テック系の職を目指す女性にトレーニングやメンターを提供するEdTechスタートアップEntity Academyが約113億円を調達

近年、女性がテクノロジーの世界に大きく進出してきたが、雇用者数、報酬、そしてプロダクト開発において、真に公平な状況に到達するまでにはまだ長い道のりがある。Entity Academyは、女性にデータデサイエンス、ソフトウェア開発などの領域のトレーニングやメンタリングを提供し、最終的にはジョブコーチングを目指すEdTechスタートアップだ。同社は、事業の堅調な成長を背景に、その比率を高めようという野心を抱き、1億ドル(約113億円)を調達した。

この資金は、Entity Academyの授業料(通常1万5000ドル[約169万円])を受講者が調達することへの支援に充てられる。同資金の出資者で自身もスタートアップであるLeif(レイフ)は、EdTechプラットフォームに金融サービスを提供し、学生たちが所得分配契約(ISA、学生が就職するまで学費ローンを返済する必要がない制度)を利用できる機会を創出している。

Entityの創業者でCEOのJennifer Schwab(ジェニファー・シュワブ)氏は、2016年以降、外部からの資金調達を事実上行わずに事業を構築してきた。しかし今回の資金調達で、VCの主導による同社初の、より伝統的な株式投資ラウンドの先駆けを得たと同氏は語る。

Entityはeラーニングコンテンツ自体を制作するのではなく、Springboard(スプリングボード)やLambda School(ラムダ・スクール)、Columbia University(コロンビア大学)などのプロバイダーから提供されるデータサイエンス、ソフトウェア開発、フィンテックエンジニアリング、テクノロジーセールスのオンラインコースを、24~33週の「ブートキャンプ」スタイルのコースに集約している。(大学からのコースは機関が作成したものがそのまま提示される傾向にあるが、他のコースはEntity自身が受講者に合わせてカスタマイズしている)。

Entityのテクノロジーへの関わりは、同社のカリキュラムがテクノロジーにフォーカスしていることに留まらない。EdTechスタートアップから想像されるように、Entityもまた、戦略とビジネスを構築するために収集されるデータに大きく基礎を置く。

このデータは、過去や現在の受講生からのフィードバックや受講生の成果だけではなく、他のチャネルにも基づいている。同社の「コンテンツ部門」のEntity Mag(エンティティ・マグ)は、かなり興味深いことにソーシャルメディア上で急速に拡散し、Instagram(インスタグラム)やFacebook(フェイスブック)で110万人を超えるフォロワーを獲得しており、エンゲージメント(将来の学生も含まれるだろう)に向けた別の切り口の主要チャネルとなっている。

Entityはこれらすべてを使って、提供するコースやカリキュラムの内容、またその学習を補完する最良の方法についてキュレートする。Entityのコースには現在、テック業界で働く人々による対象を絞ったメンタリングや、求職に向けたキャリアコーチングも含まれている。

Entityのスイートスポットは枝分かれしている、とシュワブ氏はインタビューで語っている。

その分岐要素は、新規の女性(典型的には19~23歳)と、新しいキャリアに再挑戦するかキャリアを再考する女性(典型的には30~39歳)である。どちらのカテゴリーの女性も、テック系の仕事や、より技術的なプロモーションを考えたいが、そのための専門知識が不足していることを認識し、Entityを訪れている。その多くは大学で人文科学やその他の非技術系科目を学んでおり、概して、技術的な役割への扉を開くための文字通りの再訓練を提供するような職場環境でのサポートを得られていない。

加えて、これらの女性の多様性の組み合わせも存在し、そのコホートに異なる種類の課題を提起しているが、課題に取り組む手助けをするEntityにとってはそれが大きな推進力にもなっている。19~23歳のグループの約55%は有色人種の女性であり、30~39歳では62%を占める。Entityは「ラップアラウンド(包み込み)」戦略と同社が表現するように、このような女性たちすべてに対して、テック系の仕事に就く上でのそれぞれの課題に対処するツールを提供することを目指している。

「受講生の多くは、過去にSTEMプログラムを追求したことがないと思います」とシュワブ氏は述べ「そのため、私たちは一からスキルセットを構築しています」と続けた。

受講生の約80%が授業料を支払うために何らかの融資を受けており、Entityがそのための手段を強化している背景がうかがえる。

2016年以降、ほぼすべてが女性である400人余りの受講生が同社のコースを修了している。しかし、当初はかなり短期間のプログラム(6週間)として開始され、すべて対面式で費用は5000ドル(約56万円)であった。現在では8カ月間のコースが多数存在し、すべてがバーチャルとなっており、費用も人数も増大している。シュワブ氏によると、さらに300人が同社のコースを受講中で、来年は1500人になる見込みだという。

Entityの成長は、EdTechの拡大、そして「Future of Work(未来の働き方)」のトレンドと密接に結びついている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、eラーニング業界に思いもよらない、大きな苦労をともなう期待を生じさせた。教育者はリモートでのかつてない需要に突如として直面し、それを支援するためのツールを各企業が構築してきた。この需要は、従来の学習環境のバーチャル化の必要性のみならず、パンデミックのために多くの人々が自ら進んで、あるいはやむを得ず、自分たちの生活で何をすべきかを再考するようになったことにもよるものだ。オンライン教育は、他にほとんど何もできないときに何かをするための重要な手段の1つになっている。

Entity自身のストーリーは、これらのストーリーラインの両方に適合する。

同社は、シュワブ氏が自身のキャリアの初期にErnst & Young(アーンスト・アンド・ヤング)でアドバイザーを務めていたときの経験をもとに、ロサンゼルスで設立された。

「私の当初の目標は、女性のキャリアに対する考え方をグローバルに変革することでした。Ernst & Youngに入社した当時は女性のメンターがいなかったことから、女性をより良くメンターする方法について考えるようになったことが原動力となりました」とシュワブ氏は回想する。同氏は「(馴染みのある場所とは違う)島にいるような感じ」はそれ自体は良くないことだとしながらも、それは(同氏のキャリア上経験のなかった)教育と職業斡旋に向けての漸次的な進化であり、メンタリングと並行して行われたのは「女性がテック系の仕事に就かない理由を(別の理由として)特定した」からだと言い添えた。

2016年に同社がそのコンセプトを最初に具現化したのは、ロサンゼルスの1920年築の建物に設置された実店舗型の学習センターとしてであった。それは説得力を持つセールスだった。学習期間が短く、対面式であるため、完了率は96%で、終了時にはコホートの90%以上に仕事がもたらされた。「個人としての直接的なアカウンタビリティははるかに大きなものがあります」とシュワブ氏は語っている。

パンデミックは、当然ながらEntityをそのモデルから引き離したが、同時に規模拡大のレバーにもなった。2020年にラスベガスの新本社からバーチャルプログラムとして再スタートした際には、受講者数が増加し、コース期間が延長された他、より長期の契約を反映して授業料も増大した。

その一方で、完了率が低下するというマイナス面も生じており、同社が改善に取り組むべき優先事項の1つであるとシュワブ氏は述べている。

同社のプログラムのメンターは、バーチャル化によって拡大した事業の別の側面だ。当初、メンターは全員無給のボランティアで、より多くの女性が業界で優位に立てるように手助けしたいと思っていたか、より便宜的に学生との接触を雇用のための資金源として利用していた。この点についても、オンラインのエンゲージメントとともに進化している。

「今ではメンターに報酬を支払い、プロのモデレーターを雇って、メンター主導のディスカッションを一定のペースで進めています」とシュワブ氏。講演者は奨学金や保育料を寄付することが多いという。受講生グループ向けの講義にフォーカスしているメンターや、通例的には受講生が学ぶ技術的科目に関連している個別対応に従事するメンターなど、現在Entityのネットワークには約250人のメンターが在籍している。シュワブ氏によると、この数字は来年には500人に倍増することが見込まれている。

同社が学びを提供する領域への求職の側面については、おそらくこれまでのところあまり発展していないのだろう。Entityのウェブサイトの下部には、Entity Academyは伝統的な教育に取って代わるものではなく、補完的なものであるという注意書きとともに「仕事の斡旋を保証するものではない」と小さな文字で書かれている。

しかしながら、オポチュニティのポテンシャルもそこには感じられる。その意味では、The Mom Project(ザ・マム・プロジェクト)のように、雇用市場における女性の大きな格差だけではなく、それに対処するための仕組みがあまり整っていないという事実に焦点を当て、明確に女性層をターゲットにするオポチュニティに目を向けている企業もある。ありがたいことに、状況は変わりつつあるようだ。

画像クレジット:AleksandarNakic / Getty Images

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(文:Ingrid Lunden、翻訳:Dragonfly)

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TechCrunch Japan

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