スマートロック×不動産サービスのライナフが東急不動産HDから資金調達

ライナフ代表取締役 滝沢潔氏

スマートロックなどのIoT製品「NinjaLock(ニンジャロック)シリーズ」や不動産事業者向けサービスを提供するライナフは、8月30日、東急不動産ホールディングスが運営するスタートアップ支援プログラム「TFHD Open Innovation Program」から資金調達を実施したことを明らかにした。調達額は非公開だが、1億円以上とみられる。

ライナフは2014年の創業。これまでに、三井住友海上キャピタルおよび三菱地所による2016年2月の調達、三菱地所などが参加した2016年11月の調達、伊藤忠テクノロジーベンチャーズ、長谷工アネシス、住友商事などを株主とする2018年1月の調達を実施しており、今回で累積調達額は10億円以上になる。

老舗メーカーと共同開発したスマートロックがヒット

ライナフでは、スマートロック「NinjaLock」などのIoTハードウェアを提供する一方で、これらを活用した無人内覧サービス「スマート内覧」や、AIを利用した物件確認電話システム「スマート物確」など、不動産事業者向けの業務効率化サービスを展開している。

2019年4月には鍵・錠前メーカーの老舗企業、美和ロックと共同で、住宅向けに完全固定式のスマートロック「NinjaLockM」を開発し、発売した。スマートロックとしては従来製品のNinjaLockと同様、暗証番号やカード(NFC対応ICカードやスマホなどの端末)、アプリでの解錠が可能。賃貸物件をターゲットとしたNinjaLockMでは、このスマートロックとしての基本機能に加えて、「空室モード」「入居モード」の運用モード切り替えができる点が特徴だ。

  1. NinjaLockM_top

  2. NinjaLockM_app

  3. NinjaLockM_keypad

空室モードでは、管理会社や仲介業者が解錠できるように設定され、入居者が決まれば入居モードに切り替え。入居者以外の解錠権限が一括で停止される。賃貸物件での業者間の鍵の受け渡し、管理のコスト削減や、内覧管理業務の効率化を実現でき、発売時から先行して導入を表明していた三井不動産レジデンシャルリース、三菱地所ハウスネットをはじめ、不動産企業や仲介会社からも好評を得ているという。

ライナフ代表取締役の滝沢潔氏は「大手建設業者、不動産業者は、賃貸住宅のスマートロックに高い信頼性を求めている。NinjaLockMは固定式で、美和ロックが定める品質検査をクリアした高品質の住居用スマートロックということで、多くの問い合わせがあった。今後の新築マンション全棟に標準で導入すると決まったところもある」と話している。

当初1万台程度を予定していた来年1年間の販売予測は、引き合いの多さから目標10万台に変わった、と滝沢氏。新築への導入だけでなく、既存の賃貸マンションでも、退去時の鍵交換の際にNinjaLockMへの入れ替えが進んでいるということだ。

滝沢氏によれば、老舗メーカーとテクノロジーベンチャーが手を組む動きは、錠・鍵の領域でも世界的な潮流だという。2017年12月にはスウェーデンの老舗メーカーAssa Abloyが、米国のスマートロックスタートアップAugust Homeを買収している。「品質のよいものをつくる老舗と、サーバー運用やUI/UXに明るいベンチャーが組むことで、よりよいものができる」と滝沢氏は語る。

「賃貸物件は固定式スマートロックにシフトするだろう」

ライナフではこれまで、スマートロック単体ではなく、不動産管理に注目したサービスとの組み合わせにより事業を展開してきた。物件管理のためのWebサービスと鍵が連動している点が評価されたことで、「住居、賃貸物件に主戦場が絞られてきた」(滝沢氏)という。こうした動きに伴って、ライナフは8月23日付で会議室の空室管理サービス「スマート会議室」を、遊休不動産活用事業を展開するアズームへ事業譲渡している。

スマートロックには、家電量販店などで販売され、個人が中心ターゲットのQrio(キュリオ)や、同じく一般家庭向けで月額360円のサブスクリプション型で利用できるBitkey(ビットキー)の製品、入退室管理システムと連携し、オフィス向けに導入が進むAkerun(アケルン)などがある。

滝沢氏は、賃貸物件市場に焦点を当てたことで、これらのスマートロックとライナフ製品とは「全くバッティングしなくなった」と述べている。「後付け型のスマートロックは、賃貸物件で入居中もそのまま使うには、やや心許ない。今後、後付け型ロックは管理のために空室の間だけ付けるものとなり、入居中も使えるものとしては固定式のスマートロックへとシフトしていくだろう」(滝沢氏)

ライナフでは今回の調達発表と同時に、東急住宅リースと資本業務提携を締結したことも明らかにした。今後、賃貸物件管理やマンション管理業務で連携していくとしている。

今回の東急不動産HDからの出資により、ライナフの株主には日本の大手不動産プレイヤーが、ほぼそろった形となる。これは以前から「1社に限らず、不動産業界全体からの応援を受けたい」とする滝沢氏の意向にも合致するものだ。

ライナフには、将来的にはスマートロックを活用したサービスを通じて、住居のセキュリティを保ちながら、買い物代行や家事代行などのサービスを安全に家に取り入れる、という構想もある。

8月2日には、置き配バッグ「OKIPPA」を提供するYperと連携し、宅配伝票番号だけでオートロックマンションのエントランスを解錠、自宅のドア前まで置き配配達を可能にする取り組みを始めた。「ライナフが自社だけでこうしたサービス開発を行うのではなく、宅配に特化したYperと連携して、オープンイノベーションとして取り組む方が、より効率よく課題を解決できる」と滝沢氏は話していた。

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TechCrunch Japan

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