トランプ政権が5Gに向けミッドバンドスペクトルのオークションを発表

5Gはワイヤレス接続のクオリティ、帯域幅、レンジ(届く範囲)を劇的に拡大する可能性のある技術としてますます注目を集めている。この技術を実際に展開する際の主な障害の1つは、単純にスペクトルだ。今のところは民間利用に必要とされる技術が不足している。5Gには、建物を透過し、レンジを拡げるために非常に低い周波数のスペクトルが必要だ。また、将来利用される巨大な帯域幅をサポートするには、高い周波数も必要となる。

だが問題の核心はミッドバンドにある。ミッドバンドは、5Gテクノロジーで主に使われるレンジ、レイテンシー(遅延の程度)、帯域幅の組み合わせを支えられる周波数だ。特にレガシーインフラとレガシーデバイスへの橋渡しの役割を果たす可能性がある。

現在、米国におけるミッドバンドのスペクトルは、圧倒的に軍をはじめとした政府機関が利用している。軍はミッドバンドのスペクトルを軍事作戦から衛星接続まであらゆる目的に使っている。これが商用事業者によるこのスペクトルへのアクセスを妨げ、5G展開を阻む要因となってきた。

米国時間8月10日のホワイトハウスの発表が注目に値するのはこうした事情による。ホワイトハウスは、3450~3550MHzの周波数帯がオークションのために正式にFCC(米連邦通信委員会)の管理下に置かれ、民間事業者はオークションに参加すればミッドバンドの周波数帯にアクセスできると発表した。法的手続きの関係上、オークションは2021年12月に行われる予定で、民間利用開始はおそらく2022年になる。トランプ政権高官によると、ミッドバンドの利用にはAWS-3のスペクトル共有ルール(NTIAリリース)が適用されると見込まれる。

ホワイトハウスによると、各軍と国防長官府からの180人の専門家で構成する委員会が編成され、国防総省が利用するどのスペクトルが5Gの民間利用のために解放できるか検討している。

こうした取り組みは、政府機関が5Gにスペクトルを割り当てるプロセスをスピードアップするために議会を通過した法案である「MOBILE NOW Act of 2017」に沿っている。この法律は米政府の通信問題に関する助言機関であるNTIA(米国商務省電気通信情報局)に対して、3450~3550MHzの帯域を2018年の主要な研究分野とするよう指示した(NTIAリリース)。それを受け同庁は2020年1月に、同帯域を民間利用に転換する「実行可能な選択肢(NTIAリリース)」について報告した。

これは、ワイヤレス通信が5Gへ移行する長いプロセスの中で最近みられたポジティブなステップだ。5Gの実現には技術(携帯電話のワイヤレスチップなど)、スペクトルの割り当て、ポリシーの開発、インフラの構築が必要となる。

電気工学の教授であり、高度なワイヤレス技術を研究する学術研究センターであるNYU WIRELESSの創業者のTed S. Rappaport(テッド・S・ラパポート)氏はこう述べた。「これは米国にとって素晴らしいニュースだ。米国の消費者やワイヤレス業界にとっても歓迎すべき動きだ」。

同氏は「業界における既存の知識と研究を踏まえると、特定の周波数の価値が高い」と述べた。「(オークションの対象となる帯域は)今の4Gスペクトルからそれほど離れているわけではないため、エンジニアや技術者が伝播についてすでに十分に理解している。また、電子機器が非常に低コストで簡単に作れるスペクトルだ」。

近年、5Gへの移行が遅いことを巡り、米政府の指導者らに対する圧力が高まっている。韓国や中国などに遅れをとっており(The Wall Street Journal記事)、特に韓国は世界のリーダーだ。通信インフラへの投資と新しいワイヤレスへの移行を先導する韓国政府の積極的な産業政策のおかげで、国内にはすでに200万人を超える5G加入者(RCR Wireless News記事)が存在する。

米国は最大の帯域幅を持つ5Gのミリ波(高周波)スペクトルでは先行したが、ミッドバンドスペクトルの割り当てでは遅れをとっている。本日の発表は注目に値するが、100MHzのスペクトルが5Gを利用する幅広いデバイスをサポートできるのか懸念する声もあり、今回の割り当ては始まりにすぎない。

それでも、ミッドバンドスペクトルが追加されたことは5Gへの移行を後押しする。帯域が決まればデバイスやチップメーカーが自社製品でどうサポートすべきか対応を始めることもできる。米国で5Gデバイスが広く利用可能になり、便利だと感じられるようになるまでには数年かかるかもしれない。ただ、スペクトルの問題は次世代のワイヤレスに到達するには必ず通る門であり、ついにその門は開かれようとしている。

画像クレジット:PAU BARRENA/AFP / Getty Images

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(翻訳:Mizoguchi)

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TechCrunch Japan

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