トランプ派のためのSNS「Gettr」は早くも混乱状態

おやおや、早いね。Donald Trump(ドナルド・トランプ)氏の広報担当者であるJason Miller(ジェイソン・ミラー)氏が、Twitterクローンを立ち上げたのはほんの数日前だったが、この新しいソーシャルネットワークは早くも問題が山積みだ。

まず、ハッカーたちがいち早くGettrのAPIを利用して、ユーザー8万5000人ほどのメールアドレスを盗んだ。そのデータには、ユーザー名と本名、誕生日なども含まれており、セキュリティ企業Hudson Rockの共同創業者Alon Gal(アロン・ガル)氏がそれを明らかにしている。

ガル氏はTechCrunchの取材に対して「APIの実装がいい加減で、悪質なハッカーなどが機密情報を取り出せる状態なら、その結果はデータ漏洩事故と同じであるため、セキュリティの専門企業と規制当局に任せるべきだ」と述べている。

先週、TechCrunchのセキュリティライターであるZack Whittakerは、GettrはもうすぐAPIからデータを盗まれるだろう、と予言していた

データの窃盗はGettrの頭痛の1つにすぎない。実はこのアプリは、2021年6月、App StoreとGoogle Playに登場したが、Politicoへのポストが正式ローンチとなり、その後の7月4日にベータを終了した。アプリは反中国で名高いトランプ陣営に訴求することが目的のはずだが、Gettrの初期の資金を出したのは、トランプ氏の元アドバイザーであるSteve Bannon(スティーブ・バノン)氏を支持する中国の億万長者、郭文貴氏だったようだ。The Washington Postの報道によると、反ワクチンの主張やQAnonの陰謀説などを広めた大規模な偽情報ネットワークの中心人物が郭氏だったらしい。

7月2日にアプリのチームは、ダウンロードの急増によるサインアップの遅れを詫びたが、立ち上げ時のちょっとしたダウンタイムなどは、微々たる問題だ。週末にかけて、Marjorie Taylor-Greene(
マージョリー・テイラー・グリーン)氏やスティーブ・バノン氏、そしてミラー氏本人など複数の人たちの公式のGettrアカウントがハッキングされ、アプリの杜撰なセキュリティがさらに問われた。

そんな事件はともかくとして、フェイクアカウントがとても多いため、どれがGettrの正規ユーザーなのか判別しづらい。アプリ自身が行っているレコメンデーションも同じで、試してみると、アプリ自身のレコメンデーションの中にSteamの偽ブランドのアカウントがあったりする。

おかしなものは、もっとある。アプリのデザインがTwitterと同じなのは異様だし、しかもTwitterのAPIを使って一部のユーザーのフォロワー数やプロフィールをコピーしているようだ。Gettrは登録時に、Twitterのハンドルを使うよう新規ユーザーに勧める。そうすると、場合によってはツイートをコピーできるからだそうだ。しかし試してみたが、私はだめだった。GettrがTwitterとすごく似ていることや、APIの利用についてTwitterに確認しているが返答はない。

モバイル版のGettrは、基本的にはTwitterの完全なクローンだが、その細部はずさんだ。Gettrのコピーには、「最高のソフトウェア品質をユーザーに提供するために最善を尽くし、誰もが自由に意見を述べることができるようにする」とソーシャルネットワークであるという自慢も含め、陳腐で奇妙なものもある。

Gettrは自らを、メインストリームのソーシャルネットワークが極右の考え方に対し敵対的である、と信じている人たちのための代わりになるものだと位置づけている。Gettrのウェブサイトは、「メッセージのキャンセルを拒否せよ。自分の修正第一条を生かせ。自由を祝福せよ」といったトランプ流のメッセージに慣れている人たちを新規ユーザーとして歓迎している。

ミラー氏も週末に、前大統領の言葉を引用している。「ヒドロキシクロロキンは効く!誰もこのポストを取り下げたりアカウントを停止しない!#GETTR」。現在のところGettrでは、コンテンツのモデレーションは緩いかそれとも存在しないかだ。しかしParlerや、陰謀説のその他の避難所で見たように、こんなやり方は結構長く続くのだ。

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ミラー氏やトランプ陣営の元スタッフであるTim Murtaugh(ティム・マートー)氏を通じてトランプ氏と広く関係しているにもかかわらず、元大統領はまだこのアプリで存在感を示していない。Gettrには、スティーブ・バノン氏(フォロワー数84.7万人)やMike Pompeo(マイク・ポンペオ)氏(フォロワー数130万人)など、トランプ氏の周辺にいる人物のプロフィールはあるが、トランプ氏を検索すると、非公式のアカウントしか出てこない。Bloombergの記事は、トランプ氏にはこのアプリに参加する計画がないという。しかし、ソニック・ザ・ヘッジホッグのポルノでのGettrの優位を見れば、彼を非難するのは気の毒だ。

アプリの技術的な問題やトランプ氏の不在が、Gettrへの関心を薄めるだろうか。Sensor Towerの推計によると、Gettrは6月以来、グローバルで130万インストールされている。米国に次いでブラジルが、このアプリの第2の巨大市場だ。

ネットワーク上のトランプ派のエコシステムは、2021年半ば現在も散在して残っている。FacebookやTwitterの上でトランプ氏は禁止され、QAnonの陰謀説ネットワークも歓迎されていない。そんな中でGettrは、メインストリームのソーシャルメディアから追放された多くの人たちの避難所と自らを位置づけている。しかしGettrは初期からの問題が山積みしており、Twitterの雑なクローンが世間の話題になるのも、ここらで終わりなのかもしれない。

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カテゴリー:ネットサービス
タグ:GettrSNSドナルド・トランプ

画像クレジット:Drew Angerer/Getty Images/Getty Images

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(文:Taylor Hatmaker、翻訳:Hiroshi Iwatani)

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TechCrunch Japan

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