での調達額や、上場時期についても2022年前半になりそうだということ以外は明らかにしないと述べた。

今回の動きは、tadoにとって2つの大きな進展があった直後のものだ。同社は1月11日、aWATTar(そう、これは社名の呼び方だ……)を買収し、家庭内のエネルギー消費ハードウェアから管理ソフトウェアへと事業を拡大した。このソフトウェアは顧客のエネルギー使用方法と、エネルギーソースの変動(太陽光や風力などの再生可能エネルギーや、より従来型のチャネルも含む)に応じた価格変動に基づくエネルギー消費とコストを管理できるようにするものだ。

また、5月には4600万ドル(約52億円)を調達した。当時、同社はこれが上場前の最後のラウンドになるだろうと述べていたが、それが今、現実のものとなっている。同社はこれまでにAmazon、Siemens、Telefonicaといった豪華な投資家陣から総額1億5900万ドル(約182億円)弱の資金を調達した。PitchBookのデータによると、そうしたプライベートなラウンド時の評価額は2億5500万ドル(約292億円)で、上場時に見込まれる時価総額4億5000万ドルをかなり下回っていた。

今回の合併は、株式公開する大規模なグリーンテックスタートアップとしては欧州初のケースとなるため注目すべきものだ。tadoの大きな目標は、電力網から消費者の家庭まで、エンド・ツー・エンドのシステムでエネルギー使用を管理するサービスを構築することだ。同社はこれまで2回方向転換した。最初はスマートサーモスタットのメーカーとしてスタートし、約200万のデバイスを販売してきた。その後、tadoはエネルギー料金体系を多様化し、使用状況を管理することで、ビッグデータ、予測分析、再生可能エネルギーとエネルギーハードウェアシステムという広範かつ非常に断片的な市場の活用に基づく幅広いビジネスへと発展してきた。

同社は現在、200万台以上のスマートサーモスタットを販売し、エネルギー管理技術によって20カ国にまたがる約40万のビルや家庭をつなげ、7ギガワット以上のエネルギー容量を管理していると話す。OEM900社が提供する約1万8000のシステムと連携しており、同社の負荷分散技術を使用する顧客は年間暖房費を平均22%節約できる、としている。

気候変動への懸念がますます高まり、そして消費者が温室効果ガスの排出を削減するためのサービスをより簡単に、より手頃な価格で利用できるようになるにつれ、グリーンテックやクリーンテックの企業にとって絶好の機会が出現している。今回の上場は、そのような企業の1つが、さらなる成長を目指して株式公開に踏み切るだけの十分な牽引力を感じていることを明確に示している。

tadoのCEOであるToon Bouten(トゥーン・ボウテン)氏は「tadoのチーム全体が GFJと提携することを非常に誇りに思っています」と声明で述べている。「我々は同じ信念を持ち、環境技術への情熱を共有しています。そして、顧客のコスト削減とエコロジカルフットプリントの抑制に共同で貢献することを決意しました。より持続可能なエネルギーの未来を創造するためのすばらしい位置につけています」。

この取引が完了すると、ボウテン氏は代表を退き(現職はオフィスソリューションプロバイダーRoomの社長と記載されている)、Oliver Kaltner(オリバー・カルトナー)氏がCEOに就任する。そしてChristian Deilmann(クリスチャン・デイルマン)氏がCPO、Johannes Schwarz(ヨハネス・シュワルツ)氏がCTOに就く予定だ。Emanuel Eibach(エマニュエル・アイバッハ)氏は引き続きCFOを務める。Gisbert Rühl(ギスバート・リュール)氏は監査役会会長に就任する。また、Josef Brunner(ジョセフ・ブルナー)氏、Petr Míkovec(ピョートル・ミコヴェック)氏、ボウテン氏、Maximilian Mayer(マキシミリアン・メイヤー)氏が監査役に就く。

GFJのCEOであるGisbert Rühl(ギスベルト・リュール)氏は「GFJとtadoはともに、気候変動との戦いにスマートな方法で挑むことを決意しています。tadoはすでにグリーンテック企業のニューウェーブの精神を受け継ぐマーケットリーダーです。EUのエネルギー消費の約21%は、住宅の冷暖房に使用されています。EUとドイツが、2050年までに世界で初めて経済をクライメート・ニュートラルなものにするという約束を果たしたいのであれば、住宅分野の脱炭素化に代わるものはありません」と述べた。

tadoは上場企業として市場に対して新たなレベルの透明性を獲得することになり、広く捉えるとグリーンテック業界全体にとってもプラスだ。今のところ、同社は3年後の2025年までに年5億ユーロ(約653億円)超の収益を上げるようになると予想している。

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Nariko Mizoguchi

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TechCrunch Japan

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