トップVCのAccelがスタートアップを顧客とする新しいB2BとしてAPIビジネスに着目、早くもカンファレンスを

UberはUberだけではない。それはGoogle Mapsでもあるし、バックグラウンドチェッカーのCheckrでもあり、支払決済のBraintreeでもあり、Twilioのテキストメッセージングでもある。ビジネスの最良の構築方法は、すべてを自分でやらないことだ。成績上位の企業は近年ますます、いろんな専門企業のAPIを寄せ集めて自分のビジネスを組み立てている。彼らは車を再発明せず、むしろ既存の何かに、ユニークな付加価値をつけて売り出すのだ。

こういう、APIによるビルディングブロックがビッグビジネスに育ってくると、それ自体の課題もいろいろ生まれる。APIを多くの企業に使ってもらうには、どうしたらいいのか? デベロッパのエコシステムをどうやって支援するのか? APIの課金体系の適正な決め方は? 等々。

そこで、著名なVCのAccel Partnersが、そんな‘APIビジネス’に手を差し伸べることになった。同社は、BraintreeやSegment.ioやSlack、Checkrなどへの投資から、そのことを学んだ。でも、TwilioやHerokuなど、VCとしての投資の好機をのがした企業もある。同社は、もっと多くのAPIビジネスを惹きつけ、その知恵を共有するために、“APX”と名づけた新たな投資枠組みを創設した。APXとは、ビジネスのAPI化(API-ification of business)という意味だ。

Accel APXのパートナー、(左)Rich Wong、(右)Vas Natarjan

AccelのパートナーRich Wongはこう語る: “APXは現代のつるはしとシャベルだ”。ゴールドラッシュの時代にいちばん儲けたのは、採鉱ツール…削岩ハンマーと大型スコップ…を売る商人たちだったのだ。

パートナー仲間のVas Natarjanと共に、WongはAccelの資金をAPXにつぎ込むつもりだ。両者ともすでにこの分野に投資しているが、これからはこのファンドの公式のテーマになる。

まず3月19日に、Accelはサンフランシスコで初のAPXカンファレンスを開催する。APIを多用している消費者向けサービスの役員たちがゲストスピーカーとして招かれ、またAPIを提供している側のスタートアップも集まる。FacebookやAmazon、Dropbox、Twitterなどの大物と、URX、Checkr、Chainなどの若手企業が来席する。

ビルディングブロックを買うこと

デベロッパは、買うか作るか?という疑問をつねに抱えている。専門的機能を持ったAPIをお金を払って使った方が得か、それとも自前のリソースを投じて内製すべきか。でも、プロジェクトが複雑で、人材は争奪戦が激しいときは、内製は遅いしお金もかかりすぎる。

Natarjanはこう言う、“優秀なデベロッパを探(さが)しまくって、彼らに作ってもらう必要はない。必要な機能はすべて、信頼性の高いAPIにアウトソースすればよい。それはある種、人間の才能を売買するビジネスだ”。

Wongが続ける、“支払決済機能や、その記録分析機能、地図の機能などは、すでに良いAPIがいろいろあるから、自分で一から書くのは馬鹿げている”。


たとえばバックグラウンドチェックの場合は、InstacartやHomejoyのようなオンデマンドの共有経済スタートアップが、配達要員がネコババ(横領)をしない誠実な人間であることを確認しなければならない。これまで彼らは、自分で警察の監視対象リストや前科記録などを見て、人物をチェックしていた。

でも、彼らのビジネスは食料品の配達や家のお掃除であり、バックグラウンドチェックではない。そんなビジネスが、人をチェックするための部署を設けるのは、馬鹿げている。そこで、Natarjanは言う、“Checkrを利用すれば、その面倒な仕事が、APIを使うという単純な仕事へと、一挙に縮減する。どこかに、それをもっと上手にやってるところがあるのに、わざわざ自作する必要はない。これまでプロダクトの差別化努力に1%のリソースしか割けなかったのを、これからは100%割けるようになるのだ”。

売ることよりデベロッパの洗脳が重要

今は、APIのつぎはぎ細工のような企業、HotelTonightやUberやInstacartが栄えている時代だ。AccelのようなVCが、そんな部品に投資対象として目をつけるのも当然である。でもなぜ、AccelがAPXをやるのか?

“APIビジネスをスケールしようとすると、‘売る’という部分がハードルになってくる”、とWongは力説する。


そこでAccelは、次のような方面でAPIビジネスをアシストしたい、と考えている:

  • APIビジネスの市場開拓 デベロッパへの売り込みは、ITのトップをワインとディナーで接待することとは全然違う。“売り込むというよりむしろ宗教の伝道行為に近いね”、とNatarjanは言う。
  • デベロッパのエコシステムの活性化 Wongによると、“デベロッパは個性が強くて頭が良い”ので、“自分の方が良いものを作れる”と思いがちだ。だからとにかく、APIを試用してもらうことが重要。“理想的には、デベロッパの顧客がAPIビジネスに次に何が必要かを教える、という形が良い”、ということだ。すなわち顧客を巻き込めば、デベロッパも顧客の言うことには関心を持たざるをえない。
  • APIの料金体系 Natarjanはこう言う、”デベロッパは慢性的に、買うか作るかの決断を迫られている”。だから、“‘買う’を決断してもらうためには、長期的な料金体系がデベロッパにとって抵抗感のないものであることが重要だ”。
  • スケール(大規模化)とエンタプライズ対応 新しい顧客が一つ増えたな、と思っていたら、翌日からAPIビジネスの技術面の負荷が一挙に急増することもある。大きな負荷に対し、アップタイムを維持し続けるためには、雇用とオペレーション管理の戦略が重要だ。

APX Conferenceでは、Accelのポートフォリオに載ってる企業と載ってない企業の両方を対象に、上記の各トピックに関するセッションを行う。Bessemerなど他のVCもAPIビジネスへの投資に力を入れ始めているので、こんなカンファレンスで、競争に勝つことを意識することが重要だ。

“ここでは、スタートアップの心をつかむというよりも、デベロッパの心をつかむことが重要になる”、とWongは言う。“GoogleやMicrosoftやAmazonも、今では同じトレンドに着目しているから、彼らのようなモンスター企業も今、早期にコースを修正しようとしている(APIビジネスに本格的に取り組むこと)”。

Wongはこう語る: “4〜5年前までは、スタートアップにサービスを提供することが大きなビジネスになる、なんて誰も思わなかった。でも、今は違うね”。

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(翻訳:iwatani(a.k.a. hiwa


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TechCrunch Japan

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