ソーシャルネットワークからマーケットネットワークへ

shutterstock_173525351


編集部記James Currierは、Crunch Networkのコントリビューターである。James Currierは、アーリーステージのファンドでマーケットプレイスやネットワークビジネスのための3ヶ月プログラムを運営を行うNFX Guildの共同ファウンダーでパートナーである。

先月、HoneyBookという35名のサンフランシスコの会社がシリーズB*で2200万ドルを調達したことに多くの人は気が付いていない。

この投資案件の少し変わった所は、シリコンバレーの著名なベンチャーキャピタルのほとんどが投資を競っていたことだ。何故なら、HoneyBookはFacebookのようなネットワーク要素とAirbnbのようなマーケット要素の良い部分を併せ持ったデジタル企業における重要な新カテゴリーを体現するような企業だからだ。彼らのような企業をマーケットネットワークと呼んでいる。

マーケットネットワークは、これから新しいタイプの ユニコーン企業を輩出し、何千万人のプロの職業人の働き方と生計を立てる方法に多大な影響を与えるだろう。

マーケットネットワークとは?

「マーケットプレイス」は、不特定多数の購入者が不特定多数の販売者と取引する場を提供している。例えば、eBayEtsy、 UberLendingClubのような企業だ。

「ネットワーク」は、プロフィールに個人の情報を掲載し、ネットワーク内の人との360度、全方向のコミュニケーションを可能とする。例えば、FacebookTwitterLinkedInだ。

マーケットネットワークの特徴は以下のようにまとめられる。

  • ネットワークとマーケットプレイスの両方の主要な要素を併せ持っている
  • SaaSのワークフローソフトウェアを活用し、短期の取引だけではなく、長期のプロジェクトでのやりとりに焦点を当てて設計されている
  • それぞれのサービス提供者を差別化して打ち出し、彼らが他のユーザーと長期の関係を作るのを促進する

Currier1

例えがあると分かりやすいだろう。HoneyBookを見てみよう。HoneyBookはイベント業界のマーケットネットワークだ。

イベントプランナーは、HoneyBook.comでプロフィールを作成する。プロにとってこのプロフィールは、ウェブ上の窓口となる。HoneyBookのSaaSワークフローから自分のブランド名の元、クライアントに見積もり提案を送付し、契約もデジタルで交わされる。

他に一緒に働く職業人、例えば花屋や写真家といったプロをそのプロジェクトにつなぐことができる。彼らもHoneyBookのプロフィールを持ち、クライアントにサービスを提供するためにチームを組む。互いに見積もり提案を出し、契約書を交わし、支払いを受け取る。

Currier2

この多数対多数の取引パターンがポイントだ。HoneyBookは、一方通行でないN数の取引関係のあるマーケットプレイスということだ。取引は、ネットワーク上の360度の全方向で行われる。そのためHoneyBookは、マーケットプレイスとネットワークの両方を併せ持っているのだ。

マーケットネットワークは、通常オフラインのプロのネットワークを活用して始まることが多い。彼らは何年もの間、ファックス、小切手、翌日配達や電話を駆使して互いにやりとりをしていた。

これらのコネクションと取引をソフトウェアに組み込むことで、マーケットネットワークにおけるプロのビジネス運営とクライアントへのサービス提供が格段に簡単になる。

以前にも登場したマーケットネットワーク

AngelListもマーケットネットワークだ*。彼らが最初かどうかは分からないが、Naval RavikantとBabak Niviがこのモデルを2010年に先駆けて行ったことは称賛に値する。

AngleListのパターンも似ている。スタートアップのCEOは、AngelListのSaaSワークフローから資金調達のための書類作成、ネットワーク上の人と株取引、従業員の採用、カスタマーの発掘といったことを360度の全方向で行うことができる。

Joistも良い例だ。トロントに拠点を置く彼らは、住宅の改装や建築業界でマーケットネットワークを展開している。 Houzzもこの分野にいるが、広いリーチがあり、異なるアプローチを採用している*。シンシナティに拠点を置くDotLoopは、住宅の不動産仲介事業で同様のことを行っている。

