トークンエコノミーで実現する新しい政治コミュニティ「ポリポリ」のβ版が公開

「正直、政治にものすごく興味があったかというとそんなことはない。ただ政治は世の中に与える影響が多く市場規模も約6兆円と大きい一方で、イノベーションが進んでいない領域。だからこそテクノロジーでもっと良い仕組みを作れる余地も十分にあると思った」ーーそう話すのはポリテック(政治×テクノロジー)分野のスタートアップPoliPoli代表取締役社長の伊藤和真氏だ。

開発中のアプリ「ポリポリ」を通じて同社が目指しているのは、ブロックチェーンを使ってトークンエコノミーを構築することで良質な政治コミュニティを作ること。その第一段階として、トークンを絡ませない同アプリのβ版(iOS)を7月2日より公開している。

3つの機能を持つ政治コミュニティ

β版段階のポリポリは、比較的シンプルな政治コミュニティアプリといえるだろう。

軸となる機能は大きく3つ。気になる政治トピックについて議論したりニュースにコメントしたりできる「議論機能」、登録している政治家の政策や実績を閲覧できる「政治家一覧機能」、政治家へ質問や提言ができる「質問機能」だ。

ユーザーはトークルームと呼ばれるスレッドのようなものを作成することができ、そこで身の回りの政治に関するトピックについてディスカッションすることが可能。選挙前などには各候補者の情報を比較したり、政治家の考えを確認することで正しい情報を収集するツールにもなりえる。

また政治家側には複数のSNSへ同時に投稿できる機能を提供。情報発信の負担を下げるという効果もあるそうだ。

伊藤氏は今の政治が抱える課題として「情報の流通」と「荒れやすいコミュニティ」をあげる。

情報についてはマスメディアの発信できる情報量に限りがあり、どうしても人気政治家やスキャンダルに関する報道が目立つ。反面、政治家がどんな活動をしているのか、どんな考えを持っているのかといった重要な情報は不足してしまいがちだ。

また一部の政治家はSNSなどを通じて市民とコミュニケーションをとっているものの、インターネットを活用して十分に情報発信をできている政治家は少ない。結果的に政治家へ直接質問したり、意見交換したりできる機会もかなり限られる。

かといって政治に関するネットコミュニティはどうしても荒れやすい。自分と別の意見を持つユーザーへの誹謗中傷なども多く、コミュニティにユーザーが定着しない原因にもなっている。

ポリポリのアイデアは、現在のベータ版にトークンをかますことでこれらの課題を解決しようというものだ。

良質なコミュニティ作りのカギを握るトークン

トークン実装後のポリポリのモデル

ポリポリの正式版では独自のトークン「Polin」が発行されるようになり、これがあらゆるシーンで良質なコミュティを作るカギとなるインセンティブの役割を担う。

たとえばコミュニティ内で良い発言をするなど、活躍したユーザーには信頼スコアに基づいてPolinが付与され、反対にコミュニティを荒らすようなユーザーはスコアが下がる仕組みだ。

このPolinは政治家に投げ銭のような形で送ることもでき、個人献金プラットフォームの性質も持つ。信頼スコアによってコミュニティの質を担保することができれば、政治家も余計な炎上リスクを気にせず積極的に情報発信をするようになるかもしれない。

そうすれば従来の仕組みでは実現が難しかった、市民と政治家双方が積極的に意見交換をする議論プラットフォームが生まれる可能性もある。これがポリポリの目指すトークンエコノミーを用いた政治コミュニティの形だ。

「トークンの価値が出てくると、さらにその価値を高めようとインセンティブが働き、ユーザーがコミュニティ内で活発になる。トークンエコノミーのポイントはコミュニティを作れること。うまくインセンティブを設計できれば、おもしろい政治の仕組みができると思う」(伊藤氏)

長期的にはPolinを交換所で交換できる仕組みや、実店舗の決済時に使える仕組みなども整えながら流動性を高め、Polinの価値を高めていく狙い。ポリポリの主なビジネスモデルは通貨発行益、つまりPolinの価値があがるほど収益がでる構造だ。「トークンの価値が上がるような仕掛け」を作れるかどうかは、PoliPoliにとっても重要になる。

個人的には正直このモデルが成り立つのか予想がつかないが、この点について伊藤氏は「そもそも政治家に献金したいという市場が約数百億円ある」ことに加え、「アンケートによって集めたユーザーのデータを企業や政治家がPolinを使って取得できる仕組み」を設けることなどで、トークンを買いたいと思う理由を作っていきたいという。

なお仮想通貨を用いた献金については法律が十分に整備されていない領域ではあるが、献金者の情報を取得していれば年間150万円まではOKとされているそう。ただし外国人からの献金は禁止されているため、政治家にPolinを送る際にはパスポート認証をするなど、法律に遵守した形で慎重に設計していきたいとのことだ。

政治×トークンエコノミーに感じた可能性

PoliPoliのメンバー。左から2番目が代表取締役社長の伊藤和真氏

PoliPoliの設立は2018年の2月。1998年生まれで現役慶応大生の伊藤氏を始め、若いメンバーが集まる。5月にはネットエイジ創業者の西川潔氏、Labitの創業者の鶴田浩之氏、F Venturesから約1000万円を調達した。

冒頭でも触れたとおり、もともとは政治にそこまで興味がなかったという伊藤氏。ただ海外のスタートアップなどを調べていると、OpenGovなど政治領域のスタートアップが盛り上がっていることを知った。日本の政治はテクノロジーの活用が十分ではなかったこともあり、チャンスがあると考えこの市場に取り組むことを決めたのだという。

2017年の秋には市川市選挙に合わせてポリポリの原型となるアプリを作成。候補者の政策比較や、候補者に質問や提言ができるという機能を搭載したところ、約1000人にダウンロードされた。

そこから現在のポリポリの構想に行き着くきっかけとなったのは、トークンエコノミーを活用した新しい収益化の仕組みを備えたメディア「Steemit」を知ったこと。「Steemitはトークンの時価総額が約500億円もある。このような仕組みは政治とも相性がよく、今までにない形でマネタイズができるかもしれない」(伊藤氏)と考えたそうだ。

PoliPoliでは今回リリースしたβ版を通じてコミュニティを育てながら、9月〜12月を目処に無料でトークンを配布していく計画。2018年末を目処に完成版をリリースする予定だ。

「『政治家や市民が何か良い発言をすればトークンをもらえたり投げ銭できる』というある種のゲーム要素が大切。PoliPoliでは『政治をエンターテインする』ことをテーマにしているが、政治に興味がないような人でも入ってくるようなインセンティブを設計することで、新しいコミュニティを作っていきたい」(伊藤氏)

投稿者:

TechCrunch Japan

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