テイラー・スウィフト、Apple Musicのゼロ印税トライアルを拒否

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Appleは世界一金持ちの会社であるにもかかわらず欲深いため、テイラー・スウィストはおかんむりだ。ストリーミングサービス、Apple Musicが6月30日にスタートする際、ユーザーは3ヵ月間の無料トライアルを利用できる。しかし、このユーザー獲得コストを膨大な現預金で賄う代わりに、Appleは音楽の権利者にロイヤリティーを一切払わない計画だ。テイラー・スウィフトは、それを彼女のヒット満載の最新アルバムがストリームに乗らない理由だと言っている。

人気歌手はこの少々手厳しいブログ記事(下に貼ってある)で、なぜ彼女が大ヒットシングル “Shake It Off”と”Blank Space”を含むアルバム ‘1989’提供しないかを語った(過去の作品は提供する)。スウィフト曰く、自分は十分お金を持っているが3ヵ月間収入を失うことは弱小ミュージシャンにとっては厳しい。

これは多くの独立アーティストを管理するBeggars Groupが所属バンドのApple Musicボイコットを決めたのと同じ理由だ。「私たちはタダでiPhoneをくれとは言わない。どうか私たちの音楽を報酬なしで提供しろと言わないでほしい」とスウィフトは書いている。

そしてそれは実に理にかなった主張に思える。事実上アーティストは、Appleが9.99ドルの月額購読料をユーザーに支払わせようとしているApple Musicの巨大マーケティングキャンペーンの費用を負担している。それは本来Appleの問題ではないのか?

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Appleはこう反論する。同社はトライアル間のロイヤルティーを補顛するために、トライアル終了後は他のストリーミングサービスよりごくわずかに高い料率の印税を権利者に支払うと言っている。Appleは、同社が米国内で71.5%、それ以外では73%を支払い、Spotify等は70%程度であるとPeter Kafkaに言った。それが、米国のビッグ3レーベル、Universal、Warner Bros、およびSonyと合意したApple Musicの契約だ。

Apple Taylor Swift Blog理論的には、もしトライアルが人々に年間120ドル(彼らがCDに払っていたよりはるかに高額)支払うよう説得できれば、トライアルが長期かつ忠実なApple Music定期購読者に結びついた場合、権利者への支払い総額を増加させるかもしれない。

しかしそれは非常にリスキーな夢物語であり、低予算のアーティストにとってはなおさらだ。73%のロイヤルティー率でさえ、3ヵ月の無料トライアル後に3年間契約したApple Music購読者から権利者が得られる金額は、フルタイムで70%の場合の総額よりも少ない。

もしAppleのゼロ印税トライアルが業界標準になると、問題はさらに複雑化する。権利者やアーティストは、誰かが新サービスを試用するたびに犠牲にならなくてはいけないのだろうか?それは6ヵ月かそれ以上続くかもしれない。もしこの夏にアルバムが発売され、多くの人々がApple Musicの無料トライアルを利用すれば、アーティストは大きな損失を被るかもしれない。Beggars Groupは、トライアルの蔓延は「フリーミアムから『ミアム』を外すことだ」と書いている。

スウィフトは過去のヒット曲をSpotifyで提供しておりApple Musicでもその予定だ。しかし彼女は数ヵ月前にSpotifyと騒動を起こし、やはり’1989′ を取り下げている。ユーザーが限定シャッフルモードを無料で聴ける広告付サービスをSpotifyが提供しているためだ。Spotifyの無料コースは、人々にSpotifyを限定的に試させることで、通常の月額ストリーミングサービスを購読させようとするものだ。大局的に考えれば、アーティストや権利者は無料トライアルに協力すべきだ。なぜならそれは業界がダウンロード販売に代わる安定した収入源を構築する方法だからだ。

しかし、それでも彼らは支払いを受けるべきだ。

少なくともSpotifyは、無料コースの広告から得た収益の約70%を権利者に渡している。広告の販売には金のかかる営業チームが必要であり、それがSpotifyが有料購読者を好む理由だ。しかし彼らは、カジュアルユーザーを有料購読者に転換させる費用のために、権利者に自分の取り分を諦めさせようとはしていない。

Apple Musicのゼロ印税プロモーションの全体構造は、音楽は価値ある物であり人々はiTunesストアでそうしていたように対価を払うべきである、という同社幹部らの哲学に反している。今そのAppleが、アーティストは報酬を受けるべきではないと言っている。

これはAppleが、(規制の壁さえなければ)全レーベルを買い取るだけの資金を持っていることを踏まえると、いよいよ不合理だ。彼らはユーザーに何らかの無料トライアルを提供しつつアーティストに支払える金を間違いなく持っている。もしAppleが、Apple Musicには料金に見合う価値があると本当に信じているなら、トライアルを賄うために払った費用を取り戻せる確信があるはずだ。百歩譲っても、トライアル期間中に低い率でも印税を支払うことはできるはずだ。もしユーザーがあるアーティストの楽曲を聞き続け、3ヵ月が終る時点で止めてしまっても、そのミュージシャンがバカを見ないですむために。

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以前私は音楽業界について、Appleの富が著しく戦いを困難にするかもしれないと書いた。携帯電話やノートパソコンを売って何十億ドルも稼いでいないからだ。

もしAppleが、大枚をはたいて独占契約を結んだり、ライバルより安いサービスを提供したり、費用を払って広告付サービスや無料トライアルを行えば、Spotify等のライバルを追い抜くことは可能だ。ポジティブなマーケティング効果、そしてテイラー・スウィフトのようなアーティストがApple Musicに全楽曲を提供することによる製品の向上を考えれば、もっと寛大な条件で取引を行う価値は十分ある。

しかしもしAppleが出し惜しみを続け、テイラー・スウィフトのような大物やインディーレーベルの支持を失い、独占もなく、他と同じような料金で低機能なサービスをスタートすれば、Apple Musicはリスナーの求めているものと調和しないだろう。

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音楽消費のポータルを所有することは、著しく実入りのよいビジネスになる可能性がある。人々がコンサートのチケットや物販という音楽界の真のドル箱を、お気に入りのストリーミングサービス経由で購入するところを想像してほしい。それはまた、Appleのプラットフォームへの囲い込みを強化し、高級ハードウェアの売上を促進する膨大なモバイル利用時間へのゲートウェイでもある。

iPadは、iPhoneさらにはApple上昇への道を開いた。ストリーミング音楽市場を支配することは、豊富な資金を持つ会社にとって賢明な投資に見える。

Apple様、どうかテイの言うことを聞いてほしい。

[原文へ]

(翻訳:Nob Takahashi / facebook

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TechCrunch Japan

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