AngelList、Joist、Houzz、DotLoop、HoneyBookを見ることで、マーケットネットワークのパターンが明確になるだろう。

Currier3

成功するマーケットネットワークの6つの要素

マーケットネットワークは、より複雑なサービスを対象とする
テクノロジー業界は過去6年間、サービスの簡単な受発注のための素早い決済が可能なオンデマンド労働マーケットプレイスに執着してきた。Uber、Mechanical Turk、Thumbtack、Luxeやその他多くの企業は、品質が客観的に判断できるようなシンプルなサービスの受発注を効率化することを追求してきた。彼らの成功は、マーケットプレイスの双方のユーザーをコモディティ化することでもたらされた。

しかし、例えばイベント企画や住宅の改装といった最高品質が要求されるサービスは、シンプルでも、品質を客観的に判断できるものでもない。また、長期間に渡ってそのプロジェクトに関わることが要求される。マーケットネットワークはそのようなサービスのために設計された。

人が肝心だ
複雑なサービスでは、クライアントが求めるものはそれぞれ異なり、どのプロに依頼するかも重要な要素だ。自分の結婚式のプランを誰にでも任せることができるだろうか?自宅の改装の場合はどうだろうか?取引におけるどちらの側も、LyftやUberのように代替が効くものではない。どの人も、そのサービスおける意見、専門性と関わり方が異なる。マーケットネットワークは、それを重要な理念として認識した上でソリューションを提供するために設計されている。

Currier4

プロジェクトを中心にコラボレーションが起きる
多くの複雑なサービスはある程度の期間をかけて、複数のプロが互いに協力し、またクライアントも関わることで進められる。SaaSがマーケットネットワークの中心となり、完成までに数日、あるいは数年かかるプロジェクトでのやりとりに焦点が当てられている。

マーケットネットワークは長期に渡る関係性を構築するために役立つ
マーケットネットワークによりキャリアを通して、プロが他のプロとのオンラインでのつながりを構築し、活用することができるようになる。これまでもLinkedInやFacebookといったソーシャルネットワークは、長期の関係を作るのに役立ってきた。ただ、マーケットネットワークの登場まで、コマースや決済に利用されることはなかった。

紹介が自由自在にできる
これらの業界では、クライアントとサービス提供を行うプロの両者にとって紹介はビジネスで重要なものだ。マーケットネットワークのソフトウェアは互いへの紹介を簡単に、そして頻繁に行われるようデザインされている。

マーケットネットワークは取引の速さと満足度の向上につながる
クライアントとプロのネットワークをソフトウェアに載せることで、マーケットネットワークは関連するそれぞれの取引を加速する。提案の締結率を向上させ、支払いを早めるのだ。ソフトウェアはカスタマーの満足度を高め、コミュニケーションの行き違いを減らし、仕事がしやすく美しくなる。仕事のしやすさと美しさを過小評価してはならない。

過去10年はソーシャルネットワークの時代だった。次の10年はマーケットネットワークの時代だ。

最初に電話やメールといったコミュニケーションのネットワークが出来た。次にFacebookやLinkedInのようなソーシャルネットワークが現れた。そして今、HoneyBook、AngelList、Houzz、DotLoop、Joistのようなマーケットネットワークが登場している。

マーケットネットワークがそれぞれのプロの代替が効かない業界に適応することが想像できるだろう。例えば、法律関係、旅行、不動産、メディア製作、建築、投資銀行、パーソナルファイナンス、建設、マネジメントコンサルティングなどだ。どのマーケットネットワークも、それぞれの業界で上手く機能するために異なる要素が組み込まれるだろうが、基本的な構造は似てくるだろう。

時間はかかるが、全ての独立したプロは、それぞれの業界のマーケットネットワークを通じてクライアントとビジネスを行うようになる。それが今まさに始まろうとしている。

マーケットネットワークの台頭で何千万人がより良いサービスを購入できるようになり、何千万人の働き方と生き方に広範でポジティブな影響を与えるだろう。

このビジネスに将来性を見出し、マーケットネットワークを構築する起業家が増えることを期待している。このようなプロダクトを正しく作るのは難しいことでもあるが、その潜在的な見返りは計り知れないものだろう。

*開示情報:私は、HoneyBook、Houzz、AngelListにアドバイスや投資、あるいは両方を行っている。

[原文へ]

(翻訳:Nozomi Okuma /Website/ twitter

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。