デジタル遺言のススメ

このような記事を書くことにならなければ、どんなによかったかと思う。でも、最近こういったことを意識せざるを得ない、不幸な状況に遭遇してしまった。この時代における死というものが、複雑で困難な、技術的にもやっかいな状況をもたらすことがあることにも気付かされた。言うまでもなく、遺言は書いておくべきだ。遺志は文書にしておくべきなのだ。しかしほとんどの遺言は、故人の財産の処分方法を指示するものに過ぎない。もしあなたがいなくなったとき、あなたの人生の一面でもある、デジタル世界のものはどうなってしまうのか?

「デジタル遺言」や「デジタル遺産相続」といったものについての優れたガイドは、ネット上にもいろいろある。その中には、FacebookやGoogleのアカウントをどうすべきか、といったことが書かれている。そうしたリンク先にアクセスして、このようなテーマについて詳しく調べておくことをお勧めする。とりわけ、2、3の点については、しっかりと意識しておく価値があると思われる。

1つは、こうした用途にも、LastPassや、1Passwordといったパスワードマネージャの利用が有効であるということ。まず、それによって、あなたが利用しているオンラインアカウントの一覧がすぐに分かる。またそうしたサービスは、リカバリ機能を内蔵しているので、あなたの遺族や相続人に後を託すことができる。私が個人的に利用しているLastPassは、実際に「パスワードのデジタル遺言を準備する」ための詳細なガイドを用意している。1Passwordの場合には、この目的で利用するためのサードパーティによるガイドが存在している。

もう1つは、2段階認証の問題だ。もしも、事故に遭って、スマホやYubiKeyなども破壊してしまったとしたらどうだろう? あるいは、相続人がスマホのパスコードを解除できない場合にはどうなるのだろう? そうした状況に対しては、2FAバックアップコードを作成して、パスワードマネージャーの緊急リカバリキットに追加しておくのが有効だ。

技術的なレベルが高い人ほど、デジタル的な後処理は複雑なものになる。ほとんどの人にとって、問題となるのは電子メール、ソーシャルメディア、写真くらいのもの。しかし、技術的な仕事をしている人、特にデベロッパーなら、状況はもっとずっと複雑だ。まず、独自のドメインを持っているか? あなたの相続人は、そのドメインについて、さらにそれを登録したのがどこなのか知っているか?その相続人は、技術に明るいか? そうでない場合、彼らが状況を把握する前に、ドメインの有効期限が切れてしまうことも考えられる。あなたは、AWSやGCP、あるいはDigital Ocean上で実行しているサービスを所有しているか? もしくは、プライベートのGitHubリポジトリを持っているか? あるいは無視できないほどの数のスター、フォーク、イシュー、そしてWikiページを伴ったパブリックなリポジトリを持っているか? また、Slackのワークスペースを管理しているか?

上に挙げたようなことに心当たりがあるのなら、独立した「技術的遺言執行人」を指名した方がいいだろう。そうしたことをどう処理すべきか、執行人に指示を預けておくのだ。技術に詳しくない人は、仮にそうしたものにアクセスできたとしても、指示の意味を理解できないだろう。事前のわずかな準備が、あなたが遺したものを処理しなければならない人の仕事を、大幅にやりやすくすることがあるものだ。

最後に、あなたが個人的に保有しているかもしれない暗号通貨はどうだろう? 一般的に、暗号通貨のウォレットには、何らかのリカバリシードが付属している。あなたは、それをどこかの貸金庫に保管しているだろうか? あなたの相続人は、その貸金庫について知っているだろうか? もしあなたが、相続人にビットコインを引き継いでもらいたいなら、それについて知らせておかなければならない。もちろん、これにはセキュリティ上の代償もある。相続の対象となる金額によって、どれくらい用心すればいいのか、という程度も変わってくるだろう。

まとめておく。デジタル遺言について、さらによく調べ、実際に作成しておこう。どれかのパスワードマネージャーを利用しよう。それは、あなたのオンラインアカウントの明細としても機能する。そして、相続人が緊急用のリカバリキーにアクセスできるようにしておこう。相続人には、2FAバックアップコードも渡しておこう。もしあれば、暗号通貨のウォレットのリカバリシードについても知らせておく。また必要に応じて、技術的な遺言執行者を指名する。そして、これは非常に重要なことだが、何人かの信頼できる人に、あなたがしたことをすべて確実に知らせておこう。そうしておかないと、あまり意味がないのだ。

場合によっては、何らかのハードウェアの消失や災害に遭遇し、このような対策を取っていたことに自ら感謝したいような気になることもあるだろう。そういうことがなかったとしても、あなたの相続人は、間違いなくあなたに感謝するはずだ。私たちは誰も、突然何の前触れもなく、自分がこの世からいなくなってしまうとは考えていない。しかし私は、はっきりと言っておきたい。私が最近経験した残酷な現実からも分かるように、そうしたことは起こるのだ。準備は怠らないように。

画像クレジット:パブリックドメインライセンスによるWikimedia Commons

原文へ

(翻訳:Fumihiko Shibata)

投稿者:

TechCrunch Japan

TechCrunchは2005年にシリコンバレーでスタートし、スタートアップ企業の紹介やインターネットの新しいプロダクトのレビュー、そして業界の重要なニュースを扱うテクノロジーメディアとして成長してきました。現在、米国を始め、欧州、アジア地域のテクノロジー業界の話題をカバーしています。そして、米国では2010年9月に世界的なオンラインメディア企業のAOLの傘下となりその運営が続けられています。 日本では2006年6月から翻訳版となるTechCrunch Japanが産声を上げてスタートしています。その後、日本でのオリジナル記事の投稿やイベントなどを開催しています。なお、TechCrunch Japanも2011年4月1日より米国と同様に米AOLの日本法人AOLオンライン・ジャパンにより運営されています。