テックエリートなんて眼中にない、新ポータル構想「Syn.」仕掛け人が大いに語る

2014年10月16日にKDDI主導で立ち上げたサービス「Syn.(シンドット)」。「中心のないポータル」を目指すとして話題となった。本誌でもローンチの際に取り上げたが、ネットユーザーたちの反響はあまり芳しいものではなかったのが正直な印象だ。11月19日に行われたTechCrunch Tokyo 2014で、編集長の西村賢がストレートに質問をぶつけてみた。

「今どき、ポータルなんて必要?」

「正直言って、必要ないと思いますよ」と森岡氏。「でもそれは、われわれや西村さん、またTechCrunchの読者のようなテックエリートの人たち、わずか一握りの人たちにだけ必要ないんです」。

今やスマートフォンの普及率は53.5%(平成26年年版情報通信白書より)。半数以上が所有していることになる。そしてスマートフォンで提供されているはアプリは250万以上と言われている。しかし、ユーザー1人がダウンロードする平均アプリ数は38。そのうち日常的に利用しているアプリはわずか8つ。さらにカメラやメールアプリなどを除けばわずか4つを普段使っているに過ぎない、と森岡氏。つまり、多くのユーザーは、スマートフォンで利用できるサービスを使いこなせていないのだ。

森岡氏はFacebook日本の元副代表を務めた人物。国内ユーザーが80万人の時代、2010年に入社している。その時も「mixiとTwitterがあるのになぜFacebook?」「実名重視のFacebookは日本のインターネット文化には受け入れられない」という声が多かったと振り返る。

ところが、現在ではその25倍に相当する2000万人以上の国内ユーザーをFacebookは擁し、mixiの月間アクティブユーザー数を上回るようになった。一部の人たちの「匿名性の高い日本のインターネット文化で広まるはずがない」という主張はもろくも崩れ去った形だ。

インターネットの一部のユーザーの憶測が外れたように、今回も「着実にやっていくことによって広がっていくはず」と森岡氏は強調する。

アプリを探してインストールする行為はハードルが高い

「自分たちで新しいサービスを取り入れられる人たちはいいですよ。でも、これだけ多くの人がスマートフォンを使うようになれば、ITに疎い人たちにも広まっていくはずなんです。例えば、大手スーパーが売り出している格安スマートフォンを店員に勧められるままに購入したような人たちとか。少し前はポータルサイトがあって、知りたいことや問題があったらそこにアクセスしたら解決できました。スマートフォン時代の現在ではアプリが解決してくれますよね。でも、一般ユーザーにとっては、問題を解決したくてもそれをしてくれるアプリに何があるかを調べることもできない。それにApp StoreやGoogle Playでアプリを探してダウンロードしてインストールする、という一連の動作は一般ユーザーにはハードルが高いんです。そんな人たちにSyn.という形でサービスの存在を知ってもらい、使ってもらえれば、スマートフォンのパフォーマンスそのものを発揮でき、その楽しさを知ってもらえ、その価値が倍増すると思うんですよ」(森岡氏)

Syn.では、カテゴリだけではなく、アプリとWebの垣根も越え、シームレスにサービスを行き来できるよう設計されている。それにより、ユーザーが複数のサービスを使いこなすための負担を軽減している。テックエリートには不要かもしれないが、どんな人でもスマートフォンを使いこなすために「ポータル的な存在は必要」だと森岡氏は言う。

スマートフォンを使いこなせなかった人たちも年月とともに経験値が上がり、インターネットの歩き方を知るようになる。そうなれば「Syn.そのものも、彼らに合わせてどんどん進化させていく」(森岡氏)ことになる。ただ、現状は「いいサービスをユーザーに届けることを最優先したい」。

「驚くようなビッグネーム」も参入に名乗り

スタート時点でアライアンスパートナーが11社だったSyn.。現在13社に増えたが、まだまだ点在するサービスを線でつなげた、いわば「山手線のようなもの」と森岡氏は語る。

「それらの点(駅)を行き来するのにタクシーを使ってもバスを使ってもいい。ただ、最寄り駅をもっと便利にしようという考えなんですよ。今のサービスの数が最終地点ではなく、あくまでも通過点。あまりにも大きなサービス事業者や有名どころは、志や目的地に共感するだけでなく経済的なものも含めたメリットがないと動けないでしょう。わたしたちの今のフェイズはSyn.の有用性などのファクトを積み上げて彼らの目の前に提出できるようにすることだと思うんです。すでに驚くようなビッグネームが参入への名乗りを上げてくれているので、このやり方は間違っていなかった、と確信しています。」

そのように話が進むことは「計画の一部」だったのだろうか。森岡氏は「計画的だったわけではないですよ」と否定する。しかし「そうなったら嬉しい、と思っていたことが実現した感じではありますよね。実名か匿名かの流れの時もそうですが、以前Facebookに在籍していたときに、リクルートと『コネクションサーチ』という企業内のOBを訪問しようというサービスを立ち上げたことがあったんですが、それで実名制とはどういうものかを示せました。何も考えず現状のインターネット文化に浸かっているのではなく、ユーザーの脳を覚醒する、そんな機会も提供できているのではないかと考えています」と語る。

最近よくあるサービスのように、ユーザーの嗜好を反映したカスタマイズされたサジェストなどは「気持ち悪い」ので取り入れるつもりはないという。しかしサービス参入者を増やし、カテゴリの中からユーザーが好みのコンテンツを表示できるようオープン化したいとのこと。

また、このアライアンス全体で集積したデータをサイドメニューや各社のコンテンツにフィードバックするDMP(Data Management Platform)も年明けに発表したいという。しかしどのように反映させるのかや、どんなデータを集めるのか、などについては言及を避け「もやっとしててください」と語るにとどまった。

ポータル最大手のヤフーは「ライバル視していない」

ポータルサイトといえばYahoo!が最大手だが、「ライバル視していません。むしろ仲間に入ってほしいくらい。僕らが目指しているのはポータルサイトではありませんから」と森岡氏。また、APIを解放し、海外で一般化しているように、「サイドメニューを共有化しその中で回遊できるようにしていきたい。そのツールが日本でも近い将来一般化するのを期待したい」と語った。

現在のところSyn.はKDDIという携帯通信キャリア主導で展開しているが、それはあくまでも「信頼を持って見てもらうためのもの。このサービス自体はキャリアのものではなく、インターネットのサービス」と強調。Syn.の目指すものが一部のユーザーだけではなく、全インターネットユーザーがやがてスマートフォンを使うようになり、それを使いこなし、スマートフォンのパフォーマンスを最大限に発揮することである、そんな未来像を描きながら、森岡氏は話を締めくくった。


投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。