ソニーグループのCrackleがVRコンテンツ(とVR広告)の配信計画を発表

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また新たなデジタルストリーミングサービス上にVRコンテンツが登場する。今回はソニーのCrackleだ。ただ、本日(米国時間4月20日)のソニーの発表によると、今回のVR化はコンテンツだけではなく、広告にも及ぶとのこと。映画やオリジナル番組を含む、コンテンツライブラリ全てを特設の「VRシアター」内でストリーミング配信するだけでなく、広告を掲載したい企業はロゴ等をあしらってシアターを「着せ替え」したり、360度全方位広告を設置したりすることができる。

この計画は、ニューヨークで行われたCrackleのUpfront(北米のTV業界における広告主向けイベント)で発表され、HBOやDiscoveryといったライバル達によるVRテクノロジーへの投資に関する発表の直後のことであった。両社は今週初め、3Dグラフィック企業OTOYへの投資を行い、今後HBO NOWやDiscovery VRといった、彼らのチャンネルにVRコンテンツを導入する予定だ。

デジタルストリーミングサービス分野の競合となるNetflixHuluも、先日VR関連サービスの発表を行っており、これまでにVRコンテンツを配信してきた。

ソニーは、この新たなフォーマットをどのようにマネタイズするか、という検討を他社に先駆けてはじめている点で、自社サービスの差別化が図れると主張する。ほとんどの映像コンテンツプロバイダーが、未だVR番組について試行錯誤している一方、Crackleは、広告収入で運営されているオンデマンド動画配信サービスで初めて、広告主に対してVRでのプロモーションの機会を提供していると同発表で述べた。

実際には下記のような形でサービスを提供するとCrackleは説明する。

Crackleは、VRヘッドセットやその他の対応デバイスを利用する視聴者に対して動画を配信する仮想シアターの開発を行っており、各種スマートフォン、Google Cardboard、SamsungのGrear VRそしてPlaystation VRが対応デバイスとして挙げられている。(尚、ソニー自身のVR計画における最大の競合である、FacebookのOculus Riftはそのリストに含まれていなかった)

VRシアターは、完全な没入型視聴環境で、ユーザーはCrackleのコンテンツからどれでも自由に選んで視聴することができる。ユーザーは、シアター内のスクリーンに映し出される動画を見ると同時に、あたりを見回すと、恐らく壁やシートに貼り付けられるであろう、広告主のロゴや広告をも確認することができる。また、広告主も自らの360度広告をこの環境下で配信することができる。

ソニーは、他社に先立ってこの新たな広告サービスを利用する企業を選び出した。LGは、同社のフラッグシップモデルであるスマートフォンの新機種LG G5および「Friends」の広告に同サービスを利用予定だ。(Friendsとは、LGのマーケティング用語で、VRヘッドセットや360度映像を撮影可能なカメラ等、周辺機器を意味する)

更にLGは、自社のLG 360 Camで撮影した360度広告についての「舞台裏」映像も制作し、この映像はMartin Freeman氏主演のCrackleオリジナルシリーズ「StartUp」のプロモーションに利用される予定だ。StartUpは2016年の第3クオーターより配信予定で、ギャング経由の黒い金で起業資金を調達するなど、「貧困層」からテック業界へ参入した起業家についての話だ。

テック業界を中心とした番組の内容であることを考えると、「StartUp」が初の「VR」広告の実験台となるのにも納得がいく。

VRシアターでのストリーミングに向けた動画ライブラリの整備に留まらず、Crackleは「Robot Chicken」のBryan Cranston氏とStoopid Buddy Stoodiesが総指揮をとった、オリジナルのストップモーションアニメ「SuperMansion」も製作予定だ。

更にCrackleは、製作対象候補として現在挙がっているオリジナル番組を基にVRコンテンツの製作を行う予定で、VR化に際し広告主からのスポンサーシップを受付けている。

Crackleの代表で、Sopy Pictures Televsion Digital Networkの上級副社長でもあるEric Berger氏は、「我々Crackleは、日々変化する消費者動向を反映したコンテンツ・広告づくりを行うことが、視聴者に興味をもってもらう上で有益であると考えています。更に、私たちは持続可能な広告モデルを伴うこれからのテレビの方針を立ててており、このことが広告主、コンテンツプロバイダー、そして誰よりも消費者の皆さんにとっての利益に繋がると考えています」

Crackleは、主要他社と同じようにVR技術や、VR広告に投資を行っているものの、その投資が最終的な利益にどのような影響を与えるかについては、未だわかっていない。また、Crackleを含むこれらの企業は、視聴者が日常的にVR技術を利用するのか(または360度ビデオを見るのか)や、エンゲージメントを測定するには何を指標とすればよいのかについても答えることができない。同様に、VR広告を打つ企業がどのような数値指標を期待しているのかというのも断定が難しい。

From left, GM of Crackle and EVP of Sony Pictures Digital Television Networks, Eric Berger, actors Bryan Cranston, and Dennis Quaid, and Chairman of Sony pictures Television, Steve Mosko are seen at the Crackle Upfront at New York City Center on Wed. April 20, 2016 in New York City. (Photo by Michael Zorn/Invision for Crackle/AP Images)

左から、Crackleの代表兼Sony Pictures Digital Television Networksの上級副社長Eric Berger氏、俳優のBryan Cranston氏、Dennis Quaid氏、Sony Pictures Television会長Steve Mosko氏。2016年4月20日ニューヨーク市内で行われたCrackleのUpfrontにて(Photo by Michael Zorn/Invision for Crackle/AP Images)

Upfrontでは、VRに関するニュースの他、今後公開予定のオリジナルシリーズの詳細についても発表され、前述の「StartUp」のほか、オークションハウスを描いたドラマ「The Art of More」、Guy Ritchie氏の映画を基にした「Snatch」、Seinfeld氏による「Comedians in Cars Getting Coffee」の新シーズン、そして「SuperMansion」が紹介された。

その他にもCrackleは、新たな広告フォーマット「break-free」を発表し、これによってシリーズ毎に放映される広告数が減少する。これまでのように、10話から構成されるシリーズに300もの広告を挿入するのではなく、一話あたりの広告数が5つになる。しかし、その5つの枠を与えられた企業は、全エピソードでコマーシャルを流すことができるため、複数回に渡る物語風の広告を通して、視聴者にストーリーを伝えることができるようになる。

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(翻訳:Atsushi Yukutake 500px, Twitter