デュポンとVCはリチウム採掘が電動化が進む未来に向けての超重要な投資先だと考える

「採掘(マイニング)」は、テック業界では数年前から暗号資産と同義になっている。ビットコインは5万ドル(約5万3000円)の壁に穴を空け、GPUとASICは分散型暗号資産の恩恵に賭けて、世界中でハッシュ関数のシェア獲得合戦を繰り広げている。その興奮は、皮肉なことにベンチャー投資資金と起業家の思考をマイニング1.0(実際の鉱物資源の採取)に引き戻そうとする力に油を注いでいる。

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中でも注目を集めるターゲットはリチウムだ。スマートフォンや電気自動車のバッテリー、さらには現代生活の利便性や産業の重要な部分を担うほぼすべての電気製品に欠かせない素材だ。中国は、自国のリチウムの採掘業とバッテリーの製造業が現在のところ世界をリードしていると考えている。それは、長年にわたるリチウムの供給統制と、世界の需要に応えるための大量生産能力の拡大を推進してきたおおかげ。だが米中関係の緊張が高まり、また世界がますます基盤システムの電動化を進めるようになるにつれいぇ、企業は別のサプライヤーを競って求めるようになった。

DuPont(デュポン)が抽出技術の実用化を推し進めているのは、そのためでもある。

水のろ過と浄化サービスを提供するDuPont Water Slutions(デュポン・ウォーター・ソリューションズ)は、リチウム採掘技術の開発と再生可能エネルギー事業を行うVulcan Energy Resources(バルカン・エナジー・リリソーセズ)と手を組み、リチウムの新しい直接抽出方式の試験を行うことにした。

現在、リチウムの採掘方法は、どう控えめにいっても環境に悪い。毒性の化学薬品を大量に使用し、水資源の汚染を拡大している。ドイツのアッパーライン渓谷で準備中のこの新しい合弁事業では、DuPontのリチウム直接抽出製品とろ過に関する専門知識を活かして、リチウムの採掘と精製を環境にやさしいかたちで行うものだと、同社は話している。

バルカンの業務執行取締役であるFrancis Wedin(フランシス・ウェディン)博士は、声明の中でこう述べている。「大きなスケールで製造されるDuPontの多様な製品群は、持続可能な方法でブラインからリチウムを抽出する方式への高い適応性を示しています」。

DuPontでは、この技術を鉱業全体に押し広げ、吸着剤、ナノろ過技術、逆浸透フィルター、イオン交換樹脂、限外ろ過、閉回路逆浸透などの同社のポートフォリオにある製品を広範な顧客グループに利用してもらおうと考えている。

DuPontがリチウム採掘事業に本格的に乗り出したことで、独自のリチウム抽出技術を開発したLilac Solutions(ライラック・ソリューションズ)などのスタートアップは、激しい競争に捲き込まれることになるだろう。Lilacは、カリフォルニアで最も環境汚染が深刻なソルトン湖でリチウムブラインの鉱床(プール)の開発を行うため、オーストラリアのControlled Thermal Resources(コントロールド・サーマル・リソーシズ)と提携した。

2020年はオークランドのスタートアップが、Breakthrough Energy Ventures(この人たちはどこにでも顔を出す)、MIT傘下の投資会社The Engine(ジ・エンジン)、設立当初からのUber(ウーバー)の投資家Chris Sacca(クリス・サッカ)氏の比較的新しい気候変動に特化した投資会社Lowercarbon Capital(ローワーカーボン・キャピタル)の主導による2000万ドル(約21億円)の投資を獲得したと発表している。

Lilacの他にも、ソフトウェアによって抽出企業の事業が効率化されるのにともない、ベンチャー投資金(暗号資産ではない)が、マイニングビジネスに流れ込んでいる。注目を集めた投資先には、ハイテク技術で鉱床を探し出すKoBold Minerals(コボンルド・ミネラルズ)がある(これもまたBreakthrough Energy Venturesのポートフォリオ企業)。この会社は、ビッグデータと機械学習を活用して有望な鉱床の選定を支援する。また、宇宙から衛星を使って鉱床探索を行うLunasonde(ルナゾンデ)もそうだ。

この他のリチウム問題のソリューションも、投資家たちの関心を集めている。バッテリー技術に投資するVolta Energy Technologies(ボルタ・エナジー・テクノロジーズ)の創設者であり最高責任者のJeff Chamberlain(ジェフ・チャンバーレイン)氏は、もう1つのソリューションを「都市鉱山」に見いだしている。つまり、使用済みリチウムイオンバッテリーのリサイクルだ。鉛蓄電池は、何十年も前から部品のリサイクルが行われてきた。チャンバーレイン氏は、リチウムイオンのサプライチェーンも、今ある資源の再利用がより効率的に行われるよう進化することを期待している。

チャンバーレイン氏の考えが正しいことを実証しようとする企業も数多い。米国時間2月16日、特別買収目的会社(SPAC)を通じて株式公開を果たしたLi-Cycle(リサイクル)もその1つだ。同社の評価額は、この時点で16億7000万ドル(約1770億円)と見積もられている。

一方、非公開またはベンチャー投資家が支援するスタートアップも、別のリサイクルソリューションを開発している。マサチューセッツのウースター工科大学からスピンアウトしたBattery Resourcers(バッテリー・リソーサーズ)は、回収したスクラップから新しい陰極材料を作り出すことに特化している。シンガポールのGreen Li-ion(グリーン・リアイオン)もまた、リチウムイオンバッテリーのの陰極を製造するリサイクル工場を開設しよううとしている。2016年に元Tesla(テスラ)の幹部によって創設されたスウェーデンのバッテリースタートアップNorthvolt(ノースボルト)は、すでにリサイクルの実験工場を稼働させている。

もう1つ、J.B. Straubel(ジェイ・ビー・ストローブル)氏がネバダに創設したスタートアップRedwood Materials(レッドウッド・マテリアルズ)もある。これは、Amazon(アマゾン)のClimate Pledge Fund(気候誓約基金)を通じて資金援助を受けた最初の企業の1つだ。

「究極的には、石からリチウムを抽出しなければならないことはないのです。ブラインプールや都市鉱山からもリチウムは採れます」とチャンバーレイン氏は話す。これは「マイニング1.0バージョン2」といえる。だがまさにそれが、気候の未来を確実に安定させたいと私たちが願ったとき、この世界が投資すべき分野だ。

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カテゴリー:EnviroTech
タグ:DuPontリチウムバッテリーリサイクル

画像クレジット:SeppFriedhuber / Getty Images

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(文:Jonathan Shieber, Danny Crichton、翻訳:金井哲夫)

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TechCrunch Japan

